年末年始⑦パジャマで会える朝
苦しくて目が覚めた。
「ん……zzz…」
知らない天井
畳
襖
かっくんドアップ
これか、苦しい悪夢の原因は。
「ちょ…」
人の枕に乗るな。
体は自分の布団で頭だけこっちに来てた。
知らない天井も畳も襖も、はっきり覚めた頭でスズの家だと思い出した。
なんだろうこの感じ。
スズの家なんだけど、どっちかというと青井本部長の家だという感覚だ。
枕を引き抜くと、かっくんはゴロっと陣地に帰っていった。
しかしすげえ髪の色だな
どうなってんだ
あれみたいだ
昔家にあった着せ替え人形の髪
エナメルみたいだ
ピアス何個空いてんだ
てかこの爪
足も塗ってんじゃねえか。
これをどうやって更生させろっていうんだ。
昨日、かっくんが風呂に突撃してきたのは、おふざけでもおちゃらけでも何でもない。
『お兄さんお願いします!
パピー好みに変身させてやってくだせえ!』
一般サイズな風呂に二人浸かって、マジなお願いだった。
『絶対嫌』
『そんな~~』
本当はまだ親に会うつもりはなかったらしいが、たまたま会ってしまった。
麻衣ちゃんが忘れていった大学の教科書をこっそり届けに来ただけ。
本当にそれだけだったらしい。
『見た目はまぁ…置いといて
んなら真面目に喋れよ』
『え?真面目に喋ってたよ』
マジで言ってんのか
『チョー緊張した』
うそだろ
俺初めて来たとき吐きそうだったけど。
でもいるよな、真面目さとか緊張とか表に出ないやつ。
俺もたぶんそれだ。
種類違うけど。
『どっか出かければよかったんじゃない?
麻衣ちゃんは門限ないんだろ?
そしたら会わなかったじゃん』
『だってマイマイが心配して~』
かっくんは湯船の湯でブルブル顔を洗った。
『やめろよ、汚えな』
『お兄さんが泊まりで来るのに
助けてあげる人いないと困るでしょって』
「おい、起きるぞ」
「んーー…ムニャムニャ…zzz」
初めて彼女の家に泊まって、何時に起きるのが相場かわからない。
常識値はわからないけど、現在7時44分。
スズの声がする。
今が起き時だろう。
「んん…zzz…ニャー…」
ニャーって何だよ。
「起きろって」
肩の辺りをトンっと叩くと、かっくんはこっちに寝返り、からの
「ちょ…!」
絡んでくる。
バシッ!
「…って~…」
「起きろって」
「兄ちゃん…もっと優しく…」
「ちゃんとやるんだろ、起きるぞ」
断じてこいつのためでは無い
麻衣ちゃんのためだ。
二人で年越しデートしてよかったのに
俺のために…
うちの姉2人にそれが出来るか?
この差に可愛い俺がどんな気持ちか。
マジで連休終わったらあいつらぶった斬ってやる。
布団を畳み
衣服を整え
「あ…待ってお兄たま!」
慌てて起き上がって布団を畳み、かっくんは追いかけて出てきた。
「おはようございます」
リビングを開けると、スズと麻衣ちゃんがお笑い番組を見ながら、大量な広告をチェックしていた。
「あらあら、2人とも早かったわね
ゆっくり寝ていてよかったのに」
キッチンからお母さん。
「気にしなくていいけど
そうもいかないかしらね、まだ」
クスッと笑う。
「朝は何?コーヒー?」
「いえーす!コーヒーお願いします!」
だからしゃべり方な。
「朝霧さんは?」
ここはかっくんに合わせてコーヒーか。
普通コーヒーだよな。
コーヒー飲みそうな風貌してるもんな俺。
「じゃあ僕もコー…」
「こーきお茶にする?」
スズにコーヒーが嫌いだとは話してないけど、スズといるときにコーヒーは飲まない。
「こーきコーヒー飲まないの」
「あらそうなの?
遠慮しないで言っていいのに」
「スミマセン…」
「ギャハハハハ!ウケる~!」
「ホントめっちゃウケるね!」
コーヒー注文して普通にリビングでテレビ。
俺がおかしいのか
かっくんがおかしいのか
わからなくなってきた。
「こーき電気屋さんのチラシあるよ!」
なぜ電気屋さん?
「ほら駅ビルのも!」
初売りか。
そういや靴買ってなかった。
明日にでも行くか。
「スズ、明日初売り行く?」
「え、うん!行く!」
明日初売り、明後日は家でゆっくりしてもいいし、スズがどこか行きたいなら行ってもいいし。
↑毎日会うつもり
お茶を飲み
「はい、ひょっこりはん!」
「スズちゃん似てなーい!」
「変な顔!」キャハハハハハ
今のひょっこりはんは実に可愛かった。
だらだらとテレビを見る朝。
可愛い彼女の可愛いひょっこりはんが、大笑いしながら照れ照れで俺の腕に顔を隠す。
「からの~!お兄たまの陰から!」
「はい!ひょっこりはん!」キャハハハハ
大笑いしながらまた腕に抱きつく。
かっくんにおちょくられるのが面白いらしい。
ゲラゲラ笑って超密着。
可愛すぎる。
なんて素晴らしい元旦だ。
「あ!パピーはーざーーっす!」
リビングのドアに背中向けだった俺は気付かなかった。
「朝霧くん」
お父様が元旦早々、見たくない物を見てしまっていたことに。
スズはしっかりと俺の腕に絡みついていた。
「えっとこれは…」
あーー…絶対怒ってる
こんなくっついて…
「あ、お父さん!
あけましておめでとー」
大笑いしてたままの笑顔で、スズがドアの方に振り向く。
「早く初詣行こうよ!」
ナイス、スズ
青井本部長は微かに目元が下がった。
「青井本部長、明けましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします」
「朝霧くん」
「は…はい」
「年始の挨拶は来なくてよろしい」
昨日遅くまで飲んで、割と打ち解けて喋ってたと思うんだけど、それはスズがもう寝てしまっていなかったからか?
やっぱスズとられた感はこの先も否めないかもしれない。
とはいえこれは怒ってるんじゃ無い。
挨拶回りに時間取られる俺への優しさだ。
「ありがとうございます」
「お父さんなに怒ってんの~」
「着替えてきなさい
いつまでそんな格好してるんだ」
あ
昨日寝たままのスウェットに家着用のボーダーのロンT。
スズも可愛いパジャマのまま。
チェックのオーソドックスなパジャマ
パジャマ姿が可愛すぎる。
上に羽織ってるカーディガンの袖が手を半分隠してしまってるのも可愛い。
スズが広告を重ね纏めて立ち上がった。
「着替えてくる~」
「あ、俺も」
「じゃあかっくん、先に洗面所行こう」
「ケッケーオッケー」
何語だそれ。
リビングを出るとスズがクルッと振り向く。
「なんかいいね、朝」エヘヘ~
「何が?」
「こーきの家にお泊まりとかしたいな~」
ぐはっっっ…!
↑可愛さの会心の一撃をまともにくらった
抱きしめてチュッチュ出来ないのになんたる拷問。
想像してしまう。
パジャマのスズがうちにいるところ。
『こーきおはよ』
『んー…おは…』
『はちみつ紅茶できたよ』
キッチンから寝室に微笑みかけるパジャマスズ
『パンケーキももうすぐ出来るよ』
眠い目をこすりながら起きる休日の朝
パンケーキの甘い匂いが家中に広がる
洗面に向かう途中でキッチンに寄り道して
『もぉ~くすぐったい~』
ギュからのすべすべ頬にチュからの
こっち向かせてからの
『大人のがいい…』
や、朝でも我慢できないだろそんなの
手つっこむわパジャマの下に
そのままキッチンでことを成すだろ!
「こーき?」
「あ…」
「どーかした?」
「ごごごごごごごめん!何でもない!」
↑妄想が止まらない
そろそろ限界
「ねぇ写真とろ」
「え、写真?」
スズがカメラマークをタップする。
「あ、正月記念?
ちゃんと着替えてからがよくない?
しかも廊下だし」
「いいの」
横にピタッとくっついてインカメラをこっちに向けた。
「パジャマ記念なの」
カシャ
「すぅさん…」
赤くなったスズの上目遣いがこっちを見る。
「それ…送っといて」
って言ったら益々赤くなり、それが伝染して
俺も顔が熱かった。
着替えて荷物を整え、窓を開ける。
そしてさっき送ってくれた今の写メをホーム画面にした。
今だけ
仕事が始まったら黒の無地に戻すから。
「……」
嫌な予感がした。
ラインをタップ
タイムラインをタップ
「やっぱり…」
昨日の夜から今のパジャマ写真まで、ハッピーニューイヤーと題したタイムラインに上がっていた。
PPPP
『こーくん寝ぐせついてますよ♡』
静香だった。
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