大魔王、謁見
スズが玄関を開ける。
こっちを振り向いてタイミングを伺うこともなく。
「ただいま~」
玄関からあふれる空気。
薔薇柄の玄関マット
ぴかぴかの床
奥からパタパタとスリッパの音がして
心臓が最高潮に暴れる。
「いい匂いする~ラザニアかも!」
やった!と笑ってスズは靴を脱ぐ。
「上がっていいよ、上がらないの?」
「や…」
そんなわけにいくか。
すぐそこのドアが開く。
「まぁまぁお待ちしてましたよ」
優しそう
それが第一印象。
スズはお母さんに似てたのか。
「すずの母です」
「朝霧です
その…申し訳ありませんでした」
「いいんですよ」
お母さんはチラッと中を気にしながら少し距離を詰め、
「言いにくいような環境を作ってしまったのは
こちらですから
すずのことはどうしてもまだまだ可愛いんですよ」
クスクスッと笑ってそんなことを言った。
「どうぞ、上がって下さい」
「あのこれ…」
「気を遣ったでしょう?
ごめんなさいね、遠慮なくいただきます」
さっきまで狂ったように暴れていた心臓が、落ち着きを取り戻した。
凄いなと思った。
なんだろう
うちの母親にはない母親のオーラ。
青井本部長を見えないとこで支えてきたんだなと思った。
「お邪魔します」
「どうぞ」
そのドアから入ると
「お父さん、朝霧さん見えましたよ」
「お父さん余計なこと言わないでよ!」
奥のソファーから立ち上がった青井さんと目が合った。
考えていた台詞は一瞬でぶっ飛んだ。
「そんな格好だと誰だかわからんな」
「も…申し訳ありません…」
やっぱスーツだったか!間違えた!
「昨日は?」
「昨日はホント申し訳…」
「佐野くんたちは二次会行ったんだろ」
「あ…はい」
そっちの話しか。
えーっと…なんだっけ
昨日のことを謝る。
ん?何を謝る?
付き合ってることかくして挨拶もなかったこと。
知らなかったとは言えスズに手を出したこと。
いやいやいや
手を出したとか言えるか。
正確には手はまだ出してないけど。
大事なお嬢さんに禁止事項の男女交際をさせてること
いやでも悪いことはしてない。
謝るなら付き合うなって感じだし。
そんな別にピチピチJKに下心で付き合ってるわけじゃない。
マジで嫁にしたいし。
そうかこれは娘さんをください!のやつか!
んなわけないか。
あーーー!せっかく言うこと整理してたのに!
「朝霧さんこちらにどうぞ。
お昼食べてないんですって?
少し早いけどお夕飯にしましょうか」
夕飯をご馳走になる予定はなかった。
だってなんか色々謝りに来たのに。
「どうぞどうぞ
いつもは和食なんですけどね
朝霧さんいらっしゃるのに地味だとすずが怒るから
すずの好きな物にしたんですよ
お口に合うかしら」
「こーきお腹空いたよね
お昼ご飯食べてないし」
「お父さんビール?」
どうしよう
「朝霧さんは?」
「いえそんな!車ですし!」
飲むとかそんなん出来ねぇから!
「歩いて赤瀬浦に帰ればいいじゃん」
「まぁ赤瀬浦なの?
じゃあ私送っていくわよ
明日の朝車取りに来たらいいじゃない」
とういうことで押し切られる。
「私注いであげる!」
「嬉しそうねすずちゃん」
スズがビールを注いでくれた初めて記念。
「おっとっとっとっと」
注ぐ人の台詞じゃないが実に可愛い。
「や…スズお父さんに」
「朝霧くんのお父さんじゃないが」
しまった…
「夕飯食べても許したわけじゃないからな
まさか甲田ホールディングスの朝霧くんが鈴を…」
ですよねって思ったとこ、お父さんの言葉を
「お父さん」
低音のお母さんの声が遮る。
「朝霧さんは取引先の方ではありません
すずちゃんの彼氏です」
「お父さん…」
スズがビールの缶を置いた。
だから俺もグラスを置いた。
「こーきのことホントに好きなの
だからお父さんに応援して欲しいの
お父さんもこーきのこと
いいやつだって言ったじゃん
お酒飲んで楽しいんでしょ?好きなんでしょ?」
「あ…あの!」
なんだっけ
何を伝えなきゃいけない
だーもう!表面繕っても仕方ない!
思ってることを伝えないと。
「前にお伝えしたとおり…」
青井さんが重いため息をつく
「将来を考えるくらいちゃんとその…」
「鈴」
「はい…」
「それ貸しなさい」
青井さんがビールの缶を取る。
「明日の朝、車取りに来なさい」
缶を俺の前に差しだし
「ほら」
グラスを出せと缶を揺する。
グラスを出すと、俺のグラスにビールを注いだ。
「お父さんいいの?!オッケーってこと?!」
「大事な娘だ」
「はい」
「娘が傷つくようなことがあったら
契約は切らせて貰うからな」
やばい…泣きそうだ…
「昨日の…」
何か言いかけて、青井さんは自分で自分のグラスにビールを注いだ。
「昨日のピアノは…」
グラスを合わせることはなく、ゴクゴクと飲み
目線は迷って下を向いた。
「鈴に弾かせてくれてありがとう」
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