お許し
「こーき、ポテサラ食べて?
ちょー美味しいんだよ」
スズがポテサラをぼてっと皿に落とす。
「すずちゃん、あんまりハードル上げないで」
「こーきラザニアは?」
「うん」
ハッキリとお許しが出たわけでもないけど、これはオッケーということなのだろうか。
青井さんは黙々と飲んだ。
「あ…青井さんどうぞ…」
空になりそうだったから、震える手で缶を差し出した。
「朝霧さん、お父さんでいいんですよ
そりゃ朝霧さんのお父さんではないけど
すずちゃんのお父さんってことですものね」
「お父さんスズが注いであげよっか~」
喉を通らない、と言うほどでもなくなった。
だけどさすがに緊張は取れず、頑張って食べた、そんな感じだった。
でも好きなメニュー
やはりスズとは好みが合う。
「こーきポテトは?」
ケチャップをたっぷり纏わせたポテトが口の前に来る。
ピッタリ横にくっついてるスズ。
離すわけにも離れる訳にもいかない気がしてた。
「鈴、そんなにくっついたら食べにくいだろ」
って、目線は俺。
きっと心から許してない。
俺でも俺じゃなくても、可愛い娘を盗った彼氏だ。
「朝霧くん、明日はお礼回りだろ?」
「はい」
「うちには来なくていいから」
グサッッ!!!
マジすか…
「ここで会ったからいいって事だ
一件減ればそれだけ余裕がでるだろ」
あ…そういう意味か
「あ…ありがとうございます
じゃあお言葉に甘えて…」
甘えていいのか?
「こーき、次のお休みいつ?」
「え、次?えー…いつだったっけ」
「また平日?」
「たぶん…週末は東京だったし」
「えぇ!!週末出張なの…?」
「あ…ごめん、昨日急に決まって」
「じゃあイブは?」
そうだ、クリスマスじゃねぇか…
「ごめん…」
「お忙しいのね
土日がお休みじゃないの?」
「基本は土日なんですけどそうもいかなくて」
「じゃあ25日は…」
そのあたりから年末の挨拶回りだ…
現場打ち合わせも入ってたし…
「初めてのクリスマスなのにーー!」
「鈴、仕方ないだろ
それは言ってはいけない」
「そうよすずちゃん
可愛いネックレスもらってたじゃない
クリスマスプレゼントなんでしょ?」
「だってぇ…」
「それにうちは仏教だ」
「朝霧さん、お洋服買っていただいたそうで
お礼遅くなってごめんなさいね」
「いえそんな…!」
「色々買い与えられたら困るな
甘やかさない教育方針なんでな」
う…
「あ、じゃあ25日は
うちでお夕飯食べたらいいじゃない」
え?
「お仕事何時頃終わります?」
「早く抜けたとして19時…
予定を入れなければそのくらいには」
「じゃあすずちゃん
お仕事終わるまでお宅で待ってたら?
そしたらほら、うちまでの時間ドライブじゃない」
「いいの…?」
「お父さん、そのくらいなら構いませんよね
外をウロウロしなければ危なくもないし」
えぇ?!
クリスマスに呼んでくれんの?!
「カレーうどんは鈴か」
は?
「は…はい…」
「和歌山に行ってた彼女は鈴か」
「そ…ですね」
青井さんがため息をつく。
俺が昨日した答え合わせをしてしまったらしい。
「門限18時は変えない」
「わかったってば、しつこいな」
「朝霧くんが休みの日は21時」
何?
スズが期待に満ちた顔でぱっと俺を見る。
「ただし朝霧さんがちゃんと送って帰れる時だけよ」
「いいの…?」
「成績を落とさない
ピアノは毎日弾く、いいな?」
「お父さんありがとう!大好き!」
「大嫌いって言ったり忙しいわねすずちゃん」
「お父さんに向けた大好きじゃない気がするがな」
「拗ねない拗ねない~」
「お…お父さん
じゃなかった青井さん!」
マジか…
やべぇ…嬉しい…
「ありがとうございます」
これはお許しだよな?
付き合っていいと、許してくれたんだよな。
「こーき、ありがと」
「スズ」
「やっと笑った光輝」
「え?」
「昨日からずっと、ありがとう」
嬉しすぎる。
「ね、金曜日は遅くなってもいいって
追加してくんない?休みの前だし」
スズがもう一つ提案するが金曜日は…
「いいぞ」
「え、いいの?」
「どうせ金曜はほぼ接待だろうけど」
それな。
「なんだ…お母さんケチャップおかわり…」
「もう駄目
ケチャップばっかり食べて」
「あ、スズそうだケチャップ
買いに行こうと思ってたのになかなか…」
「ケチャップばかり与えんでくれるか」
「スミマセン…」
「買いに行くってどこに?」
「なんかね、ハンバーグの可愛いお店のね
手作りのケチャップがちょー美味しいの
こーきが連れてってくれてね」
「ハンバーグの店?」
「お誕生日の謎が解けましたねお父さん」
「誕生日もお前か…!」
許したのか許してないのかよくわからない。
.
「では、お邪魔しました」
見送ってくれたお母さんと青井さんに玄関で頭を下げる。
お母さんは送ると言ってくれたけど、さすがにそこまでお世話になれない。
「私表まで送ってくる!」
「下まで行っちゃ駄目よ」
青井さんはは何も言わず、玄関を開けるとさっさとリビングに帰っていった。
「大丈夫よ、怒ってる訳じゃないわ
どうしていいかわからないのよ
急に朝霧さんが彼氏として家に来て」
クスクスとお母さんは笑う。
「朝霧さん」
「はい」
「すずのこと、お願いしますね」
お母さんはスズの頭にぽんと手を乗せた。
「可愛い可愛いって
籠の中に入れて育ててしまったから」
「僕の方こそよろしくお願いします」
「しっかりした方に巡り会ってよかったわ」
「いえそんな」
「母親にはわかるんですよ、娘のことは」
ん?
「恋をしてるんじゃないかな、とか」
「娘の身に何が起こったのか…とか」
え…っと
「すずのこと、大事に考えて下さってるから
安心してお任せ出来ます」
「は……はい…」
走馬灯のようによぎる、今朝の出来事。
「すずちゃん、長くならずに入ってらっしゃいよ」
「うん」
「じゃあ朝霧さん、クリスマスに」
「はい…お世話になります…」
お母さんは中に入って行った。
「こーき?どうしたの?」
「や…」
ラスボスはこっちだった…
「そこまで行く」
「危ないからいいよ」
「やだ、チューしたい」
「ちょっと無理かな…」
手を繋いで門扉から出た。
「え、どっち行くの?」
「ここからなら馬由中通った方が早いからあっち」
下るのと反対方向へ。
あまり遠くまで行くと危ないから、そこの曲がり角まで。
「こーき、今日はありがとう」
「え?」
「だってなんか
いっぱい頑張ってくれたでしょ?
お父さん怒ってるのに突入して」
「そんなことないよ
許してもらえて良かった
会える時間も増えたし」
「帰ったらお父さんにサービスしとく
肩揉むとか目の前で勉強するとか」
「よろしくお願いします」
可愛い。
つい撫でてしまったサラサラの髪。
「ご近所の目があるからマジでやめとく」
「うん」
離れたくないな。
「スズ、おやすみ」
「うん…おやすみ」
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