光輝とお父さんの関係

こーきはさっきからクローゼットとにらめっこ。


はちみつの優しい甘さの紅茶をズズズ。

こーきのお茶は床の上で、もう湯気出てない。


「お茶冷たくなるよ」

「スズ、これどう?」

「カッコいい!」

何着ても似合うと思う。

スーツはもちろん、カジュアルなシャツにデニムも、夏のハーパンも。


こーきが当てて見せたのは、白シャツにニットに黒のパンツ。


うん、カッコいい

大人っぽい。


やっと座ってカップを取り、ズズズって緑茶を飲んだ。


かと思ったら


「スズ行こう」

「え、早くない?夕方って言ってたよ。

 今から和子おばちゃんのお見舞いに行って

 お買い物とかしてくるんだって」

って言ってるのに車がビューーンと


「ちょっと髪切ってくる」


到着したのは美容室だった。


しかもカリスマっぽいお洒落なとこ。

私、子供の頃から行ってる近所の美容室。



「朝霧様どうぞ」

「スズ、そこで待ってて」


綺麗なお姉さんが光輝を連れて行く。

にこやかに話しながら髪を触る。

仕方ないんだけど何、このもやもや。

私もこーきの髪の毛触ってみたい。


「光輝の彼女?」

話しかけてきたのは髭なおじさん。

「俺ね光輝の高校の同級生

 ここのオーナー

 光輝こんな可愛らしい彼女いたんだ」

「えっと…」

なんて言えばいいんだろう。

「髪、何もしてないの?」

さらさらっと私の髪をすくって落とす。

「伸ばしてる?」

「勝手に伸びます」

「う…うん、髪ってそんなものだから」


「おい健太郎、勝手に触るな」


「光輝、彼女カットモデルにしていい?」


え?モデル?


「や、俺に聞かれても」

「俺にカットされてホームページ載らない?

 今時間ある?」

「健太郎今はやめてくれ!

 無傷のまま返したいんだ!」

「なんだよそれ」

「今から家にご挨拶だ…」

「マキちゃん七三にしてやって~」

「了解で~す」


全体的に短くなっただけで、特に髪型が変わったわけでもないけど、ちょー爽やか。


「よし、好青年っぽい」



美容室が終わったとこで時間はまだ早い。

それから車が向かったのはデパート。

「何するの?」

「やっぱお菓子か

 あ、あのタルト好き?」

「うちに?」

「うん」

「いいってそんなの」

「よくないんですよスズさん」

手を繋ぎ、エレベーターを地下に降りる。

なんか箱に入った上等そうなお菓子と

「スズ、クッキーいる?

 入れ物可愛いのあるぞ」

「うん!」

可愛いクッキーを買い。



「いざ…出陣」



将軍が刀を抜いた。





.


お腹空いたな

お昼ご飯食べてない。


ちらり盗み見た運転中のこーきは心ここにあらず。

空腹ってなに?状態。


緊張するのかな

お父さん怒ってたから?

そうだよね。

こーきのお父さんが怒ってたら、緊張するし嫌だなって思う。

私だったら行きたくない。



「こーきいいよ?行かないで」



「は…?」


「だって嫌じゃない?」

「や…嫌とかそんなんじゃなくて」

「家出やめるから。

 シカトしてたらそのうち機嫌直るし」


はぁ…って小さなため息。


「そういうことじゃないんだ」

「どういう事?」

「お父さんにもお母さんにも

 付き合うこと許して貰いたいから」

「なんで?もっと門限とか厳しくなるかもよ?」

「なんて言えばいいかな」


車はスーッと赤信号で停まり、こーきは私の手を握る。

「理由は色々ある。

 将来お嫁さんになって欲しいくらい

 スズと真剣に付き合ってるのわかって欲しいし

 こそこそ付き合ってたこと謝りたいし」

「でもそれは私が言わないでいいって言った!

 こーきは親に会うって言ったじゃん!」


「あとな、青井さんに…スズのお父さんには

 すごくよくして貰って

 好きだし尊敬してるしこのままじゃ嫌なんだ」


「は?お父さんを?」


「スズは自分のお父さんだから嫌うだろうけど

 いい人だよ

 青井さんを嫌いだと言ってる人を俺は知らない。

 困ってたら助けてくれる信頼できる。

 何度も二人で飲みに行って

 すごく楽しかったんだ」


信号が変わって車はまた走り出した。

こーきの手は私の手から離れる。


こーきのそんな話しに、何故かわからないけど


涙が出た。



お父さんなんて嫌い



私の知らない

こーきとお父さんの関係



そこまで考えられなかった。



自分のことばっかりで。



「スズ、ごめんな」

「こーき悪くない」

「焦ってんのも緊張してんのも

 もっと隠さなきゃだった

 不安にさせたよな…」



「彼女の親に会うなんて初めてだから

 ちょっと緊張してしまって…ごめん」




時間がまだあったから、トイレがてら寄った馬由が浜のツタヤ。

そこで立ち読みしたりレンタルCD見たり。

「借りようかな~どうしよ」

「スズ音楽聴く?」

「カラオケの練習しなきゃ」

「あ、スズ熱唱のトリセツ見よう」←杏奈が送ったヤツ

「やめて!」


そんなことしながら刻一刻とその時は迫り


「車は…」

「停めれる」


初めて高橋商店で降りることなく


「その先、薔薇のアーチのとこ」


「ここか…通ってたわ…」


こーきが初めて家まで来た。

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