男女交際禁止の大魔王
ホテルの玄関まで一緒に行き、山根先生は帰っていった。
お父さんは本心なのかわかんないけどお礼を言い、山根先生は悪くないのに謝った。
「お母さん駅に来るのか?」
「うん」
お父さんは歩き出す。
無言のまま。
怒りたいことも聞きたいことも山ほどあるでしょ。
なのになにも言わないのは、お父さんの沸点を超えてしまってるから。
前もあったこんな事。
中学の時、友達が学校サボるのがカッコよく見えて、私もウソをついて友達とサボった事があった。
バレるに決まってるのに。
友達はみんな、バレたあとに親に反抗する術を身につけていて、でもそれがない私は、職員室で頭を下げるお母さんを、ただ呆然と見ていた。
悪ぶって反抗することも謝ることも無く。
どんなにお父さんに怒られるだろうって怖かった。
だけどお父さんは怒らなかった。
小言一つ言わなかった。
今みたいな無言。
それが余計に怖くて悪ぶってサボるのはやめた。
「お父さん…」
短いため息
「お母さん来てるぞ」
ロータリーの隅にうちの車が見えた。
お父さんが後部座席のドアを開けると
「え…え?お父さん?!なんで」
まさか一緒に帰ってくると思ってないお母さんが驚く。
お父さんは荷物を入れドカッと後部座席に座った。
いつもは前に乗るくせに。
私が助手席を開けると、はてなマークのお母さんがシートに置いてたバッグをどかした。
「え、すずちゃんそのお洋服どうしたの?
学校から借りた衣装?」
「えっと…」
「お父さんと一緒だったの?」
お母さんはバックミラーでお父さんを見た。
お父さんは無言。
お母さんはもう察知したと思う。
何かがあったことを。
車はゆっくり駅前のロータリーを出て行く。
「あのねお母さん」
「どうかしたの?」
前を見たまま声だけが私の方を向く。
「私、彼氏がいるの」
「うん」
え、驚かないの?
「それで?どこのどなたなの?」
お父さんのため息が聞こえた。
「今日のピアノは…
その彼氏の会社のパーティーで」
「あ…そうなの?
だからこんな時間だったの?」
「うん」
またミラーでお父さんを見た。
「そこで一緒だったの?お父さん」
「うん」
重い
なんて重い空気
私、悪いことしたのかな。
黙ってたから?
彼氏がいること、依頼者が彼氏だったこと。
無言のお父さんが発する圧が凄い。
「ちゃんと弾けたの?
彼が恥かかないようなピアノ」
お母さんは反対しないの?
彼氏がいるの怒らないの?
「たぶん…
部長さんも良かったって言ってくれたし
どこかの社長さんがうちでも弾いてほしいって
山根先生に名刺くれたりした」
「そぅ!よかったじゃない、じゃあ大丈夫ね」
お母さんは笑った。
嬉しそうに安心したみたいに。
「どんな方なの?どこにお勤めなの?」
「甲田ホールディングス」
「あ…名刺の?」
「うん、黙っててごめんなさい」
「どんな方?なんで出会ったの?」
お母さんは反対じゃ無いのかな。
「電車で初めて会ってね
私の方が先に好きになったの。
こーきは全然私なんか相手にしてくれなくて
でもしつこくつきまとって
やっと好きになってくれたの」
「アイロンは彼のため?」
「あ…」
「クッキーも始発の電車も?」
バレバレだったの?
「お父さん」
お母さんはミラーを見る。
「ごめんなさい」
「すずちゃんのことが心配だから
お付き合いしちゃ駄目だってお父さん言うのよ」
「でもこーき優しいよ?」
「えぇ、わかるわよ」
「駄目だ」
「なにが…
何が駄目なの!悪いことしてない!」
「すずちゃん」
「お父さんこーきのこと知ってるんでしょ…?
全然悪い人じゃないのわかるでしょ?!
優しくて真面目で仕事頑張ってて…」
「あ、お父さんがよく飲みに行ってる方?
甲田ホールディングスの若い子とよく行くわよね」
「そうなの…?」
「やだ、すごい偶然じゃない」
「男女交際なんかまだ早い」
じゃあいつならいいの
彼氏なんてみんないるよ
普通だよ
「いい方なんでしょう?
仕事以外でも飲みに行くほど」
返事にも取れるため息が聞こえた。
窓の外は市街地を抜け、海が開けてきたとこ。
「門限にはちゃんと帰してくれて
成績が落ちることも無くて
ピアノも弾かせてくれて
ちゃんと考えて下さってるじゃない」
「こーきが勉強見てくれたの!
だから二学期の成績よかったの!」
「あらそう、凄いわね」
「嘘ついて外泊させたり
遅くまで連れ回されたり
悪いことに巻き込まれたり傷つけられたり
それが心配だったんでしょう?」
「そんなこと…こーきしないよ」
「同じくらいの年の子とこっそり付き合われるより
お父さんのお墨付きのちゃんとした方との方が
安心じゃないですか?」
「朝霧くんは駄目だ」
「なんで…」
「いい青年だ」
「じゃあいいじゃん!何が駄目なの!」
「とにかく
男女交際はダメだ、許さない」
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