ゴージャスホテルデート
「つきましたよ~」
タクシーのドアが開くとイケメンホテルマン登場。
「お待ちしてました、青井様」
さり気ないエスコートからの、重い学生カバンをいつの間にやら持ってくれる。
「こちらでございます」
パーティーにお呼ばれしたお嬢様でもないのになにこのゲスト感!!
足が浮く~~
「ご準備できてますよ」
エレベーターの扉が開くとそこは
「えぇ!!気が早い!!」
ブライダル
「や…あちらで」
の併設の美容室。
ヨーロピアンでゴージャスな美容室。
「いらっしゃいませ」
小学生の頃から通ってる近所の美容室とは違う。
お城のお姫様みたい。
魔法に掛けられるシンデレラみたい!
「どうぞ、こちらにお着替え届いてますので」
「はははははい!」
これが届いてるって事は、こーきももうここにいるんだよね。
始まる前に会えたりしないかな。
一目でいい
一言でいい
頑張れって言ってくれたら、指の痛いのなんか飛んでっちゃうのに。
この前買って貰ったワンピに着替えたら
芋っ子JKへんしーーん!
「よし」
魔女みたいな美容師さんが、私の背後から鏡を覗きながらツブヤキ、私の首からよだれかけみたいなのを外した。
その時だった。
「どうぞ、ちょうど終わりましたよ」
そんな声が聞こえて、鏡越しに見えた入ってきた人は
「こーき!」
フフっと笑って目をそらした。
目をそらすのは恥ずかしいから。
私はこーきのその仕草がたまらなくトキメク。
「スズ、似合ってる」
「ホント…?」
アップの髪も
お化粧した顔も
なんだか恥ずかしい。
「可愛いよ」
トキメキ急上昇しすぎて泣きそう。
「スズ向こう向いて」
「え?」
こーきは私の向こう側をツンと人差し指で指す。
クルッと回れ右。
「なに?」
え、今更だーれでしょ?的な?
もうアンサーわかってるけど。
「ちょっと早いけど
これはクリスマスプレゼントな」
しゃらんと首元に触れた冷たい感触。
ま…まさか
アクセサリー的なやつーーーーー!!
サプライズのアクセサリーなんて!
「いいの…?いっぱい買って貰ったのに…」
「それは必要経費、これはプレゼント」
うわーーん!
憧れの彼氏からサプライズアクセサリーー!
「……」
「どんなの?見えない鏡見たい」
「ちょ、待って…」
「何色?」
「待って…どうなってんだこれ」
首の後ろでまだごにょごにょやってる。
まさか
不器用?
「あの…やりましょうか?」
魔女、見かねて助け船出航。
「すみません…」
白旗を揚げた彼氏は魔女に託した。
恥ずかしそうなこーきが前から私を見る。
「はい、つきましたよ」
鏡に近づき写したそれは
「ト音記号だ…!」
華奢な線が表した小さなト音記号。
他に装飾する物はないそれだけのシンプルな。
「よかった」
「え?」
「嬉しそうで」
嬉しいに決まってるじゃん!
こんなサプライズ初めて!
しかもなんでト音記号!
こーきが私を思って選んでくれたのがまるわかりだよ。
「よかったですね~」
「お似合いです」
「チャペル開ければよかったですね」
「えへへ~」
しかもこんなみんな見てるとこで。
「こーき、ありがと」
「行くか、控え室とってあるから」
「こーき、ありがと」
「始まる前に少し食べといて」
「ありがとってば」
照れ隠しなのにしつこくてごめん。
こーきは小さなため息をつく。
「ずっとしてて?」
恥ずかしそうにそう言って、ト音記号を指先でちょんとつついた。
何が嬉しかったって。
もちろんサプライズのプレゼントはそうだし、選んでくれたのがト音記号ってとこもだし、恥ずかしそうなこーきも嬉しいけど
何よりも
ネックレスを付け慣れてないとこが
なんかめちゃくちゃ嬉しかったよ。
ピンクベージュのコートは腕に掛け、小さなハンドバッグを手に控え室に向かった。
制服を入れた袋と重い学生カバンはこーきが持って、私は優雅にカーペット敷きのホテルを歩く。
「どうぞ」
一室のドアを開けると、そこはやっぱりヨーロピアン。
ソファーにテーブル、小さいけどシャンデリア。
「うわご馳走!」
「これパーティーで出るやつ
静香が一人分控え室にって予約してたから」
「とりあえず撮っていい?」
「とりあえず食べていい」
「あ、その前に記念写真撮りたい、これ貰った記念」
「は?」
「早く」
並んでくっついて
「ハイチーズ」カシャ
「それあとで送っといて、ドレスアップ記念」
「可愛い?」
「うん可愛い」
って、誰もいないとは言え
チュって。
「これ仕事じゃ無かったらな」
「ゴージャスデートだね」
こーきが笑う。
笑って頭撫でようとして、セットされた髪に行き場を無くした手が宙ぶらりん。
それにまた笑う。
「好きなものだけでも食べとけよ」
「うん
でも食欲ないな~胸いっぱい!」
「緊張してる?」
「ちょっとだけ…やらかしたらどうしよ」
「俺がスズにピアノ頼んだのはね」
「うん」
それ聞きたい。
「スズのピアノがあると楽しくなるんだ」
「楽しく?」
「スズのピアノ聞いてたらみんな笑ってるよ」
「だから頼んだの?」
「うん、いい雰囲気になるんじゃないかなって。
だからスズはいつも通り弾いてくれたらいい。
上手に弾こうとか
こんなパーティーだからとか
俺が頼んだとか考えないでいいから」
そっか
「いつものスズさんでお願いします」
なんだか笑ってしまった。
これまでの緊張はなんだったの。
「じゃあいただきま~す」
とりあえずローストビーフを食べた。
「うまっ!」
「ひとくちちょうだい」
「これも美味しそうだね」
「スズ、そのポテサラみたいなのちょうだい」
「うん!」
お肉も野菜もポテトみたいなのも、これから緊張の本番なのに高級料理を堪能した。
ほんの束の間、こーきと高級ホテルデートだった。
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