初めてのプレッシャー
本番まであと4日。
「ちょっとスズ大丈夫?」
「ほらスズちゃん、ハニーデップ」
「いい…」
短縮授業だったから、放課後無理矢理連れてこられたミスド。
「食べないと本番まで持たないって」
「昼も食べてないんだろ?」
あんま弾きすぎて、何弾いてるかわからなくなる地獄の無限ループに突入中の私。
緊張とかプレッシャーとか未知の世界の見えない恐怖で食欲が無い。
「あいつのせいだ
あいつがスズにピアノ頼んだからだ」
「出た、英介の朝霧嫌い」
「諦めなよ英介」
「スズの弱り切った姿を見せてやる
彼女にこんな仕打ちとか底辺だ」
って、テーブルに頭ゴロンって憔悴していた私を撮る英介。
「え…」
「は?お前朝霧さんの連絡先知ってんの?」
ホント
何で?
「この前のパンケーキ
スズのバスガイド姿と引き替えに
あいつのおごりだった」
そうなの?
全部こーきが出してくれたから悪いなって思ったの。
悪いって思ったらまた怒るかもだけど、この前はまだ事前だったから仕方ないの。
いやそんなことじゃなくて
「こーきが私のバスガイド見たいって言ったの?」
「しつこいしつこい
エアードロップにしようと思ったのに
なーんか上手いことならなくてしゃーなしライン」
「こーきが私を…!」
「今更そこときめくんだ」
「トータルコーデでときめこうよ」
「英介、弱り切ってるとはいえ
スズの写真送ったら喜ぶんじゃない?」
「あ…しまったー!カンバーック!」
こーき私の写真で喜ぶんだ。
絶賛トキメキ中
「スズ」
「ん~?」
英介がいきなりガシッと肩を抱く。
そんで顔をくっつける。
「……えぇ!?」
「ハイチーズ」
(^^)v
「ちゃんとピースはするんだ」
「スズちゃんすぐ乗せれるな」
「くらえ朝霧!送信!」
*
「…っんじゃこれ!!」
ガッシャン!
「朝霧さん何してんすか!」
「朝霧くん静かにね~」
「スマホ投げつけてるぞ朝霧が」
何勝手に触ってんだクソガキ!
顔が近い!
スズ気付け!友達だと思ってるのはスズだけだ!
くっそーー…何か仕返し…
でもスズの写メなんか送ってやりたくねえ!
キョロキョロ
ん?いいもんミッケ~ニヤリ
フフフフフ…
どうだ気持ち悪いだろ!
*
「気持ち悪!何送り付けてくんだ!」
「え、何?」
「窓に張り付いてる虫…」
「蛾じゃね?それ」
「うわぞわる!」
「こんな時期に虫なんて、温暖化だな」
「英介ズルい!私そんな写真もらってない!」
それはオフィスから見た外の景色だった。
あの窓からはそんな風に見えるんだ。
「視点そこかい」
「英介送ってやんなよ」
「え、気持ち悪いからもう消した」
.
本番3日前
「すずちゃんご飯よ」
「あとでいい」
背中から聞こえたお母さんの声に、振り向くことも手を止めることもせず答えた。
ピアノを弾けるのは20時半まで。
家での決まりだった。
隣は小学生の子がいるし、お向かいは幼稚園の男の子。
遅くまでは弾けない。
呼びに来たお母さんに、お父さんが何か言ってるのが聞こえたけど、そんなことどうでも良かった。
弾かなきゃ
こんなに切羽詰まることはなかった。
コンクールでも発表会でも。
それとは全然違う
弾いてなきゃ不安だった。
ピアニストとして求められるなんて
初めてだから。
「すずちゃん!」
お母さんの声でハッとした。
時計は20時半を少し過ぎていた。
「ごめんなさい」
「お腹空いたでしょ」
楽譜を閉じ、鍵盤の蓋を下ろす。
もっと弾いていたかった。
想像してしまうの。
足がすくんで指が動かない、ピアノの前で立ち尽くしてしまう自分の姿。
こーきががっかりするかもしれない
こんなピアノならいらなかったって
でも無理に笑ってありがとうって言うかもしれない
なんであんなピアノ頼んだんだって
偉い人に怒られるかもしれない
怖いことしか思い浮かばない。
「終わったか?」
「お腹空いた~食べよ~」
「はい、お待たせしました」
お母さんが席に着き、お父さんがこっちに顔を上げた。
「座りなさい、食べよう」
ダイニングテーブルに並んだ夕飯はロールキャベツ。
それに小さなグラタンとクルトンの乗ったサラダ。
ロールキャベツはお父さんの好きな和風じゃなくて、ケチャップ味の私が好きなやつ。
グラタンもクルトンの乗ったサラダも私が好きなやつばかり。
それに何より
「食べてなかったの…?」
「ほら、すずちゃん座って」
なぜなのかわからない
だけど
「やぁね、何泣いてるの」
「すずいいから座ってよ
お腹空きすぎてこっちが泣きたいわ」
「鈴、あと少しだろ」
お母さんがエプロンで私の顔を拭く。
「頑張りなさい」
お父さんなんか大嫌いなのに
お母さんはお父さんの味方だし
麻衣ちゃんは意地悪だし
「うん…!」
だけど私の
お父さんとお母さんとお姉ちゃん。
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