俺の相談相手
「ちょ…朝霧さんどうしたんすか」
別にどうもしてない。
「こんな作業いつも下田任せなくせに…!」
「朝霧さんのくせに
指サックなんかして頑張ってる…!」
「うっせえな早くやれ」
夕方、取引先から戻ると命じられた冊子作り。
そんなヒマねえわ。
10階会議室のテーブルにズラーーーっと並んだ紙を、一枚ずつ重ねて冊子ファイルに綴じるという地味作業。
本社や主要都市の支社ならしなくていいけど、地方の小さな支社だとそんなこともやらなきゃいけない時がある。
「派遣くんは?」
「休み」
「何でこんな日に休むんだよ
それとも休みなのにこれやる段取りか?」
「具合悪いんだって、熱があって」
「この前もそうでしたけどね~」
「もうちょいしたら
企画部の派遣の子たち手伝いに来てくれる」
半年に一度程度あるここの支社の営業の全体会議の資料。
「ほんっと使えないわね」
うちの部には、俺たち正社員が数人。
事務員が3人と派遣の事務補佐が3人。
だったけど1人辞めて今2人。
これがホントに使えない。
PPP
『今日は愛理と楽譜巡りしてくる』
愛理ってあいつか。
動画に入ってた会話は気になった。
あんな言い方されてスズは嫌じゃないのか。
あの動画は、スマホをどこかに置いて、スズがピアノの前に座って弾き始めるとこからあの嫌味な会話まで入っていた。
後ろ姿だけど弾く姿が映っていた。
なのに最後のあの会話。
会話の手前までを何度も見た。
まだ言えないだけなのか、スズから文句や愚痴なんかは出てこない。
あの愛理とかいう友達から、日常的にああいう言い方をされてるんだろうけど、音楽部の中では一番よくラインに出てくる。
「何をもの思いにふけってるのよ
このクソ忙しい時に」
「静香さん、クソはお下品です」
「わかった!アンタ今日デートなのね!
その恋してます丸出しが腹立つーーー」
「いいじゃないですか
朝霧光輝が恋の病で自分は平和です」
「人が幸せだと腹立つの」
「まぁまぁ静香さん、そうでもないでっせ
くっついて以来会えてない地獄の沙汰なんですから」
「苦しむがいい
門限に振り回されるくらい
これまでの悪行の代償よ!」
そう
あれ以来会える日がないまま
5日経過
俺が19時までに仕事が終わるはずなく、ならば朝だ!と思ったけど、朝は朝で会議やら早くから現場視察やら家に帰ってる場合ではなかった。
それにあまり頻繁に始発というのも、スズの家的に無理な気がした。
「はぁ…」
ゴロン←机に頭
会いたい
「手を動かせーー!」
結局、他の仕事をしながらの資料作りが終わったのは、21時に近かった。
派遣の皆さんは契約時間で上がってしまう。
「まじ塚原どうにかして欲しい」
「川口さんはいいのか」
「だって川口ちゃんは可愛いもん」
「レズだったのか」
「だと思ってましたけどね、俺」
今日もまた駅前カワムラ。
毎度ビール無料券をもらうから、毎度来てしまう店の作戦にまんまとハマってる俺たち。
「またマリアちゃん?」
今入ってきたラインは、今日昼間に撮ったと思われるもので
「わーー!可愛い!」
「え!見して!」
こいつらに人のスマホを見てはいけないという概念はない。
「どっちっすか?!」
「左よ!可愛い方!」
片っぽは愛理と思われる。
最近流行の耳やら鼻やら付くやつ。
ソロでよかったのに。
「にゃんこちゃんやべえ!
ベビーフェイスがたまらーーん!」
「お前が悶えるな」
「自分ちゃんと見たの初めてっす!
やば!だいぶ可愛い!
真っ新真っ白じゃないっすか!
マジもんマリア様だった!」
「本物、真っ白だった
白くて綺麗な肌…なにあの透明感…
これでウルウルして走ってったのよ!」
「うひゃーーー!」
「だからお前が悶えるな」
チラッ
「朝霧さんそんなにどす黒かったですかね…
今あらためてみたら真っ黒」
「で?ドス黒さん
スズちゃん美味しかったの?
そろそろ喋んなさいよ~」
「聞きたい!
こんなすべすべなの美味しいに決まってます!」
「スズで変な想像すんな」
あ、しまった。
「聞いた?」
「えぇ聞きました」
「気持ち悪い」
「えぇ心から」
「ま、あの純さにね」
「当日やってた方がマジ引きますわ
門限19時でどんだけ手際いいんすか」
「なぁ…」
「何よ」
「すみませーん生おかわり!」
「私も!」
「あざっす」
「手ってさ」
「手?」
「ササチーうめ~」
「あ、私も~」
モグモグ
「どのタイミングで繋ぐ?」
「「ブーーー!」」
「汚ったね!」
「な…」
「ゲホゴエホッ…!おえ…」
「本気で言ってんすか!」
「そこ悩む?!童貞か!」
「あの朝霧光輝がなに寝ぼけてんすか!」
「あんた偽物ね!コピーロボットでしょ!」
「言わなきゃよかった…」
「スミマセン騒ぎすぎました」
「もういい…」
「ごめんごめん
タイミング…タイミングね~…」
「静香さん笑ってます」
「ちょ…待ってヤバイつぼ!」
「でも自分嬉しいっす
朝霧さんのマジさ加減が」
結局笑いを提供しただけで、最後までタイミングは教えてくれなかった。
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