トリセツ送りつける女

遠慮無く、もらった1000円で朝マックした。


ソーセージマフィンとジュースで200円也。

残金800円どうしよ。

お財布に入れてしまうと、お金持ってる気になって使ってしまいそうだから、ペーパーナプキンに包んでリュックのポケットに入れた。


またこんな事があるかもしれない。

だからその時のために取っておこうと思った。


カシャ


『いただきまーす』送信


すぐに既読がついた。

返信が無かったのはバタバタ準備して会社に行ってるんだろうなって想像できて、忙しいのに時間取ってくれたのが嬉しかった。



それにしても時間があったから、早めに学校行って昨日の楽譜を開いた。


スマホをピアノに向けて窓の縁に置く。

手元は撮れないけど音が撮れればいいよね。


よし


鍵盤に指を落とす。


家で何度か弾いただけだから、綺麗に弾けないかもしれないけど、弾いてる動画送って欲しいなんて嬉しすぎた。


朝霧さんが喜んでくれると思うと


弾くのが楽しかった。




ガチャ


「スズ早いね~おは~」


「愛理!」


あ、スマホ。


「え…あ、ごめん撮ってた?」

「全然、ちょっと失敗しちゃったし」

「もしかして前に言ってた人?」


愛理には言っていいよね

てか報告しなきゃ。


「実はね…その…なんて言うか」

「え?」

「好きって言われて好きって言って…」

「え…ええええええ?!急展開!」

「だよね、現実味ないんだけどね」


「夢なんじゃない?スズには無理だって」


「やっぱ夢かな…」

「うちの彼氏も言ってたよ

 愛理くらい大人っぽくて魅力的じゃないとって」

「やっぱそうなの…?」

「騙されてるって」


騙される?


「それはない」


騙すようなそんな人じゃない。


「撮ったげようか?」

「いいの?」

「スズのピアノなんて聞かないんじゃない?」

「うん…でも送ってって言われたから

 聞いてくれると思う!」


愛理が動画を撮ってくれた。

前と同じように手元だけ。

顔を映すのは恥ずかしかった。


「ありがと!喜んでくれるかも!」


早速ラインを開いた。


「嬉しそうだね」

「うん!」


あ…


ああああああ間違った!

最初に撮った方送った!


『間違えた!こっちです!』送信

『最初の消して下さい(>_<)』送信


もう既読がついた。


早くて嬉しい

↑もう間違えたの忘れてる


また何度も聞いてくれるかな。



「どうせキモオタでしょ」


「え?何?」

「何でもない

 スズ幸せそうだね!」

「うん!ありがとう愛理!」


この日の音楽部の練習は、恐ろしいほど指が動いて正午まで弾きまくった。



.



「ごめんお待たせ~」


駅ビルのベンチで待ってたのは

「呼び出して何よ~」

「期待しちゃうな~」

「おっせーよ」

杏奈、タケルくん、英介



「期待して!」



手でハートを作ってラブ注入。



「え…」

「え…それって」



「「ええええええ!!」」

「告ったの?!」

「どっちかというと告られたの」

「「はぁぁぁぁ?!」」



「じゃーーん!」←ラインの画面


「あ、ライン来てた」


『これ友達?』


ピアノの感想じゃなかった。


『こっちは消して

 間違えて送っちゃった』送信



「ホントに…?スズ…」

「よかったなスズちゃん…

 ほらね、言ったとおり

 スズちゃんの癒やしの可愛さに惚れただろ?」


「あのね…昨日杏奈と別れたあと駅でね」

から

「朝マックしてたの」

まで




「ホントよかった…」


「杏奈…」


そんなに喜んでくれるなんて

ホント

杏奈大好き

こんな友達杏奈だけだよ



「それマジなのか?」


「うん…あ、英介ごめんね

 この前、花火大会の時ありがと

 励ましてくれて」

「い…いや別に…」

「1人で泣かないでよかったから助かった~

 やっぱ友達っていいね」



ゴーーーーーン…


↑英介脳内



「スズ、今度私も会わせてよ

 会ってみたい

 スズがこんだけ頑張った朝霧さん」

「俺も~」

「俺はいい…もう見たし…喧嘩売ったし…」

「え?」

「なんでもない」


「ごめんねみんな

 私事の報告に暑い中集まってもらって」


「腹減った~何か食おう」

「私も減った~」

「俺食欲無い…」

「英介大丈夫?夏ばて?」

「ほっとけ…」


私のお祝いって名目でカラオケに連れてってくれた。


元々歌の上手い英介の〝慟哭〟が

今日は妙に心にしみた。


女性の歌を歌いこなす英介が好き。



で、次に流れてきたイントロ。

私は入れてないから杏奈だと思ったのに


「スズちゃん歌って!」

「ほらスズ!」


ベタベタにトリセツ


「え~もう飽きたんだけど~」

と言いながらマイクを握った。


それを歌いきった時


「よしオッケ-!」

杏奈が

「杏奈早く!」

タケルくんが私の手を


「朝霧さんに送っとくから!」


って叫びながら、私のスマホを持って部屋を飛び出していった杏奈と、私が追いかけられないように腕を掴んで離さないタケルくん。


「やめてーーー!」



戻ってきたスマホ。

ラインの画面はとっくに既読。


『杏奈が勝手に送ったの』送信

『信じて(T-T)』送信


トリセツ歌ってるとこ送くる女なんて痛すぎる!



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『杏奈さんへ

 どんどん送って下さい』

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