夢?現実?
この上ないほど幸せな日だったのに、その余韻に浸るどころか不安で目が覚めた。
夢でも見てたんじゃないかって。
目が覚めたら
夢も覚めるんじゃないかって。
現実味がなくて
すごく不安な朝だった。
だけどスマホには、寝落ちしてしまった私に朝霧さんがくれたメッセージが残っていた。
『寝た?』
もうそれだけで笑った顔が戻らない。
『起きた』送信
今日は月曜日。
音楽部の集まりがあった。
だから制服に着替え、いつもより入念に顔を洗い、化粧水を浸透させジェルをたたき込み、BBクリームを塗り粉をはたいた。
メイクは禁止だけどこれだけはお母さんが買ってくれる。
日差しすごいからね。
今浴びる紫外線が将来のシミになるらしい。
それにほんのり色がつくリップクリーム。
また急に不安になった。
メイクばっちりなお姉さんたちと仕事してる人が、限りなく素に近い私でいいんだろうか。
全然いい匂いとかしないけど。
「あらスズちゃん可愛い、髪結んでいくの?」
洗面所を覗いたのはお母さん。
「お母さんお団子やって!」
インスタに可愛いお団子スタイルを探し、お母さんはスマホを見ながら、緩めに後れ毛落として結ってくれた。
「何かあるの?お洒落して始発に乗って」
「な…何にも!音楽部あるだけ!」
「9時からじゃないの?」
「その前にちょっと…あ…愛理とね」
「そ」
出来たって、セーラーカラーをポンポンはたきお母さんは洗面所を出て行った。
いつもと違う雰囲気。
ちょっとは大人っぽい?
朝霧さん可愛いとか思ってくれるかな。
私なんかのどこがいいんだろ。
朝霧さんが私を好きになる意味がわからない。
「お、鈴早いな」
「うん、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
聞いてみようかな
どこが好きなのか
本当に好きなのか
不安になりつつ家を出た。
これで始発逃したら笑えないしちょっと早めに。
一つ目の角を曲がると海が見えて、坂を下りきってもう一つ曲がると駅の端っこが見える。
表の駐輪場はまだすかすか。
間に合った。
駅には始発を待つ人の姿があった。
何両目だろう。
ちゃんと会えるかな。
満員だったら近づけるかも怪しいよね。
下手したら会えずにただ無駄に始発に乗る結果に。
ラインしようかなと思ってスマホを出した時
「スズ」
声の方を向くと
駅の少し先
「朝霧さん…?」
スズって普通に呼んだーー!
昨日の言わせたのとは違うやつー!
ああああ今のよかった!
「時間あったから」
来てくれたの…?
「ホントに私のこと好き?」
あ、口走ってっしまった。
いきなり変なこと聞いちゃった。
戸惑って困った顔。
こんなとこで人もいるしね。
「ごめんなさ…」
「好きだよ、ホントに」
コソコソ話よりは遠いけど、周りに聞こえないように耳の近くで小さな声で、朝霧さんはそう言って、恥ずかしそうに目をそらした。
「今ここに来るまで…
俺、夢だったんじゃないかって思ってた」
どうしよう…
好きすぎてやばい…
朝っぱらから泣きそうなんだけど…
昨日と同じ、黒い財布をハーフパンツのポケットから出して、一台しかない改札にピッとふれ
ホームへ入っていった。
だからそれを追いかけて私もホームへ入った。
並んで待つ始発電車
朝霧さんが来てくれたからプラス10分一緒にいれた。
朝日を浴びた海が綺麗
昨日も緊張したけど、今朝はまた違う緊張で会話はなく、海を見ながら顔を見合って笑ってそれを何度か繰り返した。
「あ、来た」
もう来ちゃった
あと20分電車に揺られたらおしまい。
目の前に来たドアが開く。
朝霧さんが先に乗り見回すと、後に乗った私を振り向き「座れないな」って、座れない割になんか少し嬉しそうに言った。
反対側の開かないドアの前。
握るポールのある方に私を行かせ、すぐ横で朝霧さんはつり革を持った。
目が合い笑う。
「ボタン捨てちゃいましたか?」
「会社の机の上にクリップと一緒に入ってる」
「そうなんだ」
「捨てようと思ったけど
燃えないゴミは給湯室まで行かないといけなくて」
「面倒だったんですか?」
「あとでって思って
その瓶に入れたらそのまま」
「買って付けちゃった」
「じゃあ今度取れたら言って」
「はい」
ゆっくり走り出した電車は
海から遠ざかっていく。
朝霧さんは窓の外を見る。
すぐ目の前に〝犯人〟がいる。
やっぱり夢みたい
あんま揺れないな
「もう学校開いてるのか?」
改札を出ながら朝霧さんは言う。
「マックで時間潰します
朝ご飯も食べてないし」
「え、マジか」
最初からそのつもりだったし平気だけど。
「あ…じゃあ…」
「遅れちゃうから行っていいですよ」
「いやそれならその…」ゴクリ
「うちに…!」
あ、ソーセージマフィン限定価格だ
ラッキー
「え、何?何か言った?」
「えっと…これマック代に…」
「え…いいです!大丈夫!
お小遣いまだ残ってます!」
「いいから…お小遣いはとっとけ」
「でも…」
「デート代だから
1人で時間潰させてごめんな」
彼氏がカッコよすぎる件
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