第23話 苦しい東京の夜
「山川課長ご無沙汰してます」
「お~来たね来たね
ずいぶんしっかりしたようだ
浜田部長から聞いてるよ
今やエネ開部のエースだって」
「いえそんな」
俺待ちだったらしい会議が始まったのは、もう19時になろうとしてからだった。
各自持っているタブレットに資料を送り、スクリーンに画面を出す。
会議室にいる十数名、タブレットの画面を指で弾きページを繰って見ていた。
その中で1人、資料を見ずに不敵に俺を見てるのは同期の真田。
入社したときから俺のことが嫌いなのは知ってる。
毎度すごいライバル視だ。
50名いた同期の半数は一年以内に辞め、そのまた半分は三年以内に辞めた。
現在9名
その中で唯一、入社以来本社から動いてないのが真田だった。
仕事が出来るから残されてるのか、その逆なのか。
欠員の支社や部署に埋め合わせとして行かされる場合と、上司が引き抜く場合とあるらしいが、俺と静香は後者。
今の部長が呼んでくれた。
真田はエネ開に行きたかったからこんな感じだ。
そんなに睨まれてもどうでもいいけどな。
「朝霧くん、この数字はどういうこと?」
うちの部長のさらに上。
「これは前年比から試算してウンヌンカンヌン」
「そうか、じゃあさほど利益は見込めないな」
「ですがこちらの案でいくとウンヌンカンヌン」
今からそれを説明するのに
「朝霧くんこっち、これはさ…」
だからもうちょい待て
「朝霧くん」
「はい」
年を取ると待てないらしい。
「イケメンになったんじゃないか」
ワハハハハハ
ちょっと黙ってろ。
そうしてたら真田が準備の続きをやっていた。
「ごめん、サンキュ」
「段取り悪いなお前」
イラッ
「待たされたあげく、まだ待たせるのか」
おっさんたち無視できるか。
「地方に行って鈍ってるんじゃないか?」
「お前はエラいな」
真田の手が止まる。
「次々言われると手が回んなくて
さすが本社残留は有り余ってんな」
なんだその顔。
喧嘩ふっかけてきたのはお前だろ。
「あとやるからいいぞ
皆さんのお相手しといてくれ」
真田の手からプロジェクターの線を取る。
「お前に出来るならな」
その後は勿論、おっさんたちに夜の街へ連れ出される。
東京の夜なんて久々だ。
東京は基本的に日帰りさせられるから。
鬼かこの会社は。
「あの辺はあれだ!魚が美味いよな~!」
人は酔っ払うと叩く。
「そうですね」
「サーモンが好きでね~」
それ外国産。
「朝霧くん室長に酌を!」
無礼講と言われても酔っ払うわけにいかない席。
形だけの2杯目をもう二時間持っていた。
なのに真田は日本酒なんか飲んで目が座っていた。
「真田~お前も朝霧みならえ~」
絡んでいったのは真田の先輩。
ライバルなのにそんなこと言っちゃいけませんよ先輩。
ほらな
真田の顔がみるみる怒りに満ちる。
「今日の会議~同期とは思えねえな!」
面倒くせえな。
「室長、真田のお陰なんですよ
東京からちゃんと情報送ってくれるから」
「ほ~!真田くんか」
「地方にいたらわからないことも多いので
真田が東京でやってくれてうちの部は助かってます」
「そうかそうか」
一触即発
先輩vs真田
いや、俺vs真田か?
「真田こっち」
不機嫌丸出しの真田が来る。
「真田くんこれからもその調子でやってくれよ~」
上機嫌の室長が真田に酌をして真田はわかりやすく喜んだ。
俺のフォローとも知らず。
室長に真田を預け置いてかれた先輩の元へ。
「お疲れ様です」
「お、朝霧ちゃーん」
なんて疲れる飲み会なんだ。
早く寝たい
アリスの動画で癒やされよう←勝手に送られてくる
「……」
や、癒やされないからお前じゃ
「あーーもう!」
「なに?!」「どうした朝霧!」
なんで動画消したんだ。
いいし
巨乳に癒やしてもらうから
「え~早速ホテル?」
こんな顔だったっけ?
化粧濃いな。
もう夜中1時を回っていた。
土曜日の夜に空いてるラブホなんて探すのは至難の業。
「いいの?こんないいホテル」
どうしても今夜、俺はこの女とやらなきゃいけなかった。
こんないい部屋で。
「わあ~すごい!」
夜景なんかどうでもいい。
はしゃぐ女の腕を掴み抱き寄せると、ねっとりした目が頬を染めて見つめてくる。
大概上目遣いが可愛いと思ってる。
「……」
名刺くらいで涙ぐむな
上目遣いなんか嫌いだ
「私に会いたかった?」
今まで通りだ。
簡単だ、やるくらい
好きとか適当に言ってればいい
「どうかした?」
なのに
「ごめん…まだ仕事あったんだ」
無理だ
「泊まってっていいから」
出来ない
何がこんなに苦しいんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます