俺と門限の出会い
さっきの緊張から開放されると、また別の緊張がやってきた。
体中が脈打って、目の前を直視できないような。
目の前からひしひしと伝わる存在感のオーラ。
意識すればするほど見れなくて、でも目の前にいるその存在を見たくて、確認したくて。
見れば目が合い、心臓がもぎとられるんじゃないかと思えるほど胸が高鳴った。
こんなのは初めてだ
好きとは
こんな感覚だったのか。
「朝霧さんはどこの駅なんですか?」
「赤瀬浦」
「そっか、じゃあ」
へ?
立ち上がり、横に置いていたリュックを背負い
「ありがとうございました」
と、頭を下げた。
窓の外の駅の看板は
『馬由が浜』
いやいやいや
「ちょっと待て」
「電車出ちゃう」
とりあえず降りた。
走り去る電車。その音が去ると海の音が聞こえ潮の匂いがする。
「えっとな…」
「はい」
「会ったり出来る時間っていつ?」
そのわかりやすく喜ぶ顔。
「出来るだけ会いたいんだけど」
「え…!」ポッ
ああああああああ
可愛い…可愛いじゃねぇか!
「あ、でも行かなきゃ遅れちゃう」
うん、あんましつこくいくのはやめよう。
怖がられるかもしれないし。
「ん、じゃまた」
↑いい大人風装って心は泣いてる
「もう帰りますか?」
今来た線路の向こうを指した。
「えー…と」
やばい
誰か恋のやりとりの仕方教えてくれ
どうやって会うんだっけ
なんて言えばいいんだっけ!
「帰るけど」
もう一押ししていいのかどうなんだ!
「じゃ…あの…
ピアノ終わったら行っていいですか?
予定がなかったら…その…
少しでもいいから会いたいです!」
もう一押ししてよかったのか。
「うん、ごめん
ピアノ何時まで?」
「たぶん1時間…1時間半くらい
レッスンじゃなくて楽譜もらうだけだから」
「じゃあ16時半にここで待ってる」
「いいの…?」
「ピアノの後
会えないのかなって思ってたから」
またその顔…
そうだ
SUZUに着いたとき、俺を見てその顔したんだ。
本当は駅まで送って、もう来るなと釘刺すつもりだったんだ。
ハンバーグ食べに行こうなんて思ってなかった。
海岸沿いの道を家に向かった。
1時間半つぶせるような店もないし、外は灼熱、充電はない。
あ、ライン聞かなかった。
連絡してくるよな。
終わったとかどこ?とか。
海を見ながら
汗を拭きながら
人生を左右するんじゃないかと思えた程の、今のこの数十分を、テープを巻き戻すみたいに思い返した。
「水ーー…」
30分は歩いたと思う。こんなに遠かったのか。
赤瀬浦から馬由が浜間は短いと思ってたけど。
「え、こうくん?」
「ただいま…」
「ちょっとどうしたの、静香ちゃんは?」
「車貸して…」
「お父さんが乗っていったわよ
あなた自分の車は?乗って帰ったじゃない」
リビングのソファーに倒れ込むと、アリスはソファーに手をついてクンクン。
「臭い?」
クンクンクンクン
嗅ぐだけ嗅いでどっか行った。
「汗すごいわね、はい麦茶」
「シャワーしてくる…」
汗臭いとか思われるかも。
や…おじさん臭とかしないか?
気になるからとりあえずシャワーを浴びた。
「こうくんお夕飯は?
明日はお仕事なんでしょ?」
「いらね、すぐ帰る」
「何か用事?忘れ物でもしたの?」
「まぁね」
昼飯を食べていなかったことに気づいた。
急に腹が減った。
でも時間ないし早めに夕飯にすればいっか。
何食べに行こう。
車ないからな。
この辺で何か…何もねえな。
車取りに帰るか
電車で戻って何か食べて車で送る、そうしよう。
「行ってくる~」
「え?もう行くの?」
バス停で時刻を見てみたけど、日曜だしこの時間だしいい時間にバスはなく、赤瀬浦の駅で電車の時刻も見たけどなかった。
結局歩いて汗だくだった。
馬由が浜に着いたのは少し早かった。
まだ来てない。
だから小さな待合所に入った。
なんてこった
ツタヤで本でも買ってここで待てばよかった。
涼しいじゃないか
人はいないし。
すげ
俺今日一日でどんだけ待つんだ。
でもさっき駅で待ってたのとは全然気持ちが違う。
椅子に座り、途中で買った水を飲んだ。
さ、ツムツムでもしとくかって思ったとき
ガラッ←手動ドア
息切らして
顔真っ赤で
「お待たせしました!」
嬉しそうに。
そんなに嬉しいんだな
俺に会うだけで
これ好きだな。
「えっと…ここで?」
「一旦電車で戻って夕飯でも行かないか?
車、マンションに置いてきて無いし」
と言ったとこで、嬉しそうだった顔が一気に困ってしまう。
絶対隠し事出来ないタイプだ。
「あ、ごめん
戻るとか面倒?」
いや…車に乗るの嫌なんじゃないか?
密室に二人きり。
そりゃ怯えるよな。
「ごめんなさい…」
なにが…
「昨日もその…花火大会で夕飯いらなかったし
今日もってちょっと言いづらいかも」
へ?
「それに遅くなると…
夏休みだから理由もなくて」
「あー…そっか」
「門限19時なの」
も…
門限?
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