第21話 夢から覚めた私
「先生さようなら~」
「気をつけて帰ってね」
玄関先まで見送ってくれた先生に手を振り、家までの道を走った。
レッスン中に届いたラインは
『今日は外食にするわよ
終わったら真っ直ぐ帰ってきてね』
お母さんからのラインでテンション上がった。
うちはあまり外食をしないから、激安ファミレスでもめっちゃ嬉しい。
お父さんが仕事で外食が多いから、普段はのんびり家で手作りのご飯を食べたいとかいう、お父さん主義な我が家のルールのせいで。
何かな~
回転寿司がいいな~
なんなら牛丼屋でもいい。
って思うくらい外食をしない。
回転寿司に行ったのは小学生の頃。
お母さんが寝込んで、お父さんが連れて行ってくれたのが最後。
友達と外で食べるといってもマックやミスドだし。
「ただいま~!」
走ったからはぁはぁ息が切れる。
「すずちゃんやだ、走ってきたの?」
「どこ行くの!」
「お父さんおすすめのお店ですって
じゃあ行きましょうか」
お母さんがリビングの電気を消し、家の鍵を取って靴を履いた。
「車じゃないの?」
「お父さんが電車で来なさいって
ワインが美味しいんですって」
珍しいな。
お母さんお酒飲むんだ。
てかお父さんがそんなこと言うとか。
不吉な出来事の前兆?
4人掛けの向かい合わせの席。
夕方の上り電車は空いていて、進行方向に向いてお母さんが座り、それに向き合って私が座った。
夕と夜の境目
海面には黒に近いオレンジが、瞬きしたその一瞬にも消えてしまいそうに、昼間の残り香として残っていた。
いつも降りる大きな駅じゃなく、その手前、金原駅で降りた。
「こっちだと思うんだけど」
お母さんがスマホをスクロールする。
「見せて」
お父さんが送ったらしい地図を見ながらキョロキョロ目印を探した。
地図の通り路地を入っていくと、白い壁に赤い看板見えた。
「お父さんこんなとこ知ってんの」
「会社の若い子に教えてもらったって言ってたわ」
「だよね」
開けてもオシャレ。
オープンキッチンからイケメンが
「いらっしゃいませ」
って微妙に微笑む。
「青井様、ご案内して」
なにも言ってないのに店員さんにそう言った。
できる、この人
お店の奥の方に案内されると、お父さんはもうビールを飲んでいた。
「私こどもビール!」
「お母さんビールはいいだろ?ワインにするか」
「ええそうね」
「あとピザ!あ、グラタンも美味しそう!」
「すずちゃんよそのテーブル見ないの」
それから程なく麻衣ちゃんも合流した。
「お父さんこんなお洒落な店知ってたんだ」
パスタを器用にフォークに巻きながら麻衣ちゃんは冷やかすように言った。
「今度サークルのみんなで来よ」
「いいな大学生は」
「スズも友達と行けば?」
「ランチもあるぞ」
「じゃあお小遣いちょうだい」
「お父さん他にないの?
大学生好みなお店」
大学生が好きそうなお洒落なお店?
「麻衣ちゃんいいとこあるよ!
隠れ家的なハンバーグ屋さん!
オムライスちょー美味しかったの!」
あ
「すずちゃんそんなとこに行ったの?」
「あんたの小遣いで?」
「いつ?」
しまった
調子乗って言っちゃった。
「た…誕生日…」
とっさに上手いことウソをつけないから白状してしまう。
「誕生日?誰と行ったんだ?」
「誕生日は音楽部の子たちと
ケンタッキー食べたんじゃないの?」
私そう言ったっけ…
「あぁ、杏奈ちゃんたちでしょ?
スズ言ってなかったの?
音楽部終わったあと行ったんだよね」
へ?
「そうなの?」
「ご馳走してくれたんだって」
「高価じゃないのか?」
コウカ?
「そうだあのね!
私ね式ピアニストに選ばれたの!」
「えー!すごいじゃんスズ!」
「お前はまた思いつくままに喋る…」
「でね、里中先輩が練習みてくれてね」
「音大に決まってる先輩?」
「すごいわね~」
話しはピアノの話にそれ、果ては篤子おばさんの結婚式のゴンドラの話になった。
危なかった
麻衣ちゃんグッジョブ
お酒が入っていつもより喋るお父さんと、いつもより陽気なお母さん。
家でご飯食べるのとは全然違う。
すごく楽しかった。
「夜でもあつ~い」
「スズ酔っ払いみた~い」
無駄に大笑いな姉妹の後ろをお父さんとお母さんが来る。
「あ、ファミマ寄ってい?
スズお茶飲みたくない?」
「飲む~」
途中にあったコンビニに向かう。
「先に駅に行ってるわね」
「「は~い」」
駅はすぐそこ。
「誕生日なにしてたのスズ」
お母さんたちと別れたらすぐに麻衣ちゃんが言った。
「麻衣ちゃんありがと…」
コンビニの入り口に向かって歩き、ふと見たガラスの向こうの店内に
「あ…」
見つけてしまった。
「麻衣ちゃん…やっぱ駅で買お…」
「え?ここまで来て?」
そんな可愛い彼女がいたんだ。
そりゃ私なんてふられるにきまってる。
店内に見えた朝霧さん。
その腕に腕を絡ませた人は可愛いく朝霧さんに笑いかける。
それに答える笑った顔は見たくないから
朝霧さんの方は見れなかった。
やっと削除を押せた。
それはなんだか
夢の中から現実へ戻ってきたみたいだった。
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