第2話 俺、冤罪

人生27年間でトップ3に入る不運な出来事だった。


「どうしたんすか、ギリでしたね」

「まぁな…」


本社から重役たちを招いての会議だった。

来年度から始まる社運をかけた一大プロジェクトの、恐らく2番目くらいに大事であろう会議。


総合商社と呼ばれるうちは、食品からエネルギーに物作りに保険に金融に観光、運搬に物流にあとなんだ。

日本中に支社やら子会社やら関連会社があり、地球上のあちこちにも支社がある。


この田舎に太陽光パネルを張り巡らせるのが、今任されている仕事だった。


一応、支社という名前で駅近のオフィス街に会社はあるけど、この一帯から一歩離れれば、本当に日本は狭いのかと思うほど太陽光パネル張り放題な土地がゴロゴロ転がっていた。

去年までいた東京が本当に同じ日本なのか不安になるほど。



「何でまたこんな日に実家帰ったんすか?」

下田はそう言うとコーヒーに口をつけた。

この田舎支社に遥々やって来た重役達に、予算や収益や今後の見通しを授業しなきゃいけないのが今朝の俺。

そんな大事な朝にあの痴漢騒ぎ。

危うくクビになるとこだった。


「お姉様の誕生会だ」

「は…?」

「お母様が誕生会をするから帰って来いと言いました

 会議の準備は出来てたし

 北海道から取り寄せた蟹を解凍したと言われ

 のこのこと帰りました」

「カニ歩きで?」

「文句あっか?」


会社の近くにマンションを借りていた。

車で帰ってもよかったけど、朝の渋滞で1時間以上かかってしまうことを考えると、会議に遅刻するのに怯えて渋滞関係ない電車で帰ったのが間違いだった。

まさか痴漢に間違われるとは思いもしないし、無縁な出来事だと思っていた。

冤罪は身近にあった。


「ま、なにはともあれ

 終わってよかったっすね~」


それにしてもあのクソババア…

饅頭みたいな顔しやがって。

正義を気取って「助けてあげたわよ」ってどや顔。

気持ち悪っ!

大体あのJKがさっさと誤解を解けば時間ギリギリに会議室に滑り込むようなこともなかったんだ。





ボタンなんか引きちぎってやればよかった。





血迷った優しさが裏目に出た。

だからクソババアのくだらないヒーローごっこに付き合わされることになったんだ。


「朝霧、これさっきのコピーね」

静香はデスクに紙を置いて隣のデスクに座ると、蛍光黄色の付箋紙にペンを走らせた。

「変態さん、明日現場視察だって」

そう言いながら椅子のキャスターを滑らせ

俺のパソコンの端にその付箋をピタッと貼った。



『痴漢はいかんよ』



なんで知ってるんだ。

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