8−2
試合終了を告げる笛が鳴る。
ネットの前に整列し、互いの選手が一礼する。
息は上がっているが、疲労というほどのものは感じない。それどころか心地よい高揚感が身体を包んでいる。
ベンチへ戻り荷物を纏めていると、背中をポンと叩かれる。
「お疲れ。いい試合だったよ」
リベロとしてコート中を動き回っていた塩谷先輩が、タオルで汗を拭きながら言った。
「西中のエースはまだまだ健在だね」
「いえ。半年のブランクはやっぱり簡単には埋まりませんでした」
「あの内容でその謙遜は、むしろ嫌味に聞こえるよ」
「すみません」
次の試合に出るチームが入ってきたので片付けを急ぐ。心なしか彼女たちからの視線を感じる。目立っていたのかもしれない、と雫は思う。
試合中、ボールは必然的に雫へ集められた。言葉を選ばずにいえば弱小であるチームが勝つためには、やはり経験者、それも腕の立つ選手に多くスパイクを打たせるのが定石だった。結果、半分以上のボールを雫と塩谷先輩で触れていたことになるが、それ以外の穴を突くほどの技術を相手チームは持っていなかった。一回戦の試合なのだから、さもありなんといったところだ。
通路に出ると、先を歩いていた塩谷先輩が言った。
「帰りにファミレス寄ってかない? 一次ラウンド突破ってだけで祝勝会するのも恥ずかしいんだけど」
「すみません、このあと用事が」
「そっか。残念」
すると塩谷先輩は足を止めた。
雫も自然と立ち止まり、振り向いた。
手を差し出される。
「じゃあとりあえず、今日までありがとう。ホントに助かったよ。勝てたのは一重に向田ちゃんのお陰。今日だけじゃなくて、今までの練習も含めて」
「そんなことはないですよ」
雫はおずおずと相手の手を握る。
「皆さん、確実に上手くなってますし」
二年の
「あいつなんかまともにトスも上げられなかったしね。この勢いで代々木まで行っちゃうかも」
塩谷先輩はカラッとした笑みを浮かべながら、握った手を両手で包み込んでくる。
「向田ちゃんも、気が向いたらいつでも戻ってきてよ」
雫は曖昧な声を漏らす。右手を包む温もりが、自分の輪郭線をふやけさせるのを感じながら。
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