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 動画を上げて一週間が過ぎた。

 再生数は十四。高評価一。低評価二。チャンネル登録者数はゼロ。コメントもなし。控えめに言っても反響がない。

 休み時間になる度、廊下に出てスマートフォンのアプリを起動してチャンネルの状況を確認している。だが、再生回数が一つ増えたぐらいで後はめぼしい変化は見られない。公開二日目に高評価が一つ付いた時は、これはもしやと期待もしたが、立て続けに低評価を二つも付けられ、今はネガティブなコメントを書かれはしまいかという不安の気持ちの方が強い。

 視聴者が圧倒的に足りない。これでは七人に一人が低評価を付けているように映ってしまう。たった二とはいえ、母数が百あっての二とは意味合いが大きく違うのだ。

 いっそ自分で別のアカウントを作り、高評価を押してしまおうかとも考える。何人かになりすまし、世間の目を引く数を付ければ、後は本当に動画を観た人が正当な評価を下してくれるかもしれない。

 いやいやいや、と頭の中で首を振り思い直していると、「向田さん」と声を掛けられた。

 振り向くと、髪を短く刈り込んだ男子生徒が立っていた。勉強よりは運動が得意、といった雰囲気の少年だ。休み時間には他の男子と大声で笑い合っている姿をよく見かける。たしか芹沢という名前だった。

 相手を見た雫は、もしかして動画のことかもしれないと咄嗟に考えた。それぐらいぼんやりしていたのである。だが、口を開いた男子からは動画の「ど」の字も出てこなかった。

「向田さんって、宮野森さんと仲いいよね?」

 彼は声も表情も硬かった。

「はあ」

 動画のことじゃないらしい、と残念に思う気持ちを拭いながら雫は言う。

「悪くはない、かな。少なくとも」

「宮野森さんに伝えてほしいことがあるんだけど」

 教室にいると思うから直接言え、などと無粋なことは言わずにおく。男子が宮野森に用があるというのだ。大体の内容は察しが付く。

「きょ、今日の放課後、屋上で待ってるって……その、話したいことがあるから」

「時間は?」

「時間?」

 男子は予想だにしなかった言葉を掛けられたような顔になる。

「何時に屋上?」

「え? ああ。じゃあ、四時で」

「わかった、伝えておく」

 雫は頷く。期待はしない方がいい、という気持ちを胸に秘めて。

 昼休みになり、昼食をとりながら宮野森に芹沢のことを話すと、彼女は雫の想像通りの反応を示した。整った顔を気の毒になるぐらい顰めたのだ。

「断った方がよかった?」

「いや、いい」

 雫の問いに宮野森は首を振る。

「むしろ面倒掛けた。ごめん」

「わたしはいいけど」

 すると宮野森がじっと見つめてきた。

「何?」

「今日もバレー部の練習?」

「そうだけど」

「その前に少し、付き合ってくれない?」

 何に付き合うのかは、訊かずともわかる。

「こういうのは二人きりの方がいいんじゃない?」

「向田が伝言頼まれたんだから、立ち会うのは筋でしょ」

「筋かな」

「とにかく一緒に来て。しっかり断ったっていう証人が欲しい」

「断るのは決まってるんだね」

「直接誘いに来ない時点でもうない」

 宮野森は埃でも払うように手を振る。

 緊張に頬を染めていた芹沢の顔を思い出す。たしかに、想いを伝えたい相手がいるのなら、直接言いに行くべきだと雫も思う。だが、彼は少なくとも一歩を踏み出し、扉を叩くだけのことはした。手を出せず、逃げ去った雫よりも余程前を行っていると言える。このまま彼の勇気が、にべもなく撥ね付けられるのを待つのは耐えがたい。

 雫は屋上へ行くことを承諾した。積極的に手助けをするつもりはなかったが、その場に立つだけでも、芹沢への賞賛を示せる気がした。

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