6−4
扉の向こうからは、やはりそこに集まった生徒たちが楽しそうに笑う声が聞こえる。雫は伸ばしかけた手がそこで止まる。
父が動画を完成させた勢いを借りればこの扉を叩けるのではないかと思っていたが、そううまくはいかなかった。そもそも一歩を踏み出したのは父であって自分ではない。自分は傍らに立って、せいぜい背中に手を添えただけだった。
雫は拳を引っ込めると、踵を返してその場から立ち去った。
美術準備室を前にすると自由の利かなかった身体が、バレー部の練習では信じられないぐらい軽かった。中学の引退間際もかくやというほど高く跳躍し、指先が触れるか触れぬかという際どいボールをレシーブすることができた。相手コートに打ち込んだスパイクは、床に当たった勢いそのままに壁を打ち鳴らした。
休憩の合図が掛かると、物足りなささえ感じた。クールダウンがてら壁当てでトスをしていると、塩谷先輩が近づいてきた。水の入ったボトルを差し出され、雫は礼を述べて受け取った。
「絶好調だね向田ちゃん。何かいいことでもあった?」
「いえ、特には」
雫は水を飲む。
「じゃあ逆に鬱憤が溜まってたとか?」
「そうかもしれません」
塩谷先輩はカラカラと笑う。
「いいねえ。その滾る想い、存分にボールへぶつけてくれたまえ。ついでに本番でもね」
期待してるよ、と背中を叩かれる。
一人になると、右の掌が疼いていることに気がついた。その鈍い痛みを、雫は指を折り、そっと包み込んだ。
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