第8話 鶯谷のテフ

〜それにしてもニキは知っているな〜


コロちゃんは感心していた。


今日も誰かに会わせるのだろうけど、仲間がいるっていうのは悪く無いな!心強い。たぶんみんなも、そう思っているに違いない、そんな感じがした。



夕陽がそろそろ沈む頃、ゆっくりと起き始めた4人。ちょっと前に起きていたコロちゃんは、まだまだ、この東京って、面白いところがあるんだなあってつくづく思った。



「まだ夢あるな」



………………………♪…♪………





〜みんなも起きてきたようだ〜



「さあ!行こう」



ニキは気分良く号令をかけた。責任感MAX、雰囲気ありありだ。まあこんな時にはありがたい存在だね。



そうそうに茗荷谷をぬけて、小石川の森を通り上野の森に向かった。



東京大学、東京藝術大学そして国立博物館が軒を並べる東京の玄関口。上野、御徒町、神田、秋葉原と外人にも人気のスポット、特にアメ横は食料豊富だ。魚屋、八百屋、菓子屋、飲食店も何でもある。まさしく市場であって巨大な屋台だ。



ここでまた、一匹のタヌキに会う。




テフが吉池の裏手から出てきた。


吉池は村上の新巻鮭で有名だ。美味しそうだよ。アイツ端切れを戴いて来たんじゃないだろうな。


〜別に店から出て来たわけでは無いので〜ご心配無く〜


繁華街は気を付けないと車にひかれてしまう。


特に夜の移動は危険を伴うからね。ニキとハチはある程度知っていたが、コロちゃん兄妹は初めて訪れたこの御徒町周辺に、新宿とは違った匂いを感じていた。どこかレトロな雰囲気があるな。平面的な世界が広がっている感じがする。



「テフ!ひさしぶり」



ニキは少しふっくらしたテフのお腹をジーッと見ていた。


「おいっ!どこ見てんだよ!」


思わず次に言う言葉がわかってしまうほど、テフは栄養満点な雰囲気だった。まあこの辺にいればしょうがない。食料には事欠かないだろうよ。そう言えばこの辺は、ネコ連中も元気がいいって聞いたよ。同盟を組んでいるらしい。やっぱり孤独に生きるより大勢の仲間に囲まれて生きていく方が楽しいからな。生きるためには必死だ。


それが原動力って訳か?



〜〜〜〜〜〜  〜〜〜〜〜



「ニキよ!今日はだいぶ大勢だな」



あれっ!

初めて見るタヌキを引き連れたテフがいた。


〜誰だアイツ?〜



テフに縄張り意識が芽生えたせいか、少し構えている感じだ。テフは鶯谷(ウグイスダニ)を寝ぐらにしている。下町と言うか上野寄りは寛永寺のお墓だ。夏も涼しくて快適だ。まあ人間最期の寝ぐらって訳だな。



我々タヌキって、人間にどう思われているのだろう?

確かに、たまに幻術を見せる時もあるようだけど。いいイメージなら少しは救われるけど、あまり期待しない方がいいな!幻術なんてまあ我々下っ端には真似出来ない芸当だけどね。でも100歳を超える大ダヌキになると時空をコントロールする者もいるようだよ…ナヌッ!



〜〜〜〜〜〜〜^_^〜〜〜〜〜〜〜



「一昨日、この兄妹連れて狸穴(マミアナ)に行って来たよ」


ニキはこっちを見ながら言った。



「狸穴(マミアナ)か…」


「大ダヌキ様は会ってくれたのか?」



〜なんとテフも知っていたのか!あの大ダヌキの事を〜


それにしてもあのヘンテコな光に包まれた球体は一体何だったのだろう?コロちゃんは目まぐるしい展開に終始落ち着かない様子だった。



「直接では無かったけど、いつものホログラムでお出迎えしていたよ」



「ちょっと調子が悪かったのか、予期せぬワードを認識してしまったのか、リセットされたみたいな残像が揺れてたね」



〜予期せぬワード?〜



〜まさかロコ?〜




それにしても大ダヌキって直接会う事もあるのか!面倒くさいからどうでもいいと思ったけどね。でも何か、マミアナにいろいろ隠されている事は間違い無さそうだ。ニキとテフは何やら話し込んでいた。今度隣にいるタヌキを連れて行くらしい。何となく登録されている感じにしか思えないけどな。



「イキマタをよろしく!」



テフが紹介した。


あいつイキマタって言うのか!変わった名前だな。それにしてもいろいろ集まったもんだよ。ちょっと嬉しくなったな。


「よろしくお願いします」


イキマタがみんなに挨拶した。なんとイキマタちゃん。意外と律儀だな。


〜御徒町〜今夜もガヤガヤしてる〜


4人は御徒町上野の界隈を探索し、テフとイキマタにご馳走になった。東天紅裏にはナイスなスポットがあるんだよね。我々に優しいパワースポットだよ。優しいお兄さん達がいるんだ!助かるよ本当に。みんなお腹一杯で上野をあとにした。



本当に良い奴らだ。

明日またニキが誰かに会わせるに違いない。

コロちゃんは上野の森に包まれて、

そして…静かに…眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る