第9話 渋谷のアオ

翌日、ふたたび移動を開始した4匹。


ニキのテリトリー四ツ谷を超え、新宿御苑を右手に見ながら神宮の森へと向かっていった。


〜神宮の森は広い〜

森は代々木公園までつながっている。空気が若くてきれいだ。そこで何か未完成の彫像物が作られている感じだ。そんな不思議な波動さえ感じる。ここが一番安心かもしれないな!


公園通りを下ると地形的には谷底だ。そこになぜか駅がある。谷と言う名前が付いたところ 〜そう渋谷だ〜


その前の広場なのか、交差点というモノなのか知らないけれど、世界有数の蟻の行列、オット失礼人間だったな。その見事な隊列が見られる場所があるらしい。四方八方から中心に向かって歩いて行くのに、そのまますれ違わず、誰一人としてぶつかる者がいない。そんなショーが見られるようだ。


〜そこに何かを求めに来るのでしょう

人間は求めるものが無ければ来ないからね〜


コロちゃんは心の中で思った。


ところ狭しと複合施設が建つ。ひと昔なら、森と森の間は沼地か、川へと続く谷だったのでしょう。今や何事も無かったようにビルが建ち並び、高層マンションが地中深くまで杭を打ち込み、次から次へと建設されていく。どこからお金が出てくるのか知らないけれど、一戸数千万円単位で買われていく。


〜何がそうさせるのだろう?〜




「池袋と似ている」

ロコちゃんが言った。



確かにアップダウンはあるけども池袋に似ている。若いんだけどどことなく品性が乏しい街、どこか無理してるって感じだな。


本当はここは無かった街じゃないのか?

それ以上進めなかった最終地点じゃないのか?

不思議と、そう思った。



「人間たちが敷いた電車の都合だろうよ」

ハチが唐突に話した。



〜そうとも限らないだろうけどね〜


確かに渋谷は多摩丘陵の南から、多く人間たちが来る場所だ。南側には武蔵溝の口、武蔵小杉がある。肥沃な多摩川を北側に抱えたエリアだ。溝の口は名の通り、谷間を流れて来た平瀬川が一気にここで多摩川の低地に広がる出口、そして武蔵小杉は今でこそ電車のお陰で便利な所になっているが、元々は工場跡地、その前は沼地が点在していた宿だ。今も大雨が降ると、辛い思いをするってのはその辺が理由だろう。渋谷まで続く多摩川の北側は、見通しの良い広大な原っぱだったに違いない。しかし、人が異常に群がる場所になったもんだよ。


多摩川を超えたら神奈川県だからって事もあるけど、八王子から町田に続くエリアなんて、なぜか無理矢理に東京になってる。いろいろあったんだろうね。やはりここ渋谷に集まる大半の人間って、比較的若い住人たちだろう。


〜ニキは勝手に想像した〜




「でもその若い辺って東京じゃ無いんだよな!」


ふたたびハチが不思議そうに言った。



「だから良いんだよ自由な雰囲気があって、

 だから若いエリアなんだろうよ!」


ニキが覆い被せるように言った。


〜いろいろあったかもしれない〜


渋い谷底って水の流れが悪そうなイメージがあるな。そして荒削りなトゲトゲしい街、渋谷。そしてそこに、そんな言葉が似合いそうな街が出来たわけか!


……………………(^。^)……………………



そんな街に

神宮の森から夜な夜な出歩いている

2人の兄弟がいる。




アオとアカだ。



ここの波長が合うのでしょう。数ヶ所巡ってここに辿り着いたらしい。またこの2人もなぜかニキは知っていた。



「みんなどこから来たんだ?」

コロちゃんは思った。


一体どこからやって来たんだろう?この2人なんか、関西から来た雰囲気を醸し出している。まさか瞬間移動して来たのはこのふたりか!


今の2人の棲み家は明治神宮。原宿を左手に見て、代々木公園を抜けて、公園通りを下って渋谷に来ることが出来る。たまに井の頭通りから入ることもあるけどね。快適な場所のようだ。




渋谷って若者がぐでんぐでんになってその辺で寝ちまってる街だ。どう見ても飲み方知らない兄ちゃん姉ちゃんたちが背伸びして、背伸びしたまま寝ちまってるそんな街だ。米国のフィラデルフィアでは無いけどね。いずれそんな感じに…一番乗りかもしれないな!


しかし、この街には良いところがたくさんあるよ!

そのうちアオとアカが教えてくれるだろうよ。




ところで人間って、本当のところ幸せなのか?

どう言う状態になれば幸福なのか?知ってる?


このエリアが谷底だった頃、人間なんて居たのか?赤い水が流れる事もなく澱んで溜まっていたあの頃、人間は住んでいたのか?我々一族は生きてきた。どんな環境でも生きてきた。追い出されても、ゴミを食おうとも生きてきた。


低い丘と高い丘があって、結局人間には緑豊かな場所になったが、我らの故郷は削りに削られた。ニュータウンを作るためにどれだけの仲間が犠牲になったことか。昔のことを聞かされてるニキにとって、多摩丘陵の悪夢は忘れる事は出来ないだろう。



ふたたび渋谷と言う赤い谷底に、

静寂が訪れようとしている。


ノックダウンされた若者、グチを言い終わった爺さん達、客を逃したキャバ嬢たちがそれぞれのネグラに戻る。多分我々の寝ぐらの方が快適かもしれない。そんな事を思いながら我々4人と、このシマの2人は心が融合していった。



「アオとアカに

あとでゆっくり聞くか?」


コロちゃんは別に焦る事でもないだろう!と思った。

そしてみんなを追いかけていった。


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