第6話 狸穴(マミアナ)
四ツ谷周辺が自分のテリトリーのニキ。棲家は赤坂離宮だ。
今回偶然目撃してしまった時空消滅。
〜直接見たのは初めてだ。衝撃的だった〜
我々種族の宿命か!
それにしても空間消滅の時、閃光が眩しかった。特に夜を得意とする妖術使いにとっては辛いところだ。偶然とは思えない衝撃的な出来事に、ニキは驚きを隠せなかった。
都心部って、もともと東京湾に向かってなだらかなアップダウンが続く谷の世界。
だから東京って谷の地名が多いのか!なぜ谷が出来たのかは知らない。上流から大量の土砂が流れ込んだのか、世間で言われている活断層がズレたのかは不明だ。だから谷は身を隠すのに都合が良い。そして近くに川があり、日当たりの良い場所があるから日陰の場所もつくられる。陰と陽が混在する独特な世界、フラットな地形とは異なってくる。
2人はニキについて行った。
小一時間くらい歩いたかも知れない。
麻布というところまで来てしまった。
「ここはマミアナっていうところだ!」
「マミアナ?」
「そう。狸の穴って書いてマミアナって読むんだよ!」
そうなのか。そんなところに来たのか。
何でまた狸の穴に来たんだ?
〜コロは不思議と思った〜
「こっち!こっち!」
ニキは手招きした。
そこには大きなクヌギの木があった。3人はその裏から入っていった。奥の方からはひんやりとした空気が流れて来る。
「完全に穴倉って感じだ」
御苑の住処よりはるかに大きい。大所帯だな!
〜誰かに合わせる気だな〜
コロはそんな雰囲気を感じた。
最初の門が現れた。榊(サカキ)が供えてある。脇には紙垂(シデ)が垂れ下がっていた。第二門を通過する直前に1匹の狸がこっちに向かってきた。
「ニキ!コイツら誰だ?」
〜めちゃくちゃ偉そうなヤツだ〜コロは感じた〜
「ふたりは宿から連れて来た」
「宿から?」
ニキは新宿で起きた衝撃的な話をした。ロコちゃんはちょっと不安な顔をして、みんなを見ていた。
「という事で、親ナシになってしまったわけだよ!」
〜まだそう決まったわけでは無いけどな!〜
〜実際今はそうなってる。悲しいけど事実だ〜
〜コロちゃんはそう思った〜
「了解した、ちょっとお待ちを!」
ニキからハチって呼ばれてる奴は、第二門の奥へと消えていった。
〜ここは穴倉の割には明るいな〜
ところどころに地上から光が入っている仕組みになっている。穴がポッカリ開いているのでは無くて、何層にも木の葉が重なっているところから薄っすらと陽の光が差し込んでいる。
〜雨風が来ても大丈夫そうだな〜
そんな事を考えながら2人は待っていた。しばらくしてハチとやらが戻って来た。
「どうぞ奥へ!」
「えっ!やっぱり行くのか?」
コロちゃんは怪しげな雰囲気もあるので、適当に切り上げてくれればイイなって思っていたところだ。
〜まあ仕方ないか!〜
三人は第二門をくぐって更に奥へと向かった。第二門の先は大きな広間で、天井が広く外から風も入ってきてる感じだった。
「誰かと会うのかい?ニキ」
コロちゃんは周りを見渡して言った。
「そのうちわかるよ!」
しばらくすると広場の中心部分が光り始めた。そしてその光は、次第に球体に変化していった。直径が3メートル位になったころ、中から巨大な狸がホログラムで現れた。どこからか、データが送信されているように見えた。
「デカい!」
コロちゃんは光り輝く「大ダヌキ」に魅入っていた。しかしレトロな服の割には登場が粋だよ…どこかで見たことあるなこのデザイン!
一方、ロコちゃんは大ダヌキの持ってる大徳利が気になっていた。
「八ってなあに?」
徳利に書いてある「八の字」の意味が知りたかったようだ。その質問に球体の中の大ダヌキが反応した。
「八相縁起から来ているんじゃよ!」
大ダヌキがしゃべった!
「ハッソウ…」
ロコちゃんは全くわかりません。
大ダヌキは少し出た腹の中から、低い声を出して答えた。
「徳利に書いてある文字のことだな?狸や狐は嫌われもするが、人間と一緒に長らく苦楽を共にしてきた。都合が悪くなると追い払われ、姿が見えなくなってくると御利益の象徴の如く崇め祀られる。人間は勝手な生き物だけど、面倒見は本当はいいんじゃよ!」
「我々タヌキに、八つのご利益がある事にしてもらった。ありがたい事じゃよ!まあその中でも徳利を持たせて、徳って言うのを人間たちに身につけさせようとした御尽力は大したもんだと思うよ!八相の中でも一番レベルが高そうな徳目じゃな」
〜そう言えばこのホログラムってどこかで見た事あったな!〜
ちょっと思い出せない。でも香ばしい油の匂いがしてくるのはなぜだろう?
「ポンポコポン!」
ロコちゃんがつぶやいた。
〜球体が反応した!〜
「認証されました。次へお進み下さい」
ホログラム裏でAI音声が聞こえた。
ザーッっと映像が乱れたと思ったら、カサを被った大ダヌキになったり、陶器の置き物になったり、受信状況がいきなり悪くなった。リセットされてる様な感じだった。
そのあと球体に大きな鼻と眼が映し出されてた。最後はゴロゴロもんじゃの店内映像も一瞬出て程なく消えてしまった。
「あっ!お父さん!」
ロコちゃんは見逃さなかった。
もんじゃ焼き屋の天井から撮ったかのような映像だった。白く眩しいスクリーンに映し出された家族の映像、この大ダヌキは間違いなく知っている。僅かの時間だったが遥か彼方から時空を超えて来たような感覚に陥った2人は、落ちる涙を気付かれないように拭いていた。
しばらくすると広間全体から声が響いた…
「安心しなされや。ちょっとの間、夢を見ただけだから!」
「今日から出会う仲間達と仲良く生きて行くんだよ」
ニキとハチはなぜか下を向いていた…
コロちゃんと、妹のロコちゃんは何となくわかったような気がした。心の奥に何か納得した様な感じが込み上げて来た。
4人はマミアナを出て歩き出した。
なぜか全員仲良くスキップしていた。
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