第8話 桜吹雪

 Uさんは高校時代、テニス部だった。

 他校との対抗試合があった。

 季節は春。コート横の桜が花びらを風に散らせていた。


 試合前半、劣勢状態が続いていた。

 すると突然、ある瞬間から風に舞う花びらの動きが、急にスローモーションのようにゆっくりになった。

 風が弱くなったという意味ではない。

 花びら一枚一枚の動きが手に取るようにはっきりと見える。

 コマ送りのスライド写真を見るようだったという。


 と同時に、気づけば相手が打ち返すボールも、スローモーションのようにはっきりと見えた。


 その状態が続くこと、30〜40分間。


 試合に勝った。


 多分ゾーンに入ったんですよ、と言ってUさんが笑った。


 ゾーンに入るって、アスリートの談話などで聞いたことがあるが、そんな長時間ずっと入り続けていられるものなのか。

 経験のない僕には全く想像ができない。

 できることなら是非一度体験してみたい。

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