第3話

 「ここなら大丈夫そうだね」

そう言ったのはあの美しい男だ。


「本当ね。

 最初から山の中にすればよかった」

女はそう答えた。


二人は辺りに家が一軒もない薄暗い山の中に建つ家を見ている。


「静かで人もいないから夏でも外に出れ

 るよ。

 汗で痛む姿を見られることもない。

 それに昼も夜も関係なくできるしね」

男のその言葉に女は嬉しそうな顔をした。


家の中に入り、引っ越しの荷解きをしていたのだが、急に男は女の腕を引っ張っり、優しく首筋に接吻をした。

唇の温かさと男の吐息が感じられ、女は小さく息を吐く。


もう我慢しなくてもいいのだ。


その思いが二人を獣へと変貌させた。

男は女を畳へ押し倒し着物を荒々しく剥ぎ取る。

白く美しいその体とは裏腹にあちこちにうっすらと傷跡が浮き出ていた。

男は剃刀を取り出し、目の前の裸体へとソッと這わせていく。

銀色のやいばが体を這い、その冷たさにピクっと体を震わせる。

しばらく焦らしたあと、剃刀の刃を立て女の皮膚を切り裂く。

悲痛な叫び声を上げるが、その声には甘さと喜びが混じっている。

男は白い肌に滲む赤い血をみて

「美しい…」

ともらした。


“もっと頂戴”と女の瞳が懇願している。

男は引っ越しの荷物の中からむちを取り出し、女めがけて振り下ろした。

肉を打つ音が空気を震わせる。

声にならない悲鳴がさらに興奮をあおった。

続けざまに何度も何度も振り下ろす。

白い肉体は艶めかしくクネクネとのた打ち回っている。

どれくらいの時間が経っただろうか…

薄ピンクの蚯蚓ミミズ腫れがいくつも肌に浮き上がっている。


「なんて綺麗なんだろう。

 美しい、美しい」

そう言いながら傷口に噛みつき、舐めていく。

痛みに女は悲鳴をあげるが、これは喜びの悲鳴だ。

男はその甘い悲鳴を聞きながら女をいたぶり続けた。

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