第8話アランside3

「ガルボ、この場であの二人を取り押さえる事は可能か?」

「縄があれば余裕です。店主に縄があるか確認してきます」


 ガルボはそっと席を立ち、店主に金を見せて掛け合っているようだ。護衛が男の方を取り押さえますと小さな声で俺に告げた。ガルボが縄を持って席へと戻ってきた。


「準備は出来ております」


 俺達は頷き合った後、すぐに行動に移した。無言のまま護衛は男の腕を捻り上げ縄を締めた。ガルボも同じようにノーラの腕を引っ張り席から立たせると後ろ手に縛った。


「ちょ、ちょっと!!なにするのよ!おっさん!!!」


 くって掛かろうと大声で睨みつけるノーラ。けれど、その目にアランが映ると途端に可愛い令嬢の仕草をし始めた。


「君にはがっかりだ」


それだけを言葉にし、二人を連れて酒場を出て待たせていた馬車に乗り込んだ。


もちろん行く先は王宮だ。




 王宮の入り口で門番に止められ、事情を聞かれたが、理由を話すとすんなり入城する事が出来た。そして普段お目に掛かる事のない騎士団長と数名の騎士がノーラ達を引き取りにきた。


「ご協力感謝します。でも良かったのですか?貴方の想い人だったのでしょう?」

「違います。俺は騙されていた。いや、気づこうとしなかった俺が彼女を付け上がらせてしまったのです。想い人ではありません」

「そうでしたか。他に何か聞きたい事はありますか?」

「カテ草の茎とは何なのでしょうか?」

「……カテ草の茎?あぁ、王都にはありませんがありふれた毒草ですよ?平民の子供はよく間違えて採取して食べてしまうのですよ。遠征にいくと偶に見かけますね」

「食べるとどうなるのですか?」

「軽ければお腹を壊す位ですが、弱っている時に食べてしまうと命を落とすらしいです」


俺はその話を聞いて背筋が冷たく感じる。


「げ、解毒薬はありますか?」

「ありふれた物なので解毒薬はないですが、民間療法で間違えて食べてしまった時はエテの実を食べさせるらしいです」


 騎士団長は不思議そうな顔をしながらそう答えた。俺はこの場をガルボに託してクオッカネン侯爵家へ急いで向かう事にした。途中に野菜や果物を売っている店に寄ってエテの実を籠ごと買って。



「侯爵に、侯爵に急ぎお会いしたい!」


 クオッカネン侯爵邸に到着してすぐに大声を張り上げた。門番は不審な目で俺を見ていたが、家紋を見て何かあったのだろうと執事を呼んできてくれた。


「アラン・ピシュノヴァー伯爵子息。侯爵様は先触れの無い方とはお会いいたしません。どうぞお引き取りを」


執事は睨みながら俺を追い返そうとしている。


「待ってくれ!お願いだ。マノア嬢の事についてだ。一刻を争う。どうか、どうか侯爵に取り次いで欲しい」


俺は土下座をして執事に懇願した。


 マノアの名前が出たからか、俺の必死な様子が伝わったのか分からないけれど、侯爵に掛け合ってみると言われそのまま門の前で待つことになった。俺はマノアが死に向かっているのが怖かった。


最悪の事態を考えないように必死になっているけれど、それでも不安は消えず手が震えてしまう。マノアの方が苦しくて悲しい思いを沢山してきたはずなのに。俺は不甲斐ない。


「アラン君、どうしたのかな?とりあえず邸に入りなさい」


 侯爵は怫然としていたが、邸の中へと入れてくれるようだ。サロンに案内され、執事からお茶を出されるが、手が震えて飲む事が出来ない。


「で、話とは何かな?手短に願おう」

「……した」


 俺は土下座し、頭を床に擦り付け震えながら言葉を口にしたが上手く話せない。


「何か言ったか?」


侯爵は苛立つような声で聞いてきた。ゆっくりと、勇気をふり絞り言葉にする。


「先ほど、ノーラ・サンドス男爵令嬢を王宮に引き渡してきました」

「ふむ。それで?」

「マノア嬢が飲んだ毒は、カテ草の茎が混ぜられていたそうです。今飲んでいる解毒剤だけでは駄目だろうと……」


毒の話をした瞬間に侯爵の声色が変わった。


「何!?もう一度顔を上げて言ってくれ」

「マノア嬢が口にした毒は一種類だけでなく、少量のカテ草の茎が混ざっていたそうです」

「それは本当か!?」

「はい。ノーラが平民の男と酒場で飲んで話をしている所を聞きました。マノア嬢を殺す計画を立てていたと」


 俺はその場でノーラが笑いながら話していた事実を話す。詳しい調査は後日王宮であると思うとも話した。そして執事が俺の馬車から籠一杯に詰まれたエテの実を降ろしてきたようだ。


「エテの実がどうかしたのか?」

「カテ草の茎を誤って食べた時はエテの実を食べると教えてもらい王宮から来る途中に用意をしてきました。俺が出来ることは何もない、です。マノア嬢を傷つけてばかりでした。俺は面倒な事から逃げてばかりで知ろうとしなかった。本当にすみませんでした」


 俺は、自己満足だと自分で思いながらも平身低頭で謝るしかなかった。侯爵は許すとは言わなかったが、エテの実を受け取った。


 俺はそのまま邸に帰る事になり、執事が馬車まで送ってくれる。俺は執事にマノア嬢が良くなる事を願っている事と、これから領地に帰りますと伝えて帰宅した。


 先にガルボは帰っていたようで父達に話は伝わっていたようだ。男爵とこれで縁が切れると大喜びだったが、今後の事を考えて複雑な思いも見え隠れしていたようだ。

 俺にはまだまだ分からない事も多くて今後どうなるのか無い頭で一生懸命考えるしかなかった。




 俺はノーラの一件で領地に向かう予定が少し遅くなった。その間にノーラがマノア殺害を計画していたと自白した後、自殺したと王宮から連絡があった。そしてノーラが自殺したその日にマノア嬢が目覚めた事を聞いて少し気が晴れたような気がする。




 領地に向かう馬車の中で出発直前に貰った手紙を見た。止め処なく涙が溢れ、嗚咽がこみ上げた。


『アラン様、どうかお元気で』

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