第2話

 私は深く息を吐いた後、死神の手を解きソファへと座って父達の様子を覗う。


「マノア、目を覚ましておくれ」

「もう起きる時間よ。……うぅっ」

「父さん、母さん、俺が付いていながら。ごめん。俺とコリンナが席を外さなければ。……あいつはそろそろ家に来るんだろう?書類を用意しないと」


 兄はとても苦しそうにしながらギュッと手を握りしめ震えている。あぁ、私は兄を苦しませてしまった。家族が苦しむ姿に心が痛いと訴えている。涙が止まらない。私はここにいるわ!そう伝えたくても何もできない。でもこのまま消えたくない。叫びたい気持ちを我慢するしかない。


「……あぁ。そう、だったな。あいつだけは許さん。マノアがこうなったのもあいつのせいだ。婚約者なのに隣にいたマノアを放り出し男爵令嬢の介抱をしたのだったのだな」


 王宮で行われていたお茶会は貴族の交流が目的だったので王宮の中庭で沢山の円卓が設けられていて一テーブルに四人が座っていたの。私の席には私と私の婚約者であるアラン・ピシュノヴァー伯爵子息。兄のエッシとその婚約者のコリンナ・マンナル伯爵令嬢。一応、我が家はクオッカネン侯爵家。


 兄とコリンナ様はとても仲が良くて来年には結婚式を挙げる予定なの。私とアランは三年前に婚約をしたのだけれど、彼の心の中には幼馴染のノーラ・サンドス男爵令嬢がいたわ。私には手紙や花の一つもプレゼントは無かったし、ドレスも送られてこなかった。もちろん舞踏会に参加する時は最低限エスコートをして会場入りした後、私を置いてノーラとダンスを踊るのが当たり前だった。


そんな彼と何故今まで婚約を続けていたのかと言うと、彼の両親から必死と言ってもいいほどに願われたからだ。


 ピシュノヴァー伯爵家は借金こそないけれど領地で災害がよく起きており、豊かではない。災害を減らすために我が家から技術協力が欲しかったのだと思う。私は貴族である以上家との繋がりで結婚するのは理解していたので特に口を出すこともなかったの。


それに私がアランの事を好きだったというのが一番の理由だと思う。


 初めて会った時に微笑みながら手を差し出してくれたアラン。一目で好きになってしまった。ドキドキしながら手を繋いで庭を案内した事を今でも覚えているわ。


でもアランは違ったみたい。


 家の事を押し付けられた、仕方なくとでも思っているみたい。いつも私を誘う事無く隣のサンドス男爵領のノーラと二人で遊ぶ事が多かった。ノーラとアランは仲が良かったけれど、災害の元は男爵領なのでよくピシュノヴァー伯爵領に避難してくるノーラを伯爵が許せるわけもなく。思い合う二人の婚約は認められなかったみたい。


 思い合う二人の仲を裂く私、マノア・クオッカネン。劇のネタにされそうな話だけれど、学生の頃に噂にならなかったわ。我が家と伯爵家で手を回していたから。むしろノーラがアランに付きまとっているという噂が出たくらいなの。


私は結婚すればアランもノーラも諦めてくれると思っていたわ。アランに恋愛感情はなくても家族にはなれると思っていたの。


……最後に彼が選ぶのは私だと思っていた。

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