第67話

「ホルムス様、私元気になったし、もう大丈夫。だからもうおうち帰りたい」


「・・・そうですね。私も限界です。我が家に帰りましょう」


その後、ホルムス様は明日家に帰ると陛下に申し出てくれた。ホルムス様と一緒に部屋で食事をしていると、ノック音と共に陛下が部屋へ入ってきた。


「ファルマ、具合はどうじゃ?」


「タナトス様、もうすっかり元気になりました」


「無理はせんでいいぞ。ずっとここに住んでくれると儂も嬉しいのだがな。ホルムスがファルマの手料理が食べたくて仕方がないらしい。これを持っておいで」


タナトス様がくれたのは金貨が沢山入っているであろう大きな袋と指輪だった。


「タナトス様、これは?」


「この金貨は侯爵が差し出した金貨だ。折角のバカンスを駄目にされた慰謝料だ、持っておいて損はないぞ。それとこれは王族の庇護下にある印だ。これをしていれば手を出す輩は格段に減る。常に身につけておくのだぞ」


 私はホルムス様に視線を向けると彼は『受け取っておきなさい』と言っていたので有難く頂戴することにした。


「タナトス様、有難うございます」


「そうじゃ、今日はちょうど各家のデビュタントの舞踏会がある。ファルマはデビュタントをしておらなんだな。どうじゃ?帰る前に参加してみるか?」


突然の申し出にどうしようかと迷っていると、


「ファルマ、私のエスコートで参加しませんか?」


「ホルムス様、いいの?でも、私、デビュタントの歳を過ぎてるよ」


「私はファルマのドレス姿を見たいし、また一緒に踊りたいです。それではだめですか?」


「・・・分かった。ホルムス様の為に出るね」


「ホルムス、良かったの。本来なら親が娘の為に準備するのだ。儂が義娘のドレスはしっかりと準備しておるぞ。パジャンに侍女を向かわせた時に報告を受けていたから作らせておいた。凄いだろう?」


私はタナトス様に抱きついた。


「タナトス様有難う!私、嬉しいっ」


するとホルムス様がさっとタナトスさまから私を引き離す。


「ファルマ、抱きついては駄目ですよ」


「ご、ごめんなさい」


「ははは。ホルムス嫉妬は良くないぞ。まぁよい。さぁ準備を」


 陛下が手を叩くと待ってましたとばかりに侍女が入ってきてデビュタントの準備に取り掛かった。


勿論ホルムス様は別の部屋で準備をしているらしい。しっかりと磨き上げられていく私。着せられたドレスを見てちょっとびっくりする。白をベースとしたドレスにホルムス様の色が随所に取り入れられていて刺繍に王家の紋章があしらわれているわ。


普通なら王女様が着るようなドレスだと思う。私は侍女に何度も確認してしまった。いいのかと。侍女達は微笑みながら愛されていますねと返されてしまったわ。


準備を終えたちょうどその時、ホルムス様が迎えに来た。


「・・・」


「ホルムス様、変ですか?」


「・・・ファルマ、素敵ですよ。他の者には見せたくありません」


「ふふっ。嬉しい。有難うございます」


 そして彼のエスコートで会場へと向かった。私達が一番最後の入場となったようだ。令嬢達が浮足立っているのがよくわかる。


そうよね。


デビュタントって特別な日なんだもの。


令嬢達は親や婚約者と共に陛下と王子殿下へ挨拶をしてからダンスが始まる。私たちは一番に陛下の元へ挨拶にいく事になったわ。


「ファルマ、良く似合っておる。ホルムスよ、しっかりとな」


「・・・陛下、勿論そのつもりです」


軽く言葉を交わした後、音楽が鳴り始めた。本来なら王子殿下達が踊るのだが、陛下の計らいで私とホルムス様が皆に注目される中ダンスを踊り始めた。


「ファルマ、ようやくデビュタントが叶いました。ドレスも良く似合っていてとても素敵ですよ」


「ホルムス様、有難うございます。一生に一度のダンス、叶わないものだと思っていました。本当に嬉しいです。それにホルムス様と踊れて良かった」


 私はホルムス様のリードでクルリとターンをして曲が終わった。次の曲からはデビュタントの令嬢達が踊り始めるので一番初歩のワルツが流れる、はず、なのに曲が止まったまま。


私は不思議に思い、ホルムス様を見つめると、突然彼は跪き私の手を取った。


「ファルマ嬢、私は貴女の優しさ、温もり、勇気全てにおいて心惹かれて止みません。どうか我が妻となって欲しい」


シンと静まり返った会場は私とホルムス様に視線が向けられている。


高鳴る胸。ドキドキして手が震えるわ。


私の答えは、


「ホルムス様、お慕いしております。どうぞ私を妻にして下さい」


今にも心臓が口から出てきそうなほど緊張した中での言葉。きっと震えていたと思う。


ホルムス様は私の手をぐっと引くとそのまま私を抱きしめてキスを落とした。会場は黄色い声で溢れかえる。


あぁ、こんなに感動して幸せになって嬉しくて、どうすればいいのか混乱してしまう。


そこに陛下の声が響いた。


「ようやく我が息子ホルムスの相手が決まった。皆も祝福を。そしてこの二人の邪魔をすることは儂が許さぬゆえしかと心に刻むように」


すると会場に居た全ての貴族達が臣下の礼を取った。私達も陛下に向けて礼をする。


「ホルムス、ようやくだな。おめでとう」


「有難き幸せ」


「ファルマ、ホルムスを頼んだぞ」


「必ずホルムス様を幸せに致しますわ。お義父様」



そうして皆に祝われながらデビュタントは無事終える事が出来た。


「ホルムス様ー早くー帰って唐揚げ食べたい」


「ファルマ、私も早く貴女の傍でゆっくりしたい。一刻も早く村へ帰りましょう」



 翌日、皆に祝福されながら一足先に婚姻届けを出して村へと発った。結婚式は村でひっそりとあげるつもり。そうはいかないかもしれないけれど。


今まさにホルムス様に抱えられて森を飛んでいる。


私、今一番幸せです。


【完】

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