第66話

 私がホルムス様の袖をギュッと掴み離さなかったせいで私を抱えたまま侍女達に指示を出していた。


流石に王宮医師が到着すると診察の為に外に出された。どうやら蹴られたり踏みつけられた箇所が出血を伴っていて相当酷い感じだわ。


もちろん治癒魔法で綺麗さっぱり治してもらえたの。心配されたけれど、勿論純潔は守り抜いたわ。


医師からは心が落ち着くまで安静にしているようにと言われた。その間、ずっとホルムス様は私に付いてくれていたわ。何故か食事も手づから食べさせてくれたりして過保護になった感じ。



 数日ホルムス様と一緒に過ごしている間に私も落ち着いてきた。そして誘拐の話を改めて聞いたの。


「師匠、あれからどうなったの?」


「ホルムスですよ、ファルマ」


「ホルムス様」


「あれから騎士団が彼等を捕縛し、牢に入れました。あの女はやはりマリーナ・ダリル侯爵令嬢だったようです。彼女は貴族牢へ入れてあります。まぁ、ファルマを狙った時点で処刑をしても良かったのですが一応生きてはいますよ」


「一応?」


「ええ。ファルマのスキルで虫達は大暴れし、彼等は大怪我をしていましたが、治療せず牢に入れてますからね」


なんとも言えない。こればかりは仕方がないよね。自分の身を守るのに必死だったんだもの。


「侯爵令嬢はこの後どうなるの?」


「さぁ?良くて修道院か娼館行き、悪ければ処刑もありますね。ファルマの名誉の為に公にはされませんが」


そんなに重いんだ。


「どうしてそんなに重いの?」


「あぁ、ファルマは知らなかったでしょうが私が王位継承権を放棄する時に貴族たちに私には構うなと陛下から命令が出ているのですよ。それを無視して私のファルマを攫った事や、私を脅すように手紙と婚姻届がコテージに届けられたのです。


馬鹿な女だ。ファルマへの暴行、人身売買、強姦教唆、恐喝、命令違反など色々な罪があり過去の余罪を含めると、同情の余地はないですよ」


余罪・・・。


そういえば過去に他の令嬢も強引にって言ってたね。それにしても私を攫ってホルムス様を脅して婚姻させようとしてたって馬鹿だよね。


彼女の中ではホルムス様が脅しに負け、婚姻届けにサインして、私を探したら既に男たちにもてあそばれ、娼婦にされて引き返せないようになってたわけでしょう?ありえないわ。


私はホルムス様にギュッと抱きつき胸に顔をうずめる。


「まぁ、侯爵も今まで娘のしたことを金で解決していたようで今回の事は知らなかったとはいえ、連座で強制労働となるでしょうね。折角のファルマとの旅行が台無しです。


落ち着いたら二人で国外にでも旅行に出かけましょう。もう誰にも邪魔されたくないですからね」




そして私を攫った人達の刑は執行された。


 元ダリル侯爵令嬢は失明したままの状態で娼館送りとなった。実行犯の男2人も治療される事なく国外への追放となった。事実上の処刑と言っても過言ではないだろう。


護衛は令嬢の護衛をしていただけだったが、犯罪を止める事をしなかったため、治癒魔法を施された後、5年の強制労働と罰金刑となった。令嬢の従者も同じく強制労働となった。


侯爵は令嬢の監督責任も含め爵位剥奪の上、強制労働15年。夫人は修道院へ送られる事となった。


 直接陛下が罪状を言い渡す所を見ると気持ちが不安定になると思ったので刑を執行した後、ホルムス様から聞いたの。不安で取り乱してしまうかと思ったけど、思っていたほどではなかったわ。




それからは私の気持ちが安定するまで療養させる、という名目で王宮で暮らすことになった。ホルムス様はすぐに村に帰ろうとしていたけれど、タナトス様が引き止めていたっぽい。


 私は最初こそ人を見かける度にビクッとしていたけれど、王宮で過ごしている間に気持ちも楽になったし、よく庭園を散歩するようになった。


ホルムス様は出来る限り傍に居てくれるのだけれど、王宮薬師の人達や王子殿下達がここぞとばかりにホルムス様にポーションや薬草、政治について話があるようで忙しくしているわ。


私のせいで何だか申し訳ない。


そうして魔物討伐で怪我をしたというタナトス様を治療しながらダラダラと王宮で暮らして半年が過ぎてしまった。

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