第63話

 翌日、朝食を摂り、街へ出かける事になった。すると従者から『本日の夕方からホテルで舞踏会が行われます。是非ご参加下さい』と言われたのよね。


「師匠、私ドレス持ってないよ?」


「そうですね。城から送って貰いましょう」



 私たちは転移陣のある施設へと移動し、ドレスを送って貰うように手配してもらった。昼過ぎには王宮侍女がドレスを持ってホテルに到着する予定らしい。私達はそれまでの間街を見て回る事にしたの。


「さぁ、ファルマ手を繋いで。迷子になりますよ」


「もうっ、子供じゃないよ」


そう否定しながらも師匠と手をつないで街へと歩き出す。師匠の手は暖かくて包み込むような感じがした。暖かい気候のせいか人々はどこか陽気な感じがするわ。


 魔物はいるけれど、他国との戦争がないからかもしれないわね。戦争の切っ掛けって思想だったり領土争い等様々な理由で起こるのだろうけど、この世界は魔物が攻めてくるので気を抜けないせいか国々は協力し合っているように思う。


その辺を考えると優しい世界よね。でも世界に魔物が居なくなればきっと争いは起こるんだろうなぁ。



 この海辺の街は露店が多く出ていて海産物が売られている。干物にしてあったり、工芸品だったり、加工してあったり。威勢のいい掛け声があちこちから聞こえてくる。


「師匠、賑やかで楽しいね。王都や村とはまた違った感じだね」


「そうですね。村に住んでいたらここはかなり賑やかですね」


「師匠、あれなに?」


私は店の周りに人が沢山いる所を指さす。


「何でしょうね。行ってみましょう」


 私達も人だかりのある店を覗いてみる。歌いながら実演販売をしているみたい。よく見ると小玉スイカのような物にカービングを施しているようだ。


「師匠、凄いね。食べるのが勿体ないよね。でも食べてみたい」


「そう言うと思いました。店主、1つ下さい」


私達はカービングがされたスイカっぽいフルーツを1つ貰い食べてみる。


「美味しいね。甘いのに果汁たっぷりで水分補給には良さそう。全部食べちゃえるね」


「ほらほら、ほっぺに付いてますよ。急いで食べるから。沢山食べてお腹を壊さないようにしないといけないですよ」


師匠は微笑みながらハンカチで私の口元を拭ってくれたわ。


「じ、自分で拭けるよっ」


私は近づいてきた師匠の顔に恥ずかしくて顔が真っ赤になった。


「そっ、そういえば舞踏会って何するの?踊ったり軽食食べながら人のダンスを見てる感じなのかな?」


「大体合っていますよ。折角ダンスも習ったのだから一緒に踊りましょう」


「うん。師匠と一緒に踊るの楽しみ」


私達は話をしながらイカ焼きぽい物や魚が串に刺さって焼かれているのを買って食べ歩きをしたわ。とっても美味しかった。


「さあ、ファルマそろそろコテージに戻りますよ」


「はぁい。また明日も食べ歩きできるといいなぁ」


「ふふ。そうですね」


私は師匠と手を繋ぎながらコテージへと帰っていった。




「ホルムス様、ファルマ様、お待ちしておりました。では舞踏会に向けて始めさせて頂きます」


どうやら王宮からの派遣で3名の侍女が付いて準備をしてくれるみたい。ありがたや。


 お風呂に入って、マッサージをして、ドレスを着て、お化粧をして。舞踏会が始まる前からぐったり。侍女達はとても綺麗だと褒めてくれたわ。自分でも別人じゃないかと思うほどに美しく仕上がっている。


「師匠、お待たせ」


私は部屋を出ると師匠も私のドレスと色を合わせたタキシードを着ていた。なんて素敵なんだろう。見惚れてしまう。


「・・・ファルマ、とても美しいです。神々もその美しさにひれ伏してしまいますね」


「師匠も、とても素敵、です。一緒に舞踏会に出る事が出来るなんて嬉しい」


「ファルマ、これからは師匠ではなく名で呼んで下さいね」


「はい。ホルムス様」


改めて言うとなんだか恥ずかしい。



 私はホルムス様のエスコートでホテルの舞踏会会場へと向かう。エスコートされる姿を見た侍女達が一枚の絵になりそうだと言ってくれてちょっと恥ずかしかったわ。従者に案内されて向かった会場。


日も落ち始めているが会場の明かりが煌々とホールを照らし出し、華やかな雰囲気を醸し出していた。


「ホルムス様、私、初めて参加したのだけれど、貴族や王家が主催する舞踏会もこんな感じなの?」


「ここはホテルが主催だから王宮で行われる舞踏会より砕けた感じですね。主催者の意向によりダンス上級者のみ参加が許されたり、ドレス等の衣装にルールを設けていたりするのもありますから。


この会場では踊りを楽しめればそれでいいのですよ。あぁ、ただ一般人や貴族が交じり合うので女性は狙われやすくなります。必ず私から離れてはいけませんよ」


「わかりました。怖いし、絶対離れません」


 私はホルムス様の手をギュッと握るとホルムス様は微笑みながらポンポンと反対の手で私の手を包んだ。ホルムス様にとっては些細な事かもしれないけれど、私にとっては凄く安心出来る感じがしたの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る