第62話 ホルムスside

 ファルマと暮らし初めて既に4年。拾った時は手の掛かる子供だと思っていたが、むしろ私の方が子供だと感じるほどファルマは大人びていた。


ファルマが作る手料理は最高だと思っている。本人は田舎の家庭料理なんて言っているが、一般的な家庭はパンと塩味スープだけだ。


 そして12歳だったファルマは美少女と言ってもいいくらいだったが、16歳になった今は少女から女性に切り替わるなんとも爽やかな色気が出てきたように思う。美少女が美女に成長していく姿は私1人だけ知っていればいいとさえ思うようになっている。


いつの間にかファルマは私の心の中に入ってきた。


師匠、師匠と人懐っこく甘えてくる姿は愛おしいとさえ感じる。助手としても優秀だ。薬草畑の薬草達も他で採取するより効果が高いように感じる。


あの陛下が認める少女。ファルマがレンスと北部の街ラーザンドへ向かった時、私も同行出来ると思っていた。


いつもいるファルマが居なくなると、今まで感じたことのない寂しさに襲われた。ファルマが転移した後、陛下から呼び出しがあった。私は嫌味の一つでも言われるのかと渋々陛下の執務室へと向かう。


「陛下、只今参りました」


陛下は手を止めて執事の差し出すお茶をのみこう言った。


「ホルムスよ、待っておった。どうだ、ファルマが居なくなって寂しいか?ファルマの事なのだがな。儂はホルムスとファルマを結婚させたいと思っておる。だが、邪魔が入る可能性があるのだ。


今回の視察に同行させたのもファルマを周囲に認めさせるためだ。そして視察に出かける前に行った試験。


あれはラカン総合学院の単位認定と卒業を兼ねた試験だ。試験の結果はまだ出ておらんが、学長の話ではダンス以外はほぼ合格だといっておった。学院に通わずに卒業とは偉いな我が娘は」


「確かにファルマは優秀ですね」


「確認するが、ホルムスはファルマと結婚したくないのか?どうやらファルマの持つ魔力に気づいたフィンセントもレンスもファルマを気に入りはじめておる。あやつらの妃にファルマを差し出しても良いのか?」


「・・・ファルマが望むなら我が妻に」


「お前は奥手だからな。儂はその言葉が聞けてホッとした。ファルマが視察から帰ってきたらしっかりと声に出して捕まえておかねばならんぞ?もう16だ。それにあの見目。他の男に狙われる可能性も高い。分かっておるな?」


「・・・そうですね」


「まぁよい。それ以上は言わぬ。後は自分で頑張れ」


私は礼をして執務室を出た。足取りは重い。陛下の言っている事は尤もだ。ファルマは美しく育った。天真爛漫だが頭もよく器量もいい。


だが、私はファルマに釣り合うのだろうか。


ファルマは私を選んでくれるだろうか。




 家に帰って薬の研究を再開するがあまり進まない。エトがファルマの代わりに家の掃除をしたり、食事の世話をしてくれているが何かが違う。味気ない。私はこんなにもファルマが居ないと駄目な男だったのだろうか。


悶々とした日々を過ごしているうちにファルマから手紙がきた。迎えに来て欲しいと。


「エト、私はファルマを迎えに行ってきます。少し気分転換に旅行も考えているので店を閉じて王宮に帰っておいで。家に相当帰っていないだろう?」


「ホルムス様、私の事は大丈夫です。ですが、陛下の指示もありますので一度帰還致します」


「ああ、そうしてくれ」


そして私は王宮へと一足先に向かった。


久々に会うファルマ。私の心配を他所に元気にしていたらしい。反対に私の心配をされてしまった。ファルマらしいな。


どこかほっとする自分がいる。


 どうやら試験はダンスだけが不合格だったようだ。一生懸命踊っているファルマ。カザール先生の指導のおかげだろうか短期間の間に踊れている。


学院には平民も多く入学するためダンスは必要最低限のステップを踏めれば合格となったはずだ。


今のファルマなら合格は出来るだろう。


 カザール先生の勧めでファルマと踊る事になった。何年も踊っていないが体は覚えていたようでほっとする。


ファルマとのダンスは正直な所ドキドキと胸の高鳴りが響いていた。こんなに近くにファルマを感じたことがあっただろうかと。ファルマも楽しそうに踊っていたので私も嬉しくなる。


 翌日の試験は見事合格した。ファルマは騎士団の試験だと思っていたようだ。騎士達の試験は実技以外はもっと簡単なのだがな。




 そして待ちに待ったパジャン。この街は暖かくとても過ごしやすい。海産物料理が有名なのでファルマと沢山街で食べ歩きをしてもいいな。ファルマと浜辺を歩くとカニがファルマを攻撃しようとしていた。


私はファルマを守るべくカニを丸焼きにして退治したのだが、それを見ていたファルマは食べたそうにしている。普通なら怖がりそうなのだが食欲に変換しているのがファルマらしい。


 ホテルに従者を手配してもらい食べれるかどうかを確認するとカニは食べれたようだ。早速ファルマが爪の部分を折って食べようとしていた。


 そして従者を連れて浜辺に戻り他にいないか確認しているさなか、ファルマはキャッキャとはしゃぎながら海に足を浸けている。


その様子はとても可愛く、見ている私も癒されるが、よく見ているとファルマを襲おうとカニや貝達が砂から這い出てくる。


どうやらそれがファルマにとって面白かったらしい。


足を怪我したらどうするんだ。


私は怒りながらカニ達を風魔法で捕っていく。ファルマは私なら全部狩って怪我はしないはずだと踏んでいるのではないだろうか。ファルマから全幅の信頼を寄せられているのだと思うと少し気恥ずかしい気持ちになるな。


あぁ、明日からは何をしてファルマと過ごそうか。考えるだけでも楽しい。

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