第61話

「師匠、ここがパジャンの街?」


「ええ。とりあえず宿へ向かいましょう」


 私は師匠と共に転移陣から出て宿へと向かう。


 施設を出て初めに目に飛び込んできた景色。南部の街は北部と違って白い壁や薄い色の壁が多い気がするわ。北部は少し肌寒い感じだったけれど、南部は湿度が高くて少し動けば汗が出てきそうな感じ。


きっと虫達は沢山いそうな気がする。


師匠が取ったホテルは観光地でも有名な高めのホテル。外国のリゾートホテルに出てきそうなコテージといえば伝わるかな。1棟の貸切。その中に3つの客室やサロン等の部屋があった。でも、よく見るとコテージは海から遠い。


「師匠、なんでこのコテージは海から遠いの?」


「?ファルマ?海には魔物がいますからね。ただ眺めるだけが殆どですよ?」


やはり海の魔物が問題だったのか。いや、薄っすらは知っていたのよ。本で知識はあったから。でもさ、実際に来てみると凄く綺麗なアクアマリンの海だよ、泳ぎたくなっちゃうよね。


「海で泳げないの?」


「泳げるには泳げるでしょうが、魔物に食べられてしまうので泳ぐ人は殆どいないでしょうね」


「やっぱりそうだよね」


「近くなら行けると思いますよ。いってみましょう」


「うん。折角だし、行ってみたい」


 私は部屋に荷物を置いてから師匠に早く早くと急かした。


 師匠と一緒にコテージから少し歩いて浜辺までやってきた。どんな魔物がいるんだろう。浜辺は魔物もいなさそうで穏やかな海に見える。


すると突然砂の中から大きな鋏が見えて後ろに下がる。それは大きなカニだった。50センチはあるだろうか。カニ!食べたい!師匠は私を後ろに隠すように前にでている。


「師匠、あのカニ食べれるんじゃないの?」


「さぁ、食べた事はないですが捕ってホテルの料理人に食べれるか聞いてもいいですね」


カニやエビが捕れたらバーベキューなんていいかも!そう思っていると師匠はさっと火魔法で焼いて倒したみたい。


「やっぱり師匠は凄いね。それにいい香り。食べてみたい」


 食べたいとせがむ私をなだめ、カニをホテルに持ち帰り、ホテルの人に見てもらった。どうやら食べられるらしい。絶品なのだが大きく狂暴なので怪我人が絶えないのだとか。狂暴なので専門の漁師がいるほどらしい。


私たちは地元に住んでいるというホテルの従業員を従者に付け、浜辺を歩く事にしたの。


その方が安全だし、食べれる物かどうかをその場で判断してもらえるからね。海が綺麗なので足をつけてみたくなるのは仕方がない。海に素足をつけると気持ちいい位の海水温。


キャッキャと走りたくなるよね。パシャパシャしちゃう。



その度にカニや二枚貝に襲われ、師匠の風魔法で陸に上がった食糧達。師匠に怒られたのは言うまでもない。


「ファルマ、それくらいにして海から上がりなさい。私の心臓が保ちません」


「はぁぃ。楽しかったの。カニや貝が沢山採れたね。バーベキューをしようよ」


「それはいいですね。晩御飯はそれにしましょうか」


 従者は師匠と共に採ったカニと貝を持って、バーベキューの準備をしてくれるみたい。私は醤油と蜂蜜を混ぜたタレを作っておく。塩味オンリーでも美味しいんだけどちょっと付けると格段に美味しくなるよね。


焼いたときの香ばしい香りとか食欲をそそる。なんだかんだとお昼は食べていなかったので早めの晩御飯にすることになった。

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