第54話

「それでは出発!」


 団長さんの合図で騎士達は歩き始めた。レンス殿下は気を使ってくれているのかよく私に話しかけてくれる。師匠の話が多いかな。好きな食べ物や趣味の話をする。


でもね、村に住んでいるから価値観は王都と違っているわ、残念ながら。王都のご令嬢達が観劇や刺繍に興味があって装飾品が好きなのは知っているけれど、私はそのどれも興味はないかな。


あ、でも師匠が買ってくれた髪飾りやネックレスとか腕輪とか嬉しくてずっと着けてるけどね。


 私の今の一番の興味は師匠と一緒に薬師になる事かなぁ。畑の野菜達にも大いに興味が湧いている。湧きっぱなしね。


その話をすると若干引かれたような気がするけれど、そこは王子。上手く会話を流しているわ。



 そうして話をしながら麓までたどり着く。


 今回霊峰に入らない予定らしい。霊峰にはアイスドラゴンの住処があり、縄張り意識が強いらしくすぐ飛んで来るのだとか。原因が山にあるのなら一旦引き返し、相応の装備して挑む必要があるのだとか。


「レンス殿下、魔物が増えていますね。山が原因かと思いましたが、山から魔物が降りてくる感じではなさそうですね」


 騎士団達が遭遇した魔物と戦っている間、私は邪魔にならないように着かず離れずの距離で見守っているしかないのでスキルを使う事にした。


『近くにいる飛ぶ虫よ、私の元へ』すると雪虫っぽい虫やガガンボのような残念ながら攻撃力のない虫がやってきた。


こればかりは仕方がないわよね。『魔物が多くなっている場所を教えて』すると虫達は旋回しながら教えてくれている。


言葉は話せなくても案内は出来るらしい。ちょうど騎士達も魔物を退治し終えたみたい。


「フェルナンド団長さん、魔物が多くなっている場所に向かいますが、行ってもいいですか?」


「あぁ、それは不味いな。これより多い魔物の場所にこの人数で行くと魔物を刺激してしまうな。カルファロに頼むか」


「フェルナンド、僕も付いて行きたいんだけど」


「レンス殿下はここで団員達と待機しておいて下さい。危険ですから」


「・・・仕方がない。フェルナンドの言う事は尤もだ。いつでも戦闘の準備をして待機しておくよ」


フェルナンド団長さんの指示でカルファロさんという騎士が呼ばれた。


「カルファロ、これから私とファルマは魔物が多く集まっている場所へと様子を見てくる。スキルを掛けてくれ」


「承知致しました」


 そうしてカルファロさんはスキルを私達に掛けてくれる。どうやら隠密というスキルらしい。気配や足音を消して敵に気づかれにくくするのだとか。


私自身スキルを掛けて貰ったかも気づかないけれど、どうやらしっかり掛かっているらしい。


「では行ってくる」


と私とフェルナンド団長さんは歩き始める。虫達はこっちこっちと言わんばかりに飛んでいるわ。そして歩く事30分。


 



そこで目にした光景は壮絶だった。


無数に集まった魔物達が殺し合いをしている。どういう状況なのだろう?


「フェル「シッ!」」


声を出そうとして止められる。


 周囲をよく見ていると、山の斜面にボコリと空いた洞窟のような穴。穴の中には魔物は入っていく気配はないけれど、周囲で殺し合いを繰り返している。食べるために殺すのでは無く、どこか正気を失っているかのような感じだ。


私は死体の山を見ていたが、フェルナンド団長さんはどうやら洞窟の方が気になったみたい。そっと木や草むらに隠れながら回り込んで洞窟の中にいく事になった。


えぇぇ。怖いよ。


もっと恐ろしい何かが出てきたらどうするのって思うのも当然だと思う。そんなのは他の団員と行って欲しいと切実に思ったわ。それでも私は魔物の徘徊しているこの場所で1人待機するのは悪手よね。


仕方がないので付いていく。魔物を躱し、洞窟にさっと二人で入る。


 洞窟内に動く音は無いので魔物はいないみたい。フェルナンド団長さんも周囲を確認したようで声を出す。


「ファルマ、光魔法で足元を照らせるか?」


「うん、ちょっと待ってね」


私は【ファイア】を唱える。どうやら洞窟は狭い通路のようになっており、私とフェルナンド団長さん二人並んででぎりぎりの幅で高さも団長さんが頭がぶつかりそうな高さだった。これでは大きな魔物は入ってこれないのだと思う。


「団長さん、なんだか空気が重いね。ビリビリする」


「ファルマもそう思うか。俺も嫌な予感しかしない」


魔法で足元を照らすにはライトがいいんだけど、ここは洞窟だし中の空気がどうなっているか分からないから火を使ってる。消えれば酸素はないってことだしすぐに引き返せると単純に思っただけなんだけどね。


 洞窟は湿度が高いようで外に比べて温かく感じる。むしろ動いていると暑くさえ感じてしまう。足場の悪い道を歩いて進む。


これでロープを使ったり湖の中を潜るような本格的な洞窟探検だったらどうしようかと思ったのは内緒。どうやら杞憂だったみたい。


 歩いて5分も経たない間に洞窟の最深部へと到着したようだ。けれど、到着したのはいいんだけど、問題にぶち当たってしまったような気がする。


洞窟はビリビリと重い空気だとは思っていたのだけど、どうやらこのビリビリ肌を刺すような感じはあふれ出る魔力のようだった。


最深部の足元に転がっていた1つの黒い物体。


何かは分からないけれど、危険な感じ。


すごーくとてつもなーく嫌な予感しかないんだけど・・・。

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