第53話

 翌日、侍女に起こされ、朝食を終えて玄関へ向かうとレンス殿下は先に待ってくれていたようだ。


「殿下おはようございます」


「ファルマ嬢、おはよう。昨日はごめんね。打合せが長引いてしまった」


「いえ、大丈夫です。それより殿下、山へ向かうのにその装備で大丈夫でしょうか?」


「普段から鍛えているから大丈夫だと思う。ファルマ嬢だって軽装備じゃないか」


殿下は騎士服に薄手のコートを羽織っている。流石にそれでは山の中は寒いのではないだろうか。私はリュックから1枚の護符を差し出す。


「私はこの護符を胸ポケットに入れています。同じ物を用意しました。殿下、どうぞお受け取り下さい」


「護符?頂くよ」


殿下は受け取った護符を折り、胸ポケットへ入れた。


「これは凄いね。コートが必要無いくらいだ」


「護符の期間はあと6日程なので山で3日過ごしても大丈夫だと思いますわ」


「そうか、助かるよ。では出発しよう」




 私達は話もそこそこに早速巡回騎士団の詰所へと向かった。団員達は既に準備が終わっており、私達を待っている状態だったようだ。


 殿下は当たり前のようにしているけれど、私は申し訳なさで一杯だわ。フェルナンド団長さんの掛け声と共に出発となった。やはり調査のために山に赴くという事もあって馬車は用意されていないのよ、残念ながら。


歩きながら詳しい日程や私の役割の話を聞いた。


 山の方に行くにつれて魔物は増えて行くらしいので山に向かって歩く。2日目は山の麓周辺の調査。3日目は川や池の環境調査らしい。山頂の方では雪が積もっているらしいけど、それ以外は雪は降っていないので歩くのに困難はないらしい。といっても場合によっては雪山を登る事になるかもしれないらしいけど。


 私の役割はとりあえず食事を作ること。これはベンヤミンさんでも良かったのでは?って思ったのは内緒。まぁ、ポーションの為だけにここに居ると言っても過言ではないんだよね。そもそも雪山では虫は殆どいないからスキルも役立たない。


 山に向かって歩き始める事数時間。魔物が居ましたよ。熊型魔獣や雪山仕様のバッファローのような魔獣が。こんな森の中にも出るのかぁと思っていたけれど、どうやらこの魔物達は山の麓に生息しているらしい。


事も無げにフェルナンド団長さん達は向かってくる魔物を退治している。




 ちょうどお昼頃だったので牛型の魔物は騎士達によりすぐに血抜きして肉を切り分けられた。私は塩を振り、ステーキにして団員に振舞う。勿論タンスープを一緒に作って好評だった。


肉を持ち歩きたいけれど、血の匂いに誘われて魔物たちが寄ってくるので食べれるだけ食べてあとは土に埋める。もったいないわ。毛皮だって活用したかった。


レンス殿下は惜しがる私を見てふふっと笑っていたけれど。




 そして本日のベースキャンプの場所まで何とか歩いてこれた。日頃歩いていないので足もクタクタだよ。自分に治癒魔法を掛けたのは内緒。


そしてベースキャンプ脇の日当たりの悪い場所で見つけたわ。


しどけを!!


これを見つけたのは幸運だわ。春先に出る山菜でとっても美味しいの。私の大好物。これを胡桃和えにしたり、茹でて味の素と醤油を掛けて食べるのがいいのよね。


私は早速袋を持ってきて収穫する。私が何かしているとレンス殿下が後ろから付いてきていたみたい。


「ファルマ嬢は何をしているのかな?」


「レンス殿下、今しどけの収穫をしているのです。ここ一帯群生地のようで。家に帰ったら師匠と食べようと思って」


私は久々の山菜に心浮かれながら収穫していると、レンス殿下も一緒に手伝ってくれたわ。城に帰ったら僕も食べてみたいと。手伝ってくれるならしどけを料理人に渡してもいいかな。


「お城へ帰ったらレンス殿下が食べれるように従者にお願いしておきますわ」


「嬉しいな。有難う」


そう言って沢山収穫した後、テントへと戻った。晩御飯は唐辛子を入れた少しピリッとした野菜スープ、とチリコンカンを作ったわ。辛味の少ない唐辛子を使った事もあって皆が食べれたわ。むしろアクセント程度の辛味で食が進んだみたい。


私が食事を作っている間に団員達はテントを張り、寝床を作ってくれていた。


「噂に聞いたファルマ嬢のご飯。とっても美味しかったよ。明日も楽しみだ。それにファルマ嬢がくれた護符、とても快適だね。初めての騎士団同行に不安だったけれど、良かったよ」


そう言ってレンス殿下は褒めてくれたわ。


「もったいないお言葉ですわ。明日はもっと状況も厳しくなると聞きます。今はゆっくりお休み下さいませ」


私はそう言って清浄魔法をレンス王子に掛ける。臭い男は嫌いよ。いくらイケメンでも臭いのは、ね?レンス王子も清浄魔法を喜んでくれたわ。


 私はその後、フェルナンド団長さんや団員の方達に清浄魔法を掛けていく。寒くて汗はかいていないとは思うけれど、なんとなく?みんなもすっきりしたよと褒めてくれたわ。


ベースキャンプには結界が張られているので魔物からは安全らしい。後は騎士が夜這いを掛ける心配があるそうなので私のテントは火の見張り番の騎士達の目の前になっているらしい。なんだか申し訳ない。


 寝る前に見張り番の騎士にクッキーをそっと渡したのは内緒。やはり甘味は喜ばれるようだわ。騎士は有難い!とポッケにクッキーの袋を入れていた。


私は夜、寝袋に包まれながら護符のおかげで快適に眠る事が出来たわ。


護符屋さん有難う!



夜も早いうちから寝入り、深く寝たので日の出と共にパッチリと起きてしまったわ。おかげで朝早く起きれたので野菜を煮込む時間が取れた。やはりある程度量を煮ると味が安定するわね。


朝は胃に優しいスープとパンを用意。お昼用に大量のサンドイッチも作っておく。昼間は敵が出れば調理なんて出来ないからね。


 朝の起きがけに体が温まるスープはやはり騎士達に喜ばれた。レンス殿下も完食していたわ。食後は騎士達はテントをたたみ移動する準備をしている。その間に私は使ったコップや鍋を魔法で綺麗にする。


この辺に虫はいるのかな。


まだこの辺りは雪は積もっていないし、居れば護衛も頼めそうな気がする。

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