第52話

 部屋を出るとちょうどザロさんが待っていてくれた。案内された食糧庫には明日からの数日分の食糧が準備されている。人参やジャガイモなどの根菜とベーコンのみって感じね。あとは硬い黒パン。葉物がないとやはり栄養バランスが悪い。そしていつもながらに調味料が塩だけなのよね。


まだ時間はあるわ。急いで買い物に行こう。


「ザロさんちょっと急いで買い物に行きましょう」


「分かりました」


小走りになりながら街の肉屋に駆け込む。上手い具合に鶏肉とホーンの赤身肉が手に入ったわ。次に向かったのは八百屋。葉物野菜をここぞとばかりに買ったの。やはり多少なりとも野菜は必要よね。


 ザロさんはお店で会計をして荷物を持ってくれている。結構重いはず。そして次に忘れてはいけない調味料。唐辛子をいくつか買ったわ。次はというと、勿論川に石を拾いに来た。丸く平べったい石を探す。ちょうど石投げが出来るような石がいいわ。


「ザロさん、レンス殿下って魔法は何が得意なのか知っていますか?」


「確かレンス殿下は風と土だったかな。それがどうしたの?」


「いえ、火が使えないと山は寒いだろうなと思って。石を熱して持っておけば温かくていいかなぁと」


「あぁ、それはいい考えだね。でも、護符屋に行けばいいんじゃないかな?」


「護符屋って何ですか?」


初めて聞いたわ。いや、リュックに付いている護符を知っている。そういう店が在っても可笑しくはないわ。


「えぇと、ファルマ嬢の村には無かったね。大きな街には偶にあるんだよ。そこへ行けば色々な護符が手に入るよ」


「是非行きたいです」


私はザロさんに案内されながら護符屋へと向かった。そうよね、護符で温かい空間や服が出来れば石なんて要らないわよね。


 そうして着いたお店はシンプルと言えばそれまでなんだけど、カウンターと椅子のみが置かれただけのお店だった。


「護符を下さい」


私はそう声を掛けると店員のお姉さんが羽ペンを取り出した。その場で書いてくれるらしい。


「どのような護符が必要ですか?」


詳しく話を聞くとスキルで作る護符は空間を広げたり、重さを感じさせなくなったり、結界としての役目だったりと様々な物が出来るらしい。ただスキルの練度で効果や持続時間が変わってくるのだとか。


 空間を広げる護符はリュック等に使われるけれど、使用期間が過ぎると中身が飛び出してしまうらしくあまり人気がないのだとか。効果を限定させると使用期間が伸びるらしい。私が持っていた荷物の重さを感じさせない護符は書いた人の練度が物凄く高くて籠だったから日数が使えたのだろう。私の気づかない間に使用人達がこっそり新しいのと交換してくれていた?かもしれないけどね。


それと護符の種類によっては何枚も一度に使用する事は出来ないらしい。熱さを凌ぐ護符と寒さを凌ぐ護符は併用出来るが、火を使う護符と水を使う護符を一緒に使えないみたいな感じなのだとか。


「お姉さん、私の体に1cmの範囲で温度25度を保った空気の層を作って欲しいのだけど出来る?」


「温度?そんな依頼を受けたのは初めてだわ。多分出来ると思うわ。他には何か必要かしら?」


「鮮度を保つ護符が欲しいです。あと、重さを感じさせないやつが欲しい」


「荷物用ね。大きさはどのくらいの物を想定しているのかしら?」


私は大きな麻袋を鞄から取り出した。


「この麻袋くらいです」


「わかったわ。合計3枚ね」


「空気の層を作る護符を2枚にして下さい」


「私も欲しい。もう1枚追加でお願いします」


ザロさんが横から口を開いた。


「分かったわ」


そうして女の人は紙に呪文のような文字を書いてスキルを使用する。護符って使わないから取っておくというのは出来ないんだよね。護符が完成した直後から使用される物らしい。


「荷物を軽くするのは約1月。鮮度を保つのも約1月ね。空気の層を作る護符の効果は約1週間ほどかしら。持ってみた感じこれは良いわね。暖房が要らないわ」


上手く温度設定が出来たみたい。良かった。気温計は存在しないので上手くいくか分からなかったけれど、上手くいったみたい。25度って確か人間が一番過ごしやすい温度だって聞いた記憶があるのよね。


 私は護符を受け取ると荷物を軽くする護符と鮮度保持の護符を麻袋にいれてから畳んでポケットへとしまう。温度保持は自分の胸ポケットへと折って入れておく。護符は折っても効果はあるのよね。水に漬けたり、破れたりしない限りは大丈夫らしい。


ザロさんも護符を胸ポケットにしまうとやはり効果が実感出来たようでとても驚いている。


 残りの1枚は鞄に入れてからお金を支払い、邸に戻った。本当なら私も詰所へ戻って報告をしてから邸に帰らなくてはいけないのだろうけど、ザロさんは帰っていいよと言っていたし、有難く帰る事にする。ザロさんは私を送ってから詰所に荷物を持って帰っていった。


なんて快適な温度なのだろう。


王都に比べてここの街は寒い。体感としては気温10~15度位なんじゃないかなぁと思うのよね。朝晩はきっと10度を切っているに違いない。


これはここの街に居る間は常にポケットに入れておくべき代物だわ。


 私は夕食を自室で1人摂る。当初はレンス殿下と一緒に夕食を摂る予定だと従者が言っていたのだが、思ったより騎士団との打合せが長引いているらしい。補佐の私は一緒に打合せに出なくていいのかって話だけれど、一般人だし、食事係配属だからね。内部の話に深く首を突っ込んではいけないのだ。


私はゴロゴロと部屋でくつろぐ。あー明日から雪山かぁ。面倒だなぁ。そう思いながらその日はぐだぐたと過ごした。

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