第48話
色々な事があり駆け足のように出来事が過ぎ去っていったわ。あれから王妃様は専任の医務官が最新の治療に当たっているが病は芳しく無いらしい。小康状態を保ちながらも起き上がる事はもう出来ないようだ。
そしてヘルクヴィスト伯爵は娘の虐待、殺害未遂で魔法とスキルを封じ、炭鉱送りとなった。過酷な労働が当たり前の事らしく刑期が終わるまで働き続ける事になる。
母と妹は王都外の修道院送りとなった。姉は不敬罪が適用され戒律の厳しい最北の修道院へ送られた。遠縁に当たる親族が代わりに伯爵家を継ぎ、貴族社会で肩身の狭い思いをしているのだとかどうとか。
何故そんな話を知っているかと言うと、偶にうちに来るタナトス様が教えてくれたの。自分の親の事は気になるだろうって。他人事な気がしてあまり気にしてはいないのは内緒。こういう時に大人だった前世の自分が強く出ているのだろうと思う。
王都に戻って伯爵家を継いでもいいんだよと言われたけれど、私は今のまま師匠とここの家で暮らす事が幸せだなって思っているのでご遠慮させて頂いた。
もちろん学院にも結局通わなかった。師匠は16歳から学院に編入して勉強しておいでと言っていたけれど、私は平民だし、貴族の通う学院に今更入っても勉強もついていけないし、犯罪者の娘ってだけでも避けられてしまうわ。
その代わりなのかタナトス様が偶に来た時に本を私に持ってきてくれる。そして次に来る時までに覚えておくようにって。そして遊びに来た時は私に色々と教えてくれるの。
その甲斐あってか色々と知識は持ったと思う。この世界の算学は小学生のレベル位だから十分私でも通用したの。これにはタナトス様も師匠も驚いていた。
知識として足りないのはやはりマナーや歴史。魔法類の知識は伯爵家の本でなんとか補えた。
最近はタナトス様が良く褒めてくれるのよね。『この歳で学院卒業レベル習得か』って褒めてくれるとますます学力が伸びちゃうわ。
若いって良いわよね。
覚えた事をすぐに吸収出来てしまうんだもの。
そして今日もお店番をしながら畑や料理に精を出している。ようやく師匠の作るポーションを曲がりなりにも手伝えるようになってきた。他の薬は知識だけはある、けれど他の調薬は出来ないんだよねこれが。
その理由はというと、師匠の作り出したポーションが世に出るようになり、様々な人達が買い求めるようになってポーション作りが最近の主な仕事になってる感じ。
現在、王宮で取り扱い始めたのだけれど、まだ城用に確保する量しか生産出来ていないらしく、市場には殆ど出回らない。必然的にうちに買いに詰めかけてくる。買い求めるのはやはり商人達が多いかな。手元にあれば安心よね。
タナトス様は我が家に人が押し寄せる事を見越していたようで、優秀な護衛兼従者のエトさんを寄こしてくれた。王都でポーションが行き渡るまではいてくれるらしい。
そしてフェルナンド団長さんは師匠の護衛に立候補していたみたいだけど、やはり今回も駄目だったらしい。エトさんは空いている部屋に越してきた。彼のしぐさには全く隙が無い。
もしや、この人は王家の影ではないだろうか!?
なんて1人で内心ドキドキしているけれど、師匠はそんな私を見て呆れていた。それほどにエトさんは優秀なのだ。私がしていた畑仕事や食事を率先して手伝ってくれてすぐに覚えてくれるのだ。なんて素晴らしい。畑や料理の時間が減った分、ポーション作りに入れる。
師匠はというと、ポーションも作っているのだが、より効果的なポーションの研究をしている。
そんなある日の事、一報が入って来た。
「ファルマ、大事な知らせがきた。そこに座りなさい」
私は椅子に座ると師匠は一枚の王家の印が押された手紙をテーブルの上に置いた。
「さっき、手紙が来てね。どうやら北部の方で魔物の活性化が認められたらしい。騎士達は北部でレンス王子の指揮の下、調査を進めているらしいんだ。
そこでスタンピードの予兆が認められた場合、早めに対処する為に騎士団達が討伐に向かう。そこでファルマに後方支援員として手伝って欲しいと要請がきた。全く。僕らは一民間人なのに何を考えているんだ」
「師匠、私が行く必要ってあるの?そんなに人手が足りないの?」
「いや、きっと人手は足りているけれど、ポーションが足りなくなった時にポーションを現地で調合して欲しいのだと思います。
要望を出したのがフェルナンドだからきっとファルマが来る事を期待しているんだと思いますよ?それに治療が出来る人材を1人でも確保したいのかもしれませんね」
「・・・そうなんだ。でも1人で北部まで行った事ないし、師匠から離れたくない」
私が拒否を示すと師匠はふっと笑顔になる。
「ファルマ、私も貴方が必要だし、そう言ってくれるのは嬉しい。けれど、きっとスタンピードが起これば大勢の騎士達が怪我をし、大勢の人が死ぬ。
そうならないためにもポーションは必要だ。私が代わりに行きたい所だが、レンスが居る。彼ならきっと大丈夫。対処してくれる」
そうだよね。レンス王子がいるなら師匠は北部に出向く事は出来ない。王位継承権を放棄したと言っても王家の血は流れているので何かあった時の為に血が残るように一緒に仕事をする事は殆どない。
それにポーション作成者の師匠が行って亡くなったらその後を引き継げない。そう思えばやはり私が行くべきなんだなぁと思う。
こればかりは仕方がない。
「分かった。でも北部までどうやっていくの?」
「私が王都までファルマを連れていき、王都からは北部へ向かう騎士と一緒に行く事になると思いますよ」
「いつ出発するの?明日には発った方がいいかな」
「ここからだと1日掛かるくらいですよ。まぁ早い出発の方がいいでしょうね」
「分かった。じゃぁ、旅の準備を今からするよ。何が必要なのかなぁ」
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補足説明→学院は12歳から入学。18歳卒業としています。
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