第49話

 私は不安になりながら部屋を行き来する。服は2、3枚でいいかな。最低限の物よね。後は一応だけど野菜だしを持っていこうかな。きっと味の薄いスープだろうからこっそり粉を足して食べる事にする。期間はどれくらいなんだろう。一ヶ月位かなぁ。


師匠に聞いても城で準備してくれるから必要ないっていうし。まぁ、何とかなるかなぁ。そう思いつつ私はリュックに詰めて準備をした。


 翌日は早朝に師匠と出発。もちろん首には身分証明になるギルドカードをぶら下げて。


「ファルマ、しっかり掴まって」


 そう言うと師匠は道を飛ぶように進んでいく。きっと師匠1人なら森の上を飛んで行くんだろうけど、流石に私を落とすと不味いのでまたジェットコースターのように超特急で道を進む事にしたみたい。


 街には午前中に着いたので少し休憩を取った後、また王都に向けて飛んでいく。城に着いた頃にはすっかり夜になっていたわ。流石に疲れてぐったり。この時間にもなると王都に入る人は少ないようで私達は並ぶことなく門番のチェックを受けた。


「師匠、疲れたよ。どこか宿に泊まろうよ」


「そうですね。流石に私も疲れました。宿に向かいましょう」


私達はそう言って宿を目指そうと歩き出した途端、門番から止められる。


「ホルムス様、ファルマ様。城からの通達があり、二人を城へとお連れするように承っております」


ええぇっ。気が抜けないよ。


でも拒否する事は出来なさそう。私達は用意された立派な馬車に乗り込んだ。


「師匠!この馬車揺れないね!クッションでフッカフカだしいいね」


「ファルマ、落ち着きなさい」


師匠は先ほどまでの柔らかな雰囲気とは違い、言葉も少な目になっている。まだ城の中には敵が多く残っているのかなぁ。王妃だけが敵だったと思いたい。




 お城へ着くとすぐに客室へと案内される。師匠と離れたくないって我儘を言ったせいか隣の部屋にしてくれたみたい。部屋について早速侍女の手伝いで湯あみすることになった。


人に洗われるなんて何年振りだっけか。こんなにも丁寧に洗われると羞恥心で一杯になるわ。そうして磨き上げられ、用意されたドレスを着て髪も結われ、軽いお化粧をしてもらった。


侍女達は美少女だって褒めてくれたわ。


鏡を見ると、自分の変わりようにちょっとびっくりする。え?お化粧マジック!?って。


 そこから遅い晩御飯のために食堂へ案内された。一足先に食堂へ来ていた師匠もかっちりとしたシャツを着て王子様そのものだった。やっぱり師匠は恰好いい。普段のだらしなくても恰好いいんだけどね。改めてみるとやはりいい。


「ファルマ、素敵ですね。妖精が舞い降りたようです」


「ホルムス様嬉しいですわ。久々のドレスにドキドキしています」


私がエスコートされて着席すると食事が運ばれてくる。えっと、マナーどうだっけ?なんてことは無かったわ。最低限のマナーは身についていたっぽい。それにタナトス様の持ってきた本にマナー全集があって目を通しておいてよかったわ。


 食事はというとやはりフランス料理っぽいものだったわ。煮凝りみたいな物とか、肉料理とか出てきた。ごめんね、メニューが無いので出される物の味を確認しながら食べるだけになって。後で出てきた物の名前を聞いてみよう。


そう思っていると、タナトス様が食堂へとやってきた。私達はさっと食事の手を止めて立ち上がり礼をする。


「よい、突然呼び出してすまんな。こうして最愛の息子とその嫁と会うと儂も嬉しい。さぁ、食べながら話そう」


嫁!?


今、嫁って言った!


 私はびっくりして師匠に視線を向けると師匠はあまり気にしていない様子。え、いつの間にやら親公認の仲だった?16歳にもなると結婚するご令嬢が出てくるのは知ってるけど、急に自分に話題が振られると目が泳いでしまう。


「陛下、ファルマが困っていますよ。突然言われてもびっくりするだけです」


「ホルムス、陛下ではない父上だ」


「・・・父上」


タナトス様はいつになく上機嫌になってワインを口に含んだ。


「そうであったな。儂はファルマが義理の娘になることを認めておるぞ。元は伯爵家令嬢だ。申し分ないし、ファルマは器量もいい。親公認だ。


そうそう、ファルマには明日、少し試験を受けて貰わねばならんのだ。城の中にも騎士団へ同行するファルマに疑問を持つ者がいてな。色々と黙らせるために必要なのだ。まぁ、ファルマにとっては簡単な試験だから大丈夫だ」


えぇぇ。唐突の試験予告。何の試験なのだろう。


困るよ。何にも勉強していないんだもの。


焦っている私を他所に師匠は口を開いた。


「父上、今回の件で詳しい話を聞いてもよろしいですか?」


「あぁ。実は北部のラーザントという街があるのは知っておるな?あそこの街に普段出てくるはずのない魔物が出没してきておるのだ。それが日を追うごとに少しずつだが増えている。まだ街に害はなく、巡回騎士団で対処可能なレベルなのだが、フェルナンドの奴がきな臭いというのでな。


レンスを向かわせる予定なのだが、補佐役としてファルマがちょうどいいと思ったのだ。期間は、そうだな、半月から約1月といった所か。場合によっては前後する。


基本的にファルマは後方支援だ。現地でフェルナンドが細かい指示をするだろう。レンスは初めて騎士団と行動を共にする。ファルマ、頼んだぞ」


「承知いたしました」


拒否権はないので承知しましたって言ったけど、不安で一杯だわ。後方支援っていいつつも私は何にも出来ないもの。私の不安気な様子を師匠は気づいて声を掛けてくれる。


「ファルマ、この命令が終われば一緒に海のある街に行ってから村に帰りましょう」


「!!師匠。海!?本当?海って王都から遠いんじゃないの?長期旅行なのかな」


「ふふふっ。城には転移士が居るんですよ。指定した街に飛ぶことが出来るんですよ?」


「えっ、知らなかったよ。王都にそんな人いるの?」


あまりの驚きに普段の話し方が出てしまったわ。


「残念ながら街にはその施設は無い。城の中にあるからね。使える人は限られているんですよ。王都を含めた国の領土の端にある街に転移士が置かれているんです。そうすれば視察が楽でしょう?ラーザンドも転移士ですぐ目的地に到着です」


「凄いです。ホルムス様と離れるのが怖かったけれど、楽しみになってきましたわ」


私と師匠がそう話をしていると、タナトス様はとても羨ましそうにしている。


「海か、よいな。儂もついて行きたい」


やっぱり羨ましかったようだ。


「父上、いい歳して一緒に遊びに行かなくてもよいでしょう。遊びまわる王が居てはフィンセントや部下達に示しがつきませんよ」


「なに、あやつらは大丈夫。優秀だからな。儂もパジャンには何度も足を運んでおるが海は面白いぞ」


 タナトス様の話を聞いて私はますます海があるというパジャンの街に心引かれて頭の中はパジャンで一杯になった。楽しそう。


「ファルマ、頭の中が賑やかになっていますが、その前に北部の街ラーザンドについて知っていますか?」


「いいえ。タナトス様に教えて貰ったくらいの話しか分かりませんわ?霊峰ラーシュを背に山々に囲まれた街なんでしょう?山から降りてくる魔物は少ないけれど強いのが特徴なんですよね」


「そうですね。山には雪が降るので良質な毛皮が特産品ですよ。気温がここよりも少し低いので買い足す物が色々あると思います」


「分かりましたわ。寒いのですね。洋服は現地で買い足すことにしますわ。あと師匠の求める薬草を探してきますね」


私はいまいち実感が沸かない。タナトス様は師匠と話を詰めているみたい。


 私はその間に美味しく食事を頂いている。どれも上品な味だわ。私が考えていたような味とは違ってシンプルだけど。偶にはお家でコース料理と称して師匠の誕生日に出してみてもいいかもしれない。


 今更だけれど、私の16歳の誕生日に師匠はネックレスと腕輪を贈ってくれたの。蝶をあしらっていてとても素敵な装飾品なの。腕輪は気に入ってずっと嵌めているわ。



 そして食事も終わり、部屋へと戻った。なんだかんだで疲れたわ。普段使い慣れない話し方だし、四六時中従者や護衛に見られているので気が抜けない。


王族って大変なんだね。

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