第44話
師匠が王都から帰ってきてから三か月程経った。
特に生活に変化はないかな。あれから王宮は師匠と頻繁に連絡を取り合っているらしい。その連絡によると師匠が帰宅してすぐ、ヘルクヴィスト伯爵家から私に向けて賊を送り込んでいたようだ。影の者が事前に察知して賊の襲撃を防いで伯爵は捕まったらしい。
何をやってんだか、お父様は。
それと王妃様が病に倒れたと発表がされたみたい。この時期にって考えると絶対師匠の事が絡んでるよね。王妃様は何をやらかしたんだろう。病気発表されるくらいだから早ければ3ヶ月後位には病死されるんじゃないかって密かに思ってたりする。
きっとみんなそう思ってるよね。貴族であれば。
ヘルクヴィスト家は父が捕まったのなら軽くて爵位を落とすか返上、剥奪もあり得るよね。王妃様との兼ね合いもあるのかな?余罪とか出てくる?
いや、父親はあれでもかなりの小心小物だから大したことはしていなさそうだ。私の殺害未遂を除いて。娘虐待とかも加味されるのかな。
まぁ、彼等が没落しようとどうでもいいけどね。
「師匠、お買い物いってくるね。何か食べたい物はあるかな?」
「久々にかつ玉が食べたいですね。ああでもピザも捨てがたい。迷いますね」
「分かった。店にいって良い肉が手に入ったらかつ玉にするかなぁ。肉が買えなかったらお家で採った野菜でピザを作るね。じゃぁいってきまーす」
私はいつものようにお買い物へと歩き出す。
師匠の家はどちらかと言えば村の奥にあって村の入口から一番遠い場所にある。村の中央には広場があって広場を取り囲むように八百屋や肉屋などのお店が立ち並んでいる。たまに来る行商の馬車は広場で物を売ることを許可されているんだよ。
「おじさん、今日は何の肉がある?」
「よう!ファルマちゃん、今日はボア肉の塊だな。脂が乗って美味いぞ!」
「じゃぁ、そのお肉2キロ頂戴」
今日はボア肉だった。おじさんが切ってくれた部位はバラ肉だったのでカツより角煮の方がいいかも。
因みに前世のスーパーで買う時は色々な部位が置かれて選べるけれど、この世界の肉屋は日々獲れる魔物が違うため肉を指定する事は出来ない。
そして村人と分け合うのが基本なのでこの部位がいいなんて我儘は倦厭されちゃうの。どうしても欲しい肉や部位があれば事前に話をすれば融通はしてくれるんだけどね。
村の人気の肉はもちろんホーン肉。ステーキがやはり人気らしい。骨は捨てられるので私がいつも有難く頂いてるんだけどね。骨を捨てるのも一苦労らしく、おじさんは喜んで譲ってくれるの。
私は骨を煮込んでダシを取った後、師匠に骨を粉にしてもらう。カルシウムゲットよ。いい肥料になるので畑で使わせて貰ってる。少しの量を店でも売るようになったらたまーに買ってくれるのよね。
そうしてお肉をゲットして付け合わせの野菜やデザートを買って家に帰ろうとしてふと気づいた。
村の入口に1人のおじさんが立っている。
とってもみすぼらしい服装なんだけど、凄く清潔感溢れる髪型なのよね。貴族が無理やり平民の恰好をしましたって感じにも見える。ちぐはぐな感じ?貴族にしては護衛や従者がいないのはなんでだろう。
ここは少し大きな村だけど、この村の人の服装ではないんだよね。
ここへ来る途中盗賊に追いはぎにでもあったのかな?おじさんは辺りをキョロキョロとしながら1人で歩いている。治安はいい村だけど、何かあったらいけないね、私は声を掛ける事にした。
「おじさん、ここの村は初めてなの?村の人じゃなさそうだけど」
「おぉ、人を探してこの村にきたんだ」
「人探し?1人で?なんていう名前の人?」
「薬師ホルムスを探しておるのだ」
「あぁ、私の師匠だよ。今から家に帰る所だし、付いてきて」
このおじさんは師匠のお客さんなのだろうか?おじさんはニコニコと私の後に付いて来る。
「お嬢ちゃんはここに住んで長いのかい?」
「ううん。まだ1年にならないかな。でも、ここはいい村だよ。平和だし、みんな親切で住みやすいよ」
「そうか。平和なのはいいな。ホルムスは君に優しいのか?」
「師匠?うん優しいよ。おじさん、ちょっと待っててね」
私は店の扉を開けておじさんを座らせた後、師匠を呼ぶ。
「師匠ー。お客さんだよー」
「私に客?事前に連絡はありませんでしたが、まぁいい」
師匠はお店の方に顔を出すと、
「ファルマ、お帰りいただきなさい」
「え?いいの?」
「ホルムス、折角来たんだ。少し世話になるぞ」
「え、え?えっと、師匠の知り合い?」
「私は知らない」
「ホルムスはワシの息子だ」
!!!息子!?
「そういうことだ。ファルマ嬢、寝床を用意して欲しい。そうそう、それから儂はタナトスだ。宜しく」
ええぇぇぇ!?もしかして陛下!?このおじさんが!?
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