第43話 王宮side
「陛下、どういう事ですかな?今回の褒賞はホルムス様が王宮へ戻りたいとの話があり、王宮薬師の任命と地盤固めの為の婚姻になったと聞きましたが、全く違っていた様子でしたな。あれではホルムス様にとって嫌がらせでしかありませんよ」
「ああ、宰相。王妃は嬉々としてホルムスの褒賞を決めていたようだ。昨晩、ホルムスが城に戻ってきた時に家族で食事の時に話をしたのだ。その時の話を宰相に出来ていなかったな」
「困ります。また王妃様ですか?それにヘルクヴィスト伯爵家との婚姻?ありえませんな。褒賞を読み上げる私の身にもなって欲しいものですな」
ここは陛下の執務室。
陛下と執事、従者と護衛騎士、そして宰相が部屋にいた。宰相はいつになく不満を漏らしている。
「陛下には困ったもんじゃ。ホルムスぼっちゃんの事をまるで分かっとらん」
陛下の幼い頃から務めている執事は滅多に口を開く事はないが、こうして偶に口を開いては苦言を呈する。陛下が道を踏み外さないのも執事のおかげでもあるのだろう。
「ヘルクヴィスト家は王妃派の中心貴族ですぞ?ホルムスぼっちゃんの命をまた王妃に差し出すのですか?」
「・・・」
「陛下、いい加減にしてください。そうやって最愛のセリル妃は王都から追いやられ、平民として暮らさねばならなくなった。違いますかな?幸いな事に王子達はまともに成長しております。もう、よいかと」
宰相とセバスチャンは何も言わない陛下へ小言を続けた。
「…そうだな。準備も整いつつある。王妃を排除しても良いだろう。最愛の息子を傍に置くこともままならないとはな」
「元はといえばいくら王妃が狡猾であったとはいえ、セリル妃を守りきれなかった陛下の落ち度でありますがね。それにホルムス様にしても爵位を与えておけば貴族として王都に残れたでしょうに」
「・・・宰相、耳が痛い。分かってはいるんだ」
「私も分かってて言っておりますがね。当分陛下は口を出さぬようお願いします。今後、ホルムス様への連絡を私が行います。併せてヘルクヴィスト家の次女ファルマ嬢の事も調べておきます。その間、陛下は王妃を留め置くようお願い致します」
「分かった」
―数日後―
「陛下、先日のホルムス様の件にて報告があります」
宰相が数日の間に調べ上げた内容の報告だろう。執務室は人払いされ、陛下と執事、宰相の3人だけが残っている。
「聞こう」
「現在、ホルムス様は死亡届が出されているヘルクヴィスト家次女ファルマ嬢を弟子として家に住まわせているようです。そしてホルムス様が作り出したポーションはファルマ嬢の協力で出来上がったようです。
影やホルムス様の話ではファルマ嬢は学院へ通えなかったが、中々の才女なのだとか。いつもホルムス様の陰日向となり支えている様子。師弟の形を取っておりますが、あの二人の仲を割くのは得策ではないですな。
それとヘルクヴィスト伯爵はやはりファルマ嬢をあれからすぐに殺そうとしておりました。都合が悪いと思ったのでしょう。幸いにして影が先回りし、賊と伯爵を捕らえております。
そして王妃様の計画が明らかになりました。ヘルクヴィスト家の娘と婚姻させて子を儲け、その子を人質としてホルムス様を脅した上で自身の商会でポーションを独占販売する予定だったようです。
更に隣国と取引もしようとしていたようで場合によってはホルムス様自身を様々な方々へ貸し出す事を考えておられたようですな。ポーション作成者であり、見目麗しいですから金持ちのご婦人達の争奪戦になっていたやもしれません。阻止出来て良かったとしか言いようがないですな」
「セバスチャン、すぐに侍女長を呼べ。もう限界だ。これ以上は無理だ」
「畏まりました」
宰相の報告を聞くと陛下の雰囲気は一瞬にして変わり威圧を放ちながら指示を出す。陛下から漏れ出す魔力で部屋の気温も一気に上昇している。
執事は一礼をし侍女長を呼んだ。すぐに侍女長が部屋へとやってきた。
「お呼びでございますか」
「ああ、侍女長。王妃は重篤な病気を患っておる。すぐさま北の塔へ移動する。手配を」
「畏まりました」
「セバスチャン、王子達を呼べ」
二人は静かに礼をして部屋を出ていく。
またしばらく経つと3人の王子がセバスチャンと共に現れた。陛下は彼らの護衛や従者を全て下がらせる。
「息子たちよ、大切な話がある」
王子達はソファへと黙って座る。いつもと陛下や宰相の雰囲気が違う事に気づいたようだ。
「父上、話とは?」
フィンセント王子がそう口を開いた。
「これから儂の言う事に反論も、邪魔もしてはならぬ。分かったな」
3人は口をギュッと閉じ頷く。
「この間、ホルムスは数年ぶりに登城したのを知っているな?ホルムスは村を襲った大量の魔物から巡回騎士団や村人を守ったのだ。そして弟子のファルマ嬢と共にポーションと呼ばれる回復剤を作成し、怪我をした騎士達をその場で回復させたのだ。
治癒士程の回復には遠く及ばないが我が国、いや世界にはない画期的な薬を開発したのだ。その褒美を取らせるために城へと呼んだ。そこまでは良いな?」
王子達は無言で頷く。
「その褒賞は王宮薬師とさせる事、ヘルクヴィスト伯爵家長女と婚姻させ王都に留める事を王妃が勝手に考えた。ホルムスの意思を無視したのは勿論、儂の許可無くヘルクヴィスト伯爵家と契約をしておった。
王妃は王妃派のヘルクヴィスト伯爵と結託し、伯爵の娘と婚姻させ、子を作る事でホルムスの弱みを作り、子を人質としてポーションの自分の商会での独占販売契約、その後、隣国と取引するためにホルムスを売る計画を立てていた。
我が息子に無理やり男娼まがいの事をさせるつもりだったのだ。幼かったお前達が何処まで覚えているかは分からんが、ホルムスは過去に何度も王妃から命を狙われ、王位継承権を放棄させた上で王族籍はおろか貴族籍さえも持たせず、平民になり王都から追い出されるはめになった。
これまで様々な事を王妃は行っていた。後ろ盾を作り、お前達が成人となって影響を減らしてから王妃を病に伏す予定だったが、これ以上、王妃の犯罪を到底許す事は出来ぬ。
お前達には優しい母であったとはいえ、王妃は犯罪者だ。今日、この日を以て王妃は病に伏し、病死に向かう事とする」
王子達は自分の母親のしてきた事を漠然とだが知っていたようだ。頷き、反論はない様子。
そしてレンス王子はふと思った事を口にする。
「ホルムス兄上はファルマ嬢を弟子にしたのですね。ファルマ嬢はきっと美人になっているのでしょうね。いいなぁ」
「レンス、お前はファルマ嬢に会った事があるのか?」
「ええ、父上。1度だけですが彼女に会った事があります。僕たち王族は魔力が人より多いせいかその人が持つ魔力の形が偶に見えますよね?ファルマ嬢は今まで会ってきたどの令嬢よりも優しく澄んだ魔力をしていました。兄上が羨ましい。私の婚約者に望んでしまうほどに」
「ほう、レンスが言うほどの令嬢なのか。彼女は既に実親から死亡届が出されていて平民として生活している。彼女の事をホルムスも気に入っているようなのだ。二人の事をこれ以上傷つけないために当分はそっとしておいてやってくれ」
「優しく澄んだ魔力か。私も会ってみたいものだな。母上はいつも黒蛇がとぐろを巻くような禍々しい魔力だったからな」
そうフィンセントが言うと、他の二人も頷く。王妃の纏う魔力を王子達は嫌悪していたようだ。息子達はファルマの魔力に興味を持ったようだ。
人の性格に付随した魔力の形。きっとファルマ嬢は貴族にはいない素直で優しい子なのだろう。
こっそり会ってみたいと考えた。最愛の息子には幸せになって欲しい。
本来、ホルムスは王太子になっても可笑しくはないのだ。後ろ盾こそないが、人脈もあり、ホルムスを支えたいと思う貴族や騎士、従者達はフィンセント、レンス、ヴィルの3人では到底及ばないだろう。そして知識量や軍を纏め上げる能力、人としての器、どれをとっても王に相応しかったのだ。王妃や公爵が邪魔をしなければ。いや、儂が無能なせいだ。
我が最愛のセレナを失ってから後悔ばかりだ。
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