第42話

 師匠が王都へ旅立ってから2日程たった。心配だなぁ。ずっと師匠と一緒だったから離れてみるとこんなにも寂しいんだね。部屋が広く感じる。何日かかるんだろう。きっと馬車を使うだろうから行きで2日。謁見までに2日くらい?帰るのに2日くらいかかるよね。


なんだかんだ言っても王都って遠いな。


私は1人寂しくご飯を食べて、お風呂に入って寝ようとしていると、勢いよく扉が開かれた。


「ファルマ、ただいま。おなか減った!」


「師匠!!どうしたの?こんな夜遅くに帰ってきて。すぐご飯用意するから待ってて」


 師匠はなんだかこの2日で驚くほど疲れたような、やつれたような感じだった。私は超特急でお風呂を準備し、師匠がお風呂に入っている間にオートミール入りの滋養のスープを用意した。


「師匠、今日は夜も遅いし、疲れていそうだから体に優しいスープにしておいたよ。明日スペシャル唐揚げ作るからね」


師匠はハフハフと息をしながらスープを飲んでいる。私はそっと師匠の背中に触れて【ヒール】を掛けた。師匠の心と体が癒せますようにって念じながら。


 師匠は片道何日も掛かる日程なのにも関わらず、すぐに帰ってきた。よほど王都や城での出来事が辛かったのだろう。


「ファルマ、有難う。今日はもう遅いし休みなさい。明日、スペシャル唐揚げを食べながら王都の話を聞かせますから」


「分かった。師匠も早めに休んでね」


そうして私は部屋へ入りすぐに夢の中へと旅立った。師匠もあれからすぐに床に就いたのだと思う。翌日は疲れていたせいか起きてきたのは昼も大分過ぎた頃だった。


「おはよう師匠。随分疲れていたんだね。まぁ、あんなに夜遅くに帰ってくるくらいだもんね。スペシャル唐揚げ持ってくるからそこに座って」


 私はキッチンから揚げたてのアツアツの唐揚げを持ってくる。スペシャル唐揚げは麹に漬けこんで柔らかくした肉に各種ダシとハーブをブレンドしてから小麦と片栗粉を混ぜて揚げたの。


サックリ、カリッと中はジューシーに仕上がって麹の甘味も相まってとっても美味しい唐揚げなの。揚げたてを出すそばから師匠の持つフォークは止まらない。


相当気に入ってくれたみたい。


もちろん唐揚げに付けるマヨネーズやタルタルソース、レモンも置いてる。柚子胡椒も欲しいよね。青南蛮がどこかで手に入らないかな。師匠は山盛りの唐揚げを食べつくしてホッと気が緩んだのか王都での話をしてくれた。


「ファルマ、昨日話をしていた王都での話なんだけど、その前に。はいこれ、お土産です」


机の上に載せられたパンパンに詰まった小袋。中を開けてみると小さな黒い実が詰まっている。


「これは最近王都で流通し始めた薬味らしい。商人はコショウだって言っていましたよ」


コショウ!!これが1つあるだけで料理の味が引き締まる。


「師匠!有難う!これはとっても嬉しい」


そして師匠は立ち上がると私の髪にそっと触れる。


「ファルマによく似合ってる」


師匠は私の髪に髪飾りを着けてくれたみたい。


「師匠ありがとう。鏡を見てきてもいい?」


「ええ。いってらっしゃい」


私は風呂場に置いてある鏡を見ると蝶をあしらった髪飾りだ。可愛い。


人から貰う初めてのプレゼント。嬉しい。


私は軽やかにリビングへ戻って椅子に座る。


「師匠、有難う。大事にするね」


「良く似合ってるよ。ファルマ、昨日の話をそろそろしてもいいかな?」


私は姿勢を正して頷く。


「この間、王家からの手紙、あれは村を襲った蜘蛛の大群から巡回騎士団達を守った事とポーションの事について褒美を取らせると書いてあったのですよ。私が話すまで騎士団の報告にどうやらファルマの存在はちゃんと隠されていましたよ。そして褒美は私を王宮薬師として城に迎える。シーラ・ヘルクヴィストと婚姻するという内容でした」


「シーラ・・・姉が、師匠の、お、くさん?」


「ええ。どうやら王妃が何やら勝手にヘルクヴィスト伯爵と婚姻をする書類を交わしていたらしい。今まで私を疎んで殺そうとしていたけれど、ポーションを生み出した事で利益を生み出す機械となった。私に子飼いの貴族を宛てがい、首輪を着けて飼いならしたいとでも思ったのでしょうね」


「そんなっ。酷い。人の生死や結婚を勝手に決めるなんて」


「もちろんこっちだって願い下げです。勝手に決めるなら国を出ていくと伝えました。それに人の結婚を勝手に決めるのも無効だとね。もし王命を使うならファルマと結婚すると口にしてしまった。ファルマを巻き込んでしまってすみません」


「師匠、私の事は大丈夫だよ。師匠が国外に行くならもちろん私も一緒についていく。師匠には私がいなくっちゃね。それでその後どうなったの?」


「私は今の生活で十分幸せで褒美って言うなら金貨にしてくれ、そして私に関わるなとね。伯爵にもちゃんと釘を刺しておいたから大丈夫だとは思いますが。


陛下は何も言いませんが、王妃は何をするか分からない所ですね。この先、ファルマを脅し捕まえて私を従わせようとするかもしれません。注意してほしい」


「分かった。色々あったんだね」


「そうそう、ベンヤミンにファルマのレシピを渡しておきました。彼はファルマの事をすごく心配していましたよ」


「師匠ありがとう。これでフェルナンド団長さんや騎士さん達は喜んでくれるよね」


「ええ。そうですね」


そうして今後の事を師匠と細かく話をした。

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