第40話 ホルムスside 1

「師匠、手紙が来たよ」


 ファルマが私に差し出した一枚の手紙。王印が押されている。どうせまた面倒な事を押し付ける気だろう。私は封を開けて手紙を読む。


城からだ。



―この度の巡回騎士団を救った事、礼を言う。巡回騎士団長から報告を受けた。ポーションの作成者として褒美を取らせる。一度王宮へ来るように。― 


腹立たしい。どうせ褒美と称したやつだろう。


・・・仕方がない。


ファルマが心配してくれている。彼女を一緒に連れていきたいがまだその時ではない。


今回は1人で行くべきだな。


 私は渋々王都への準備をして王都へと発つ。一刻も早く帰りたいので今回は馬車を使わずに魔法で森の上を飛んで行くことにした。


お昼に一度森の中に降り立ち、ファルマの用意してくれたサンドイッチを頬張った。


 1つ1つ油紙に包んでくれたサンドイッチは野菜サンドと私の好きな照り焼きチキンと卵を入れてくれている。すっかりファルマに胃袋を掴まれたな。早く帰ってからあげを食べたい。ファルマがスペシャルだというくらいだ、絶対美味しいに決まっている。




 私はサンドイッチを食べきるとまた王都に向かって飛び始め、日が沈みかけた頃にようやく城へと着いた。


 従者達は突然来た私に驚く事もなく客室へと案内する。前もって通達があったのだろう。そして部屋に着いて早々に従者から『久々の家族水入らずで食事を摂ろう』と伝言があったようだ。


煩わしいがこればかりは仕方がない。


 私は気を引き締めて食堂へと向かう。何年ぶりだろう、ここでの食事は。常に命を狙われ、神経を尖らせながらしていた食事は美味しいと思った事はない。


私が席に着くと、弟達もちょうど食堂へ入り席に着く。その後、陛下と王妃が食堂へとやって席に着いてからワインが配られた。昔と変わらず私には銀食器で食事が出されるようだ。


「息災だったか。村の暮らしはどうだ?」


「恙なく過ごしております」


「兄上、巡回騎士団長の報告を聞きました。ご活躍されたそうですね」


第一王子のフィンセントは確か今年で19歳だったな。ファルマの4つ上だな。


「フィンセント、久しぶりですね。私はそれほどの事はしていませんよ」


「彼はまた兄上の騎士になりたいと言って騎士団長が辞表を出し、周りが止めるのが大変だったと聞きました」


「フェルナンドはいつもの事ですから」


 フィンセントと当たり障りのない会話をしていると第三王子のヴィルは物珍しそうにこちらを見ていた。私が前に彼に会った時はまだ幼かったが12歳になり身長も伸びて大人びた顔つきになってきている。


フィンセントは婚約者が居るので騒がれる事は少ないだろうが、第二王子のレンスもヴィルも婚約者は居ないらしいので令嬢達の争奪戦は凄いだろう。


「ヴィルもレンスも少し見ない間にすっかり大きくなりましたね」


「兄上。今度、兄上の家に遊びに行ってもいいでしょう?」


「ヴィル、王妃様の許可が降りたらいつでもおいで」


弟達は私を兄弟として認めているようだ。


すると、王妃が口を開く。


「ヴィル、貴方は学院がありますから駄目ですよ。それに王子なのです。安全を考えても王都から出てはいけません。ホルムス、貴方はいつまでお城に滞在するのかしら?」


あからさまにお前は他人だという態度で話をする王妃。まぁ、昔から変わっていないな。


「王妃様、私は用事が済み次第帰りますし、村から出る事はないでしょうからご心配なく」


「おや、それは難しいのではなくて?」


「どういう事でしょうか?」


「ホルムスよ、その事なのだがな、王妃からの推薦で婚約者を宛がう事としたのだ」


「はっ。迷惑この上ないですね。遠慮しておきます」


やはりな。


王妃派の家の令嬢を見繕って私を王宮で飼いならすつもりだろう。


「王妃が既に相手と契約をしたらしいのだ。明日、早速伯爵家の令嬢が登城する手筈になっておる」


「私の許可なく勝手にしないで下さい。私は王位継承権を放棄し、王族からも籍を外しております。既に成人となり勝手な婚姻は出来ないはずですが?」


「・・・すまぬ。それと王妃からの特別任命として王宮薬師として王宮に籍も置くことになったようだ」


相変わらず勝手な奴だ。


「私はもう貴族籍を抜いております。今回城に来たのも手紙が来たからです。婚姻が褒美とでも?冗談を。褒美というなら私の事にこれ以上関わらないで頂きたい。・・・私が居れば食事も不味くなってしまうでしょう。では失礼します」


「!ホルムスっ」


 私は食事に一口も手を付ける事なく立ち上がり食堂を後にする。陛下が何か言おうとしていたようだが気にする事はない。そのまま案内された部屋から荷物を取ると部屋を出ていく。従者はどうしていいのか分からずにオロオロとしている。


「ホルムス様、今日はこのお部屋で宿泊するようにと仰せつかっておりますが・・・」


「すまんな。今日は街に宿泊する事にする。陛下には明日の午前中に謁見の間へ伺うと伝えておいてくれ」


「畏まりました」


 私はイライラしながら城を出て街の高級宿を取った。やはりあいつらは何処までも自分勝手だな。明日は金だけ貰ってすぐ王都を出る事にする。


場合によっては国外も視野に入れなければならない。

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