第37話

 ふふふ、今日は豚まんを作ってみた。蒸し料理はどうやらないようなので残念ながら蒸し器が存在しなかった。代用としてザルを使ってやって出来たけれど、やはり蒸し器は欲しいので絵に描いて師匠にお願いしてみたら工房に注文してくれると言ってた。


やった!蒸し器があれば色々と料理のバリエーションは増えるに違いない。そして師匠は豚まんをほふほふ言わせながらかじりついている。美味しいよね。点心もチャレンジしてみたい。


 そしてこの休みには豚骨ならぬキングボア骨のだしとビッグホーン骨のだしとか色々と作ってみた(師匠が)。味のバリエーションは増えたんだよね。そして私は師匠にお願いしてみる。


「師匠、お魚ってこの世界にはないの?海もないの?」


「魚は居ますよ。この近くであればセイラン湖ですね。海はここから一ヶ月程馬車で移動した場所にあるはずです。魔物も多くいるので一般人は行くのは難しいでしょう」


「そうなんだ。残念。魚料理を食べたいなって思ってたんだ。それに美味しい料理のだしも作りたかったんだよね」


「では明日セイラン湖に行ってみましょう。湖の周りに欲しい薬草もあるからついでに摘んで帰ればいいですね」


「やった!楽しみ」


 私は早速ピクニック気分で準備をする。釣り竿を持っていないのでどうするのか師匠に聞いてみたら湖のほとりに釣り竿を貸してくれる店があるのでそこで借りればいいらしい。


今日は湖に行く準備をしてウッキウキ気分でお布団の中に入った。




 翌日は朝早くにセイラン湖行き馬車に乗って馬車内で朝食を取った。今回は手軽に済むピタパンを作った。野菜が一杯詰めれるしこぼれにくいのが良いのよね。サンドイッチも手軽さでは負けてないけれどね。


師匠もこれは良いですねって喜んで食べてくれた。乗合馬車内は残念ながら人は居なかったのよね。先日の魔物の襲撃で村に被害は無かったけど、警戒しているのだと思う。村には師匠がいるから大丈夫なのだけどね。


 2時間程馬車の旅を楽しんだ後、私達は目的地のセイラン湖に着いた。


御者さんが言っていたが、山に囲まれたセイラン湖はとても大きな湖で端から端まで数十キロはあるらしい。村人達もよく来る湖なので整備されている箇所も多く、ピクニックするにはちょうどいいらしい。


王都で食べられている魚料理の魚はここセイラン湖の魚が殆どなのだとか。セイラン湖の奥の方では漁師達が漁をして手前側は観光客用らしい。


 そして私達は馬車を降りて湖の手前にある一軒のお店に立ち寄る。店内は貸し竿や周辺で採れる野菜、魚の干物や蜂蜜等お土産を買う人用に様々な品が並べられている。


「いらっしゃい。貸し竿はどうですか?」


「1本下さい」


 師匠はそう言って店のおじさんと話をしてお金を払った。おじさんは熊のような体格。もしかして日々セイラン湖に現れる魔物と対峙しているのだろうか。ちょっとドキドキしながら師匠を見ると師匠は何も気にしていない様子だった。


「あれ?師匠。竿は1本でいいの?」


「ファルマが釣っている間、私は周辺の薬草を採取してるから1本でいいのですよ」


「わかった。じゃんじゃん釣るからね!」


 そして師匠から受け取ってから釣り竿と魚を入れる籠がおかしいのに気づいた。私のイメージでは竹竿に小さな針が1つあってイクラやミミズ的な虫を付けたり、疑似餌で引っかけたりするような簡易の竿だと思ってたんだけど、この竿、かなりの大物狙いのしっかりした竿だと思う。


籠もかなり大きい。


もしや・・・。


 私は恐る恐る疑似餌の付いた仕掛けを欄干から湖にポイっと投げ入れる。師匠は最初は一緒にいてくれるらしい。しばらくすると竿はピクピクと引いたかと思うとグンッっとしなり、持っていかれそうになる。


これはヤバいやつではないか。


 私は全力で格闘した末、竿を引き上げるとバシャン!!と大きな水音と共に現れた大きな魚。山女魚のような魚。だが、サイズが違う。昔よくお正月で見た新巻鮭の大きさだ。きっと60センチはあると思われる。


「師匠、こんなに大きい川魚初めてみたよ。よく竿が折れなかったよね」


バッタンバッタン跳ねている魚のエラの上辺りを持っていたナイフで〆て血抜きを行う。ここ重要よね。すぐさま血抜きをするかしないかで味が変わってくるもの。師匠は血抜きを見ながら感心している様子。


「竿には文字が刻まれているのが見えますか?魔力を通して折れにくくしてあるようですね」


どうせなら引き上げる方も小魚程度の力にして欲しいと思うのは私だけなのか。


 後から店のおじさんに聞いた話では引きを楽しむ、釣り上げる喜びを感じたい人達が多く、その辺の強化はしていないのだとか。


どこの世界にもいるのね釣り愛好家は。


 師匠は私が1匹釣り上げるのを見届けると後ろの方にある山へと入っていった。相変わらずだなぁと思いながらも仕掛けをまた湖面へと投げ入れる。


師匠の事だからお昼ご飯にはふらっと帰ってくるだろう。

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