第36話
「ファルマは料理も上手いし、掃除も上手だな。ホルムス様の弟子がやはり一番いいのだろうな」
フェルナンド団長さんが表情を崩してそう言うとザロさんも同意するように頷いている。
「団長さんもやっぱり師匠の部屋はマズイと思っていたんですね」
「ああ。昔からホルムス様は片づけは苦手だったし、素材そのままを食べている人だったからな」
今も昔もその辺は変わらないのか。師匠らしいといえば師匠らしい。フェルナンド団長さんの話を聞きつつ師匠に視線を向けるとなんだそんな事かといわんばかりの涼しい顔をしている師匠。
「ファルマさん、私達がこの村に居るのもあと2日。その間だけでもいいんでファルマさんの作る昼食を食べたいです。是非団に来て料理を作って欲しいです。ね?フェルナンド団長も大賛成ですよね!?」
ザロさんはなんだか必死だ。どうしてなんだろう?と疑問に思っていると団長さんが教えてくれた。
「そうだな。ファルマ、残りの2日、団員達に料理を教えながら作って貰うのがいいな。ホルムス様いいでしょうか?」
「・・・仕方がない。ファルマ、団員達に料理を作ってあげて下さい」
「わかった。騎士団の昼食って食堂で各自食べているのだと思ってたよ」
「昼間は討伐に出ている事が殆どだから団員達の持ち回りで食事を作っている。男だけのせいか料理は酷いな」
団長さんの言葉にザロさんも激しく頷いている。
男の料理、現代日本ならオシャレなイメージだがここは異世界。オシャレとは無縁、師匠のような適当料理しか思い浮かばない。
巡回騎士団員はベンヤミンさんのような料理を作る人は少なそうだ。私は二人が渋々団に帰った後、誰でも簡単に作れる美味しい料理を考える。
何がいいだろう。
私は巡回騎士団用の野菜だしを作ることにした。といっても乾燥して粉末にするのは師匠なんだけどね。和風だしも欲しいけれど、ここは森に囲まれているから残念ながら魚なんて手に入らない。
私は玉ねぎをベースとした独自ブレンドを瓶に詰める。私が野菜スープを自分で作る時は塩加減も自分で出来るけど、騎士団では難しそうなのよね。まぁ、大丈夫かなぁ。そして師匠に一杯葉物野菜の乾燥した物を作ってもらった。これなら持ち運びも楽なのよね。あ、荷物が軽くなる護符は勿論あるからいいのか。
まぁ、楽なのに越した事はないわ。
そうして乾物を中心に準備をしていく。
「師匠、これも粉にして欲しい」
私が差し出したのはミルク。そう、粉ミルクが作りたいの。師匠はあっさりと粉ミルクを作ってくれた。相変わらず師匠のスキルは凄いね。粉ミルクもきっちりと瓶に詰める。これは家でも使いたいので師匠に一杯作ってもらったの。
そうして翌日の午前中、師匠の昼食を用意してから騎士団の訓練場へと足を運ぶ。
「フェルナンド団長さん、来たよ」
「ファルマ、待っていた。今日は宜しく頼んだ」
そうして訓練場のど真ん中で野外料理を始める。その周りを騎士さん達が取り囲んで作り方を見ている。巡回騎士団の団員は大体30人程度。大体は大鍋1つで調理するらしい。
今回2人の騎士さんが手伝ってくれるみたい。玉ねぎと人参、ジャガイモ、ベーコンを切って鍋にバターを入れて火が通るように炒めていく。小麦粉も投入。ちゃんとスプーン何杯と教えたよ。その後、水魔法で水を入れて煮ていき、粉ミルクと味の決めてとなる野菜だしを入れる。
「シチューの完成!」
多分だけど、ミルクスープ類は家庭料理にあると思う。けれど、沢山の野菜を時間を掛けて煮詰め、味を出していかないとあまり美味しくないんだよね。貴族の厨房ではじっくり野菜のコンソメスープを作る事も出来るだろうけど、騎士団では早くて大量を求めるだろうから味を求めるのは難しいかもしれない。
でも!これならかなり楽ちんよ。シチューは早速パンと共に騎士達に振舞われた。
「!!!」
みんなが驚いた顔をしているわ。そしてみんな無言のままパンに浸したりして食べ進め、お代わり要求が!大量に作ったけれど、即完売してしまったわ。
喜んでもらえてよかった。
翌日は鍋に乾燥野菜と切ったベーコンを入れて塩と野菜だしの超簡単野菜スープを作った。そしてパンにはベーコンとトマトとレタスを挟んだサンドイッチを用意。これなら騎士達もみんなが出来そうだと喜んでいたわ。
どうやら騎士達は水に切った野菜を投入して茹で上がったら塩を入れて完成という物が殆どなのだそう。美味しいスープにほど遠いよねそれじゃ。この世の中に粉末だしはまだ無い。野菜や肉を長時間煮込む料理は勿論あるけどね。そして料理情報も貴族達は家々の独自レシピをお茶会で公開するのが盛んらしい。
粉末だしが広がれば食文化はもっと広がるんじゃないかと思うわ。そして今日は最後という事でバットで作った私特製プリンをナイフで切っていき、みんなに配って回った。やはり甘味はいいね。砂糖は高いので普段口にする事が少ないから大喜びされたわ。
「フェルナンド団長さん、お疲れ様でした。次の街でも頑張ってね」
「ファルマ、有難う。君のおかげで皆生き残って美味しい食事をする事が出来た。またこの村に立ち寄った時は朝・昼・晩の3食欠かさずファルマが作るご飯を食べたい。むしろ今すぐに団長を辞めて居候になりたいんだがな、副団長以下が辞めさせてくれない。残念だ」
「あはは。団長さん、何だかプロポーズの言葉みたいだよそれ。またいつでもお家に来てね。美味しい料理をまた考えておくね。あと、これは師匠に作ってもらった野菜だしと粉ミルク。それと師匠からポーション。使う直前に魔力を込めろだって」
私は大きめの瓶に入れた野菜だしと粉ミルク、ポーションをフェルナンド団長さんに渡して家に帰った。
これで巡回騎士団の人達が少しでも楽になるといいなぁ。
「師匠、ただいま。ちゃんとお昼ご飯を作ってポーションも渡してきたよ」
そう言って私は師匠が飲むだろうとお茶を淹れる。
「ファルマ、お疲れ様。ここ最近働きっぱなしでしたからしばらくはゆっくり休みましょうか」
「そうだね。たまにはゆっくり休んでもいいかも!」
お店は混むことはないんだけど、毎日開けているんだよね。お店の休みはほぼ無い。たまには数日休んでもいいんじゃないかな。
そうして翌日村人達と一緒に巡回騎士団の人達を見送ってから家に戻った。フェルナンド団長さんは『騎士団のお休みを頂いたらここに泊まりに来ます』なんて言っていたわ。
団長さんなら本当に来そうだわ。
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