第34話

「フェルナンド団長さんこんにちは。治癒士の彼はもう大丈夫なの?」


「ああ。彼は元気そのものだ。残りのやけど跡をファルマに治して貰えると助かる」


「分かった。師匠、ちょっと治療しに行ってくるよ」


 私はそう師匠に声を掛けて団長さんと共に治癒士の人が訓練している場所へとフェルナンド団長さんと向かった。巡回騎士団の騎士達は村はずれで日々訓練をしているらしい。それは治癒士も同じらしい。自分の身は自分で守るのが基本なのだとか。


私には向いていないわ。


所詮村人Aという位の体力と攻撃力しかないもの。ちょっとだけスキルが有用なだけで。


「ザロは居るか?」


団長さんが治癒士の彼を呼ぶと彼は参りました!と駆け寄ってきた。


「ザロ、今からファルマが残りの治療をしてくれるからあそこへ座れ」


そういってフェルナンド団長さんは団員達から少し離れた木陰の切り株に治癒士のザロさんを座らせた。


「ザロさん、残っていた傷跡を治療していきますね」


「!!有難うございます。どうしようか悩んでいたんですよ。このまま私が治癒スキルを使っても跡が残ってしまうんですよね」


「そうですよね。では、さくっと治療していきますね」


私は慎重に魔法を掛けていく。そうして何度目かの魔法で治療が完了した。


「ザロさん、終わりましたよ」


「有難うございます。良ければファルマさんの治療魔法の方法を教えてもらってもいいですか?」


どうしよう。詳しく答えてもいいのだろうか。でも何だか不味い気もするのよね。


「詳しくは師匠に聞いてからでいいですか?」


「わかりました。後でホルムス様のお家に向かわせて貰いますね」


ザロさんはとっても嬉しそうにしている。


ザロさんは訓練の途中という事もあってまた持ち場に戻っていった。そして私はフェルナンド団長さんに挨拶をして1人家に帰った。



「・・・っていう事で師匠、後でザロさんがお家に来るんだって。どうしよう?」


私と師匠は仲良く昼食を摂りながら相談している。


「そうですね。では私も同席するとしよう。私もまだ分からない事もあるかもしれないし。軽く説明すれば大丈夫ですよ。魔法やスキルの使い方はイメージに依存する事も多いですからイメージしやすいような話をすればいいかもしれない」


「わかった」


昼食後、しばらくするとザロさんは家へとやってきた。何故かフェルナンド団長さんも一緒だ。


「いらっしゃい、団長さん、ザロさん。こっちへどうぞ」


 そうして私はお店の横にある診察室へと二人を招き入れて椅子に座らせる。師匠は私の後ろでお茶を優雅に飲んでいるのは気のせいだろうか。まぁ、気にしない。気にしたら負けだ。


私は早速ザロさんに簡単な体の作りを説明する。絵に書いてこれが細胞って言うんだよってレベルでしか話せないんだけどね。ザロさんは半信半疑ながらもしっかりと私の話を聞いてくれている。


「ザロさんに治療を行った時にイメージしたのはその記憶を元に皮膚を作っていく感じで魔法を唱えたんです。前回ヘルハウンドに襲われた護衛の人は目に傷が付き欠損判定となるかもしれなかったので左眼球を複製して右の眼球になるようなイメージをしました。


ただ、私の生活魔法では1度にする事が出来ないので何度もしなくてはいけませんでしたが、なんとか眼球は見えるようになったはずです。左右の視力は同じになった事で視力が悪いと両方目が悪い状態でしょうが見えなくなるよりマシかなと。


まぁ、護衛の人の視力はかなり良かったらしいので問題はなかったみたいです。そんな感じですが、同じ治療魔法でもその怪我によってイメージは変えています」


 私がそう話をすると、師匠を含めたみんなが驚いた顔をしている。それを見た私が反対に驚いてしまったわ。何か変な事を言ったのかしら、と。そして3人は魔法についてあーでもない、こーでもないと談義を始めた。




 私は休憩も兼ねてキッチンから今日のおやつを皿に入れて持ってきた。


「頭を使うと疲れるでしょう?おやつを持ってきたよ」


私はそう言ってクリームパンもどきを作ってきた。何故もどきかというとパン生地の中にクリームを入れる手段が無かったから。いつものパンより柔らかめのパンを焼いてからホットドックのようにカスタードクリームを入れたパン。


師匠用に少し甘さ控え目には作ったんだ。おやつなので1個が手のひらの半分サイズにしてある。


「師匠、お茶を淹れるね」


 私はいつものようにお茶を用意していると、3人は興味津々におやつを見ている。


「クリームパンを初めて作ってみたんだけど、口に合うかな?食べてみて」


もちろん砂糖は無いのでいつも蜂さんから分けてもらっている蜂蜜を使用している。


「「「!!!」」」


3人とも一口食べて驚いている。


「ファルマ!もっとありませんか?」


「んーもうないよ?だっておやつだもん。そんなに食べたら晩御飯食べれないでしょう?それに師匠は甘いのは胸やけするから控え目にしてると思って数は作らなかったんだよね」


「そんな事はないですよ?ファルマの作る物は全部食べれるから気にしなくていいのに」


「ファルマさん、私は甘い物が得意なようなので全部貰ってもいいですか?」


「ザロさん甘いのが好きなの?いいよ。あとでカスタードクリームを瓶に詰めるからパンに塗って食べて?」


「有難うございます!1人で夜にこっそり食べますね!」


「ファルマ、私の分はあるか?」


「え?フェルナンド団長さんの分はないよ?だっていっつもご飯うちで食べてるし」


団長さんはあからさまにガッカリしている。こればかりは仕方がないよね。無いんだもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る