第32話

私たちは村へと戻り、怪我人達が運ばれている村の中心にある広場へと向かった。そこには巡回騎士団員達の多くが運ばれており、村人も数名混じっている様子だった。どうやら巡回騎士団の治癒士が重症のケガを負ってしまったようで他の団員達に治癒が出来なかったようだ。


「ファルマ、まず治癒士を治療してあげなさい。貴女の魔法で彼を最優先に治療する方がいいですね」


「分かりました。やってみます」


私は巡回騎士団の治癒士の元へ走った。


 彼は蜘蛛にあちこち噛まれたような傷があり、出血も酷い。そして顔にやけどをしたような痕がある。もしかして蜘蛛の中に毒か消化液のような物を出す奴がいたのかもしれない。顔全体にただれがあり、口内にも広がっている。これではスキルを唱える事が出来ない。私はまず体全体に清浄魔法を唱え、止血の為に噛まれた箇所を魔法で治療していく。


少しは魔法の使い方が良くなったのか、イメージがしっかりと固まったからなのか前回よりも魔力のロスは若干減って治療範囲もちょっと増えている感じ。若干だけどね。1ヶ所につき3回位の魔法で済んでいる。大腿部、肩、腕、足と魔法を掛けて最後に顔を治療する。


清浄魔法で顔に付いた毒は取り除けたと思う。後は皮膚をどうするか。切り傷等とは違うので細胞を新しくしても駄目な気がするんだよね。火傷後の皮膚の盛り上がりや色がどうしても残ってしまう。細胞の記憶を辿ってみるとか?DNAって目や皮膚の色とか1つ1つ情報があったよね。あー自分が一介の主婦だったことが悔やまれる。全然分からない。


まぁ、魔法ってイメージが大切っていうし、とりあえず、表面の皮膚を剥がして新しい皮膚を生やす時に細胞の情報を元に復元するようにすればいいかなぁ。


 細かい作業なので顔や口内は特に慎重に行う。何度も、何度も。10回を超え20回目を唱えた位だろうか、私の魔力が切れてしまった。口内や顔の復元は9割は済んだと思う。口の中は特に繊細で味覚が無くなっても困るしね。


「師匠、魔力が切れちゃった。少し休んでいいかな。9割は治療出来たと思う。後は明日でもいいかな」


「ファルマ、駄目です。これでは失格ですよ」


私は師匠の言葉を聞いて少し驚いた。珍しく師匠が怒っている。


「ちゃんと自分の力を把握して魔力切れを起こさないようにしていく事が重要なのですよ」


確かに師匠の言う通りだわ。そう思った途端に瞼が落ちてパタリと倒れてしまったようだ。



 気が付くと自分のベッドで寝ていた。今回もまた師匠に迷惑を掛けちゃったみたい。自己嫌悪に陥る。そうだよね。助けたいっていうただ一心でやるけど自分が倒れたら元も子もない。ただ使うだけなら子供と同じよね。


 私はお腹も減ったので起き上がりリビングへと向かうとそこには師匠とフェルナンド団長さんがお茶を飲んで話をしている様子。二人ともとても深刻な話をしていたのかしら。眉間に皺が寄っているわ。


「師匠おはよう。ごめんね。倒れちゃった。次は枯渇しないようにする」


「ファルマ、体はもう大丈夫ですか?まだ寝ててもいいのですよ」


「体はもうばっちりだよ。お腹が減ったからご飯作るね。師匠達もまだだよね?」


「起きて早々に作らせるのは心苦しいけど、ファルマのご飯が食べたいのでお願いします」


「私ももちろんいただくぞ」


どうやら私は丸2日眠っていたらしい。キッチンやリビングが丸2日経っている事を物語っていた。


・・・後で掃除が必要ね。


私は気分を変え、パンとサラダと鶏肉のマーマレード焼きを出す。こういう時は手早く出来るものに限るよね。


「師匠、あれから怪我人は大丈夫だったの?」


「もちろん。私の試作品を試した結果、かなり効果を上げました」


「あのポーション?」


「ホルムス様、あの薬はポーションと言うのか」


 師匠が考え出したポーションの試作品は主に薬草を水に溶かした物なんだけど、魔力を込めて薬効を高めるような物。皮膚にかけると魔力が浸透してケガをしている箇所に染みこみ、薬効を魔力で効かせ細胞の再生が超スピードで行われるという代物。


ただ、これは保存が利かない。作りたてのみ効果を発揮する代物なのよね。魔力を留める物がまだ発見されていない。そして止血や造血の薬をベースとしているけれど、使い方によってもっと効果的な物もあるんじゃないかって事でまだ試作品の域を出ていない。どうやら師匠の作ったポーションは今回巡回騎士団の団員に配られて大活躍したみたい。治癒士の治療がとても楽になったのだとか。


「そういえば団長さん。私が治療した治癒士の人のケガは大丈夫だったの?まだあと1割は治していなかったし」


「治療士の彼はもうピンピンだ。ファルマの治療後すぐ彼は他の怪我人の治療をして回った程だ。彼はファルマの治療に驚き、とても感謝していた。蜘蛛の毒で顔が爛れてたからな。普通の治療では元の顔には戻らないだろうしな。できれば明日には残りの1割部分を治療してやってほしい」


「分かりました。明日お店に連れてきて下さいね」


そうしてご飯を食べるだけ食べてフェルナンド団長さんは宿に戻っていった。


「師匠、ポーションが活躍して良かったですね!」


「そうですね、これもファルマのおかげですよ。これからもっと良いポーションを生み出していかなければね」


私も師匠もホッと一息つきながら食後のお茶を楽しんだ。

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