第31話

 村の魔物討伐もそろそろ落ち着いてきたようで巡回騎士団は次の村へと移動が決まった時だった。


久々に聞く村の警報の鐘。


「師匠!鐘が鳴ってる。どうしたんだろう。巡回騎士団の人達は大丈夫なのかな」


私は心配しながらも薬の準備をしている。きっと怪我人も多数出ていると思う。警報の鐘が鳴るということは強い魔物が村に向かって来ているので戦えない者は避難する準備をし、戦える者も戦う準備をする。


私はスキル持ちで戦う事が出来るので戦いに出る準備をする。師匠もさっと部屋から出てきた。


「ファルマ、無理せず怖ければ避難しなさい」


「師匠、大丈夫。それに私が避難したらきっと怪我人を手当する人がいないもの。周辺の虫達を総動員するわ。魔物なんてイチコロよ」


「はは。そうでしたね。ファルマのスキルは最強でしたね」


本当の事を言えば魔物は怖いわ。自分より大きな魔物。血に飢えて人々を襲う。考えただけでも震えて動けなくなってしまいそうになる。


けれどあの時、ヘルハウンドが咥えていた人を見て助けなきゃって思ったの。見捨てる事はできない。


それをしてしまえばきっと私は後悔をする。後悔するなら震えながらでも戦いたい。


 私は師匠と一緒に鞄を肩にかけて家を出ると村の人たちが避難するのとは反対方向へと走っていった。村の男たちの怒号が聞こえる。どうやら村を出て少しの所まで魔物が来ているらしい。


何人かのケガをした騎士団の団員達が村の男たちに抱えられて村へと運ばれていく。


「師匠、フェルナンド団長さんは大丈夫かな」


「彼はきっと大丈夫。無駄に強い男ですからね」


 私は師匠とそのまま魔物がいるであろう場所まで走って行くと、そこには黒で埋め尽くされているのではないかと思うほどの魔物がいた。


「師匠!危険だ!」


私はそう叫んだ。


 魔物は蜘蛛型で親以外は子犬程度の大きさしかないのだが、おびただしい数だ。親と思われる蜘蛛は2メートル程の大きさで動く様子は見られない。


小さな蜘蛛が手足となって動いているのだろう。騎士たちは懸命に魔法と剣で攻撃をしているが、如何せん数の多さに次々とケガをし、1人、また1人と戦線を離脱している。


フェルナンド団長さんは他の団員達がケガを負っている中で1人戦い続けている。よく見ると団長さんの周りには空気の層なのか分からないけれど、結界のようなモノを纏っているようで魔物が飛びつくけれど、弾き飛ばしているように見える。良かった。無事で。すると師匠から声が掛かる。


「ファルマ!よく聞きなさい。この魔物にスキルは使えますか?」


私はスキルをちょっとだけ一番近くにいた子蜘蛛に使ってみると子蜘蛛の動きは止まった。どうやら魔物であっても虫型であればスキルは通用するようだ。


「師匠、使えるみたい。子蜘蛛なら動きを止めても大丈夫だけど、あの大きな蜘蛛と一緒に静止するとなると1回のスキルでは保っても少しだけだと思う。先に子蜘蛛だけを止めるのがいいと思う」


「分かりました。出来る範囲で構わない、小さな蜘蛛の足止めを」


「分かった」


 私はスキルを使い子蜘蛛達を従わせる『止まれ』すると、人間に襲い掛かってきた蜘蛛達は一斉に動きを止める。『一ヶ所に集まれ』大量の子蜘蛛達に命令をする。私のスキルでどの範囲の魔物を操れるのかは分からないけれど、師匠達が倒しやすいようにしていく。


 今まで小さな虫にしかスキルを使った事がなかったので気にしていなかったが、相当に精神力が必要なのだと感じる。集中力が切れてもスキルは解除されてしまう。じわじわと1ヶ所に集まってくる蜘蛛達。


「師匠!蜘蛛を集めたから一気に焼いて」


私が言い終わると同時に師匠は火魔法で一気に子蜘蛛を焼き払った。


「ファルマ、よく頑張りました。後はゆっくり見学しておいて下さい」


師匠はそう言うと親蜘蛛と対峙するみたい。そこへフェルナンド団長さんも駆けつけた。


「殿下、加勢します」


「フェルナンド、殿下ではありません。まず、注意を引いていてください」


 フェルナンド団長さんが何度か足に剣で切りつけるが親蜘蛛の足は相当に硬いようだ。そしてお尻から毒液を飛ばしている。これは危ない。けれど、団長さんはヒラリと上手く躱していく。


流石だわ。


何度も何度も足を切りつけていく間にどうやらダメージが蓄積しているようで蜘蛛の動きは徐々に鈍くなっているように思う。師匠の唱詠ももうすぐだ。


「師匠、今動きを止めるね」


私は親蜘蛛の動きを止める。先ほどより蜘蛛の体力は削られたようでスキルが楽に入ったような感じ。3分位は保つ事が出来そう。自分を攻撃しろって指示を出したいけれど、練度が足りないのか虫型とはいえ魔物だからスキルが入りにくいのかよく分からないわ。


だってこんなに大きな蜘蛛にスキルを掛けたのも初めてだもの。


足止めしか出来ないのが悔しいけれど師匠もいるからいいよね。そう思っている間に師匠の魔法は完成したようで蜘蛛の中心から火柱が上がり、跡形も無くなるほど燃えた。


「師匠!凄いね!」


「ファルマの方が凄いですよ。ファルマがいて助かりました」


「ファルマ、君は強い。どうだ?うちの団にこないか?」


フェルナンド団長さんが剣の汚れをふき取り鞘に仕舞った後、話しかけてきた。


「ファルマは私の弟子ですから団員にはなりませんよ。さぁ、ファルマ、怪我人の所へ向かいますよ」


「はい、師匠」

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