第30話

「まぁまぁ、師匠。いつも薬の素材を頂いてるんだし、たまにはいいんじゃない?」


「・・・仕方がありませんね。少しだけですよ」


私は早速フェルナンドさんを家の中へ案内する。


「フェルナンドさんそこに座って下さい。今ごはんを持ってきますね。今日は久々の唐揚げなんですよ」


「唐揚げ?聞いたことがない食べ物だな」


「!!!ファルマ、今日に限って唐揚げとは。さぁ、フェルナンド帰りなさい」


師匠が珍しく追い返そうとしているわ。まぁ、師匠の大好物だものね。フェルナンド団長さんと師匠のやり取りを横目に見つつ唐揚げをさっと揚げなおして山盛りの唐揚げとマヨとパンをテーブルの上に載せる。


「さぁ、どうぞお食べ下さい」


 師匠はさっと皿を自分の所に寄せて食べ始めた。それを気にする事無く、フェルナンド団長さんが手を伸ばしフォークで唐揚げを突いて1個とり、師匠の見よう見まねでマヨネーズに付けて食べた。


「!!なんて美味いんだ。こんな揚げ物は食べた事がない。美味いな。ホルムス様が渡したくないのも頷ける」


そうしてガツガツと唐揚げを食べ始めた。師匠は肉が減っていくのが嫌だったらしく、皿を左右に寄せながら食べるがフェルナンド団長さんも同じように器用に唐揚げを突いて食べている。


次回があれば1人1人別にお皿に用意した方がいいわね。


「!!このパン!なんて柔らかいんだ!?食べた事がない。ウマイ!!あと5個は食べれそうだ」


「フェルナンドは食堂で食事が出来るだろう。少しは遠慮しろ」


珍しく師匠が怪訝な顔をしているわ。


「何を仰るかと思えば。ホルムス様、王宮よりも素晴らしい食事を独り占めするとは度量が狭いというもの。食堂では味わう事が出来ないと知った上での発言。あぁ、度量が狭い」


フェルナンド団長さんは熊のような大きな体格だがヨヨヨと悲しむフリをしている。なんだか面白いわ。


「なんとでも言うがいい。私はフェルナンドの知っている通り、度量は素晴らしく狭い」


師匠は気にした様子もなく唐揚げを頬張りながら言っている。


「ふふっ、フェルナンド団長さん。唐揚げなら王宮騎士団の食堂にいけば食べれるよ。ベンヤミンさんが作ってるから王都に帰れば沢山食べられるよ」


私はパンを頬張ったフェルナンド団長さんにそう言った。


「王宮騎士団の食堂で?貴女はあそこの料理長を知っているのか?」


「うん。知ってるよ」


「もしかして、騎士団の料理がここ最近、急に美味しく変わったと聞いたのは貴女の影響なのか?」


「さぁ?それはよく分からないよ。でもその唐揚げに付けているマヨネーズは騎士団食堂でも食べられるようになったと思うよ」


 最近がどの程度の最近を指しているのかは分からないけど、ここ1~2年って事なのかな。それならきっと私のせいかもしれない。でも考えれば殆どレシピは渡していなかったからベンヤミンさんの努力のおかげだろう。


「ファルマはベンヤミンと知り合いだったんですね」


「うん。市場に小遣い稼ぎの為に野菜を売りに行った所でベンヤミンさんと知り合って野菜を買い取ってくれるようになったんだ。第2王子のレンス殿下にだって会った事があるよ。私の作った苺を目の前で美味しそうに食べてたよ」


「あの殿下が・・・」


 何やらフェルナンド団長さんの中でのレンス王子のイメージとは違ったのだろうか。よくわからないけれど、二人とも唐揚げを食べる手を止める事はなかった。きっと師匠にとっては殿下達は関わり合いになりたくない人達だと思うし、ベンヤミンさんが知り合いってだけで他はよく知らない。


まぁ、今後王都へいくつもりも予定もないので気にしてはいないけどね。




 その日以降、フェルナンド団長さんはちょくちょく家にご飯を食べにくるようになった。美味しい、美味しいと何でもペロリと平らげてしまう。


師匠はというと、小言を言いながらでもフェルナンド団長さんと食べている。やはり師匠はなんだかんだと言いながらもフェルナンド団長さんに心を許しているわ。私もその様子を見ながら3人で食べる食事も楽しい、こんな日がいつまでも続いて欲しいなとも思っていた。

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