第29話

 そして日々の作業に勤しんでいたある日の事、この村に巡回騎士団がやってきた。この巡回騎士団は王宮所属の騎士団員で構成されている部隊の1つで順にどの部隊からも団員が交代しながら国を巡回し、街や村付近に出る魔物の討伐をしているんだとか。


村娘には巡回騎士団は大人気みたい。それはそうよね。魔物を討伐する騎士は輝いて見えるわ。


私?全然興味はないけどね。


 巡回騎士団達は村の宿や教会に一定期間宿泊するらしい。魔物の多さで滞在する期間が決まるのだとか。私は村の人達と一緒に巡回騎士団の人達の歓迎をしにいったわ。師匠は相変わらず家に篭りっぱなしだったけれど。村長と挨拶をしてから各団員達は今日の宿へと向かって行き、村人達も解散となった。


「師匠、巡回騎士団の人たちがやってきたよ。村の近くは魔物が少ないからきっとすぐ移動しちゃうね」


と、私は師匠に言う。だって実は師匠はとても強いのを知っている。村人が手に負えない魔物は師匠が呼ばれて行ってさっくりと退治している事も。師匠は何にもいわないけどね。


「うん?ファルマは巡回騎士団に興味があるのですか?」


師匠は薬草を棚に置く手を止めて意外そうに聞いてきた。


「興味?ないよ。村のみんなは歓迎会と称して飲み明かすみたい。師匠を誘ってきてって言われたの」


「そう。私も興味は無いので行かなくてもいいですね」


師匠はまた手を動かして作業を続ける。そういってしばらくすると、


―カランカラン―


 お店の扉が開く音がしたので私はお店の方へ向かう。店に入ってきたのは1人の騎士服を着た男の人だった。


「いらっしゃいませ。巡回騎士団の方ですか?」


「ああ。私は巡回騎士団団長のフェルナンドという。貴女はここで働いている薬師かな?」


20代後半に見える騎士服を着た精悍な顔つきをした団長さんは挨拶に来たらしい。


「薬師、師匠の事ですね。今呼んできます」


「師匠、巡回騎士団団長のフェルナンドさんって人が師匠に挨拶に来たよ」


師匠の手はピタリと止まった。何気ない事かもしれないけれど、師匠の雰囲気が少しだけ変わった気がした。


やはり何か思う所があるのかな。


「分かりました」


 そう言って師匠と一緒にお店の方へ出るとフェルナンド団長は師匠の顔を見て改まった様に姿勢を正している。


「巡回騎士団団長フェルナンド、本日この村に到着致しました。数日間滞在予定となります。ホルムス殿下に挨拶と薬のご協力を願いやって参りました」


 フェルナンド団長は敬礼をしながら挨拶というより、報告をしている感じ。師匠はキリッとした表情で手を挙げて答えている。ひぇぇぇって臓器がキュッと冷たくなったように思ったのは内緒。


だって師匠の殿下だった頃の面影を見たって感じだよ?団長さんに敬礼される人って数少ないんだよ。しかも一目見て殿下って分かったんだ。元々顔見知りだったのかな。私は師匠の後ろにすっかり隠れて顔だけ出していた。


「ファルマ出てきなさい」


嫌だなぁ、なんだか怖いよ。


「・・・はい。師匠」


私はおずおずと師匠の後ろから出てくる。


「フェルナンド、私はもうただの薬師ですよ。そして横にいるのは優秀な助手のファルマ。薬の依頼があればファルマに届けさせますから、何かあればファルマに言って下さい」


優秀な助手!?ふぇっ!私は驚き師匠の顔を見ると師匠はこれ以上ない微笑みを私に向けていた。


こ、これは、私に厄介事を押し付けようとしている顔だわ。


「ファルマです。よろしくお願いしますね」


私は微笑みながら軽く会釈する。


「可愛いお嬢さんだ。私はホルムス殿下が王都へ来た時から王都を出るまでの間ずっと護衛を担当していた。殿下がこんなに可愛いお嬢さんを手元に置くなんて珍しい。こちらこそよろしく」


フェルナンド団長はそう言って丁寧に挨拶をしてくれた。フェルナンド団長さんと師匠は軽く雑談をしてから彼は宿へと戻っていった。


「師匠、久々に知り合いに会ったんでしょう?お家に招かなくて良かったの?」


「そんな気遣いは彼には無用です。どうせすぐあっちから何かと用事を見つけて来ますからね」


師匠はそう言ってまたポーション研究の為に部屋へ戻っていった。


 翌日、騎士達は朝から村の周辺へと調査に出かけたみたい。なんとも無ければいいな。巡回騎士団には1人の治癒士が同行しているらしい。なので滅多な事では村や街の治癒士が駆り出される事はないみたいなんだけど、騎士団の治癒士で間に合わない場合は村や街の治癒士や薬師に応援を要請するらしい。


騎士団に所属する程の治癒士って凄いんだろうなぁ。私みたいなへっちょい魔法では足を引っ張るだけなので強い魔物は出ないで欲しいな。午後も早いうちに騎士たちは魔物を狩り、村へと帰ってきたようで村は魔物の素材でにぎわっていた。


―カランカラン―


 店に入って来たのは討伐後であろう姿をしたフェルナンド団長さんだった。


「いらっしゃいませ。フェルナンド団長さんこんにちは。何かお探しですか?」


店番をしていた私はフェルナンド団長さんに声を掛ける。


「ファルマさん、こんにちは。ホルムス様はいますか?」


「師匠は今新薬の開発に忙しくしていると思いますよ?」


「そうか。ではこれをホルムス様にお渡しいただければ有難い」


フェルナンド団長さんが差し出した包みを開いてみると中に臓物が入っていた。


「これは今日狩ったばかりの魔物の腎臓と肝臓だ。確か薬になると聞いたので持ってきたんだ」


「フェルナンドさん有難うございます。早速乾燥させて薬にしますね」


フェルナンドさんは包みを渡すとすぐに帰っていってしまった。


「師匠、フェルナンド団長さんがこれを持ってきたよ」


「ああ、有難う。フェルナンドにお礼を言っておいて」


師匠は忙しかったのか、スキルで臓物を一瞬で乾燥させてからまた別の作業に取り掛かっていた。私は乾燥した腎臓と肝臓を丁寧に部屋の素材Boxへと仕舞った。


 それからというものフェルナンド団長さんは毎日師匠にと何かしらを持って来ていた。なんだか貰ってばかりで申し訳ないわ。


そう思っていたある日のお昼頃。


「師匠、お昼ご飯出来たよ」


「今、行きます」


そう、ごはん時に彼はやってきた。


「こんにちは。ホルムス様いますか?」


「師匠、フェルナンド団長さんが来たよ」


「・・・」


「フェルナンド団長さんこんにちは。今日はどうなさったんですか?」


「今日は討伐が思ったより早く終わったんだ。またいつものを持ってきた」


「有難うございます。師匠よかったね。今、ちょうどお昼にしようと思っていたし、フェルナンド団長さんも一緒にいかがです?」


師匠はさっと素材を乾燥させた。


「ファルマ、フェルナンドは食堂で食べたいみたいです。残念ながらうちの食事は口に合わないので帰ってもらいなさい」


「ホルムス様と一緒にお食事とは有難い!是非頂こう!」


冷たい態度の師匠とは反対にとっても乗り気なフェルナンド団長。


まぁ、お昼くらいいいよね。

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