第28話

 今日もお客さんは来なかったなぁ。みんな病気しないんだね。まぁ、小さな村だから仕方がないよね。きっとさ、病気以外も手荒れクリームとかボティクリームみたいなのがあったらいいんじゃない?


今度師匠に掛け合ってみるかな。


今日の晩御飯何にしよう。


 師匠が持って帰る豚肉を焼くとか?トンカツが食べたいなぁ。黒パンを削っておこうかな。でも、さっき師匠はパンを4個食べたから晩御飯少しでいいよね。しばらくしてから師匠はいくつかの肉の塊を持って帰ってきた。


見るとバラ肉の部分とロース肉、肝臓、耳。美味しそうね。バラ肉はベーコンにするためにとりあえず塩漬けにしよう。ロースはどうしようかな。とりあえず冷蔵庫に入れて明日考えよう。


そうそう、食糧庫の1角に箱があって魔石で冷やす冷蔵庫があるんだよね。あまり大きくは無いのが残念な所。でも師匠だけなら大きさは要らないよね。実際使った形跡も殆どなかったし。ちなみにちょくちょく食糧庫に清浄魔法を掛けているので無菌室っぽくはなってるのよ?賞味期限は延びているはず。


 私は耳をさっと湯がいてレモン醤油を用意し、白ワインと共に師匠に出す。


「師匠、今日のごはんは少な目だよね?疲れたでしょ?先につまんでいてね」


「これは?ごはんはいつも通りでお願いします」


「豚のミミだよ。お酒に合うおつまみかな。ごはんはいつも通り?今日くらいは居酒屋メニューでもいいかな」


 私は肝臓に衣を付けて揚げ、ケチャップ和えにする。これだと独特の臭みがケチャップの酸味にかき消されて内臓初心者にもってこいなのよね。サラダと共にテーブルへ運び、次はだし巻卵と言いたかったけど、オムレツになってしまったわ。四角いフライパンが欲しい。


「ファルマも一緒に座って食べましょうか。美味しい。ボアの肝臓、今まで食べた事は無かったけれど、これなら美味しく食べれそう。それに卵も美味しい。もうファルマが作るごはん以外は食べれない気がします」


「ふふ。そうでしょう?料理大好きなんだ。師匠の為にもっともっと作るよ」


そうして師匠の狩ったボアを美味しく食べた。やはり美味しいっていいね。幸せを感じるわ。


「ところでファルマ、貴女は文字も読めるし、学院卒業したくらい数字にも強い。そろそろ薬の調合に入ってもいいと思っています」


「!!師匠、本当!?やった!頑張って覚えて師匠のお手伝いをするよ!」


ウッキウキで翌日から薬の調合を教えてもらった。


・・・予想外。


 薬草を乾燥させようと火魔法を使うと草が燃えた。風魔法で乾燥にチャレンジすると乾燥するまでに時間が膨大にかかった。


魔法の併用は私には出来ないらしい。乾燥して粉にするのも手作業となる。均一にすり潰すのは至難の技でムラが出来ている。


私の記憶の中の粉にする器具、臼は師匠の家には無い。臼はどうやら農家や商家で大量に粉ひきをする物を扱っている所でしかないらしい。


そうだ、ミキサーの様にすればいいんだわ!と瓶に詰めて風魔法で!って思ったけど私では魔法の火力が足りない。


地道にゴーリゴーリと鉢ですり潰すしかないらしい。そして粉になった薬をミリグラム単位でかけ合わせていくのも超至難の業。師匠はスキルで一発だけど、私の場合は道のりが果てしなく遠すぎる気がする。


「し、ししょぉ、私、薬の才能ないのかも」


何故だろう?料理は美味しく作れるのに、知識だってあるのに上手くいかないわ。


「ファルマ、初めてなんだから出来なくて当たり前ですよ。まぁ、不器用な方ではあると思いますがね。薬師の職業がスキル、もしくは魔法と仲が悪いのかもしれませんね」


「え!?そんな事ってあるんですか?」


「いえ、そんな事はないと思うけど、ファルマならありえそうな気がします」


ガーン!まさかっ。


真面目な顔で師匠が冗談を言っている?


いや、でも、生活魔法で薬の作成は難しい。手順が増えるとその分ズレが生じるのかもしれない・・・。


「師匠、薬が出来なくても、破門なんてないですよね!?いや、師匠にしがみついてでも、無理やり媚薬を飲ませて襲って責任を取らせるように娶ってもらいますからね!絶対出て行かないよっ!」


「媚薬とは。ははっ、面白い事を言いますね。大丈夫追い出すなんてしないですよ。むしろ私が胃袋を掴まれてファルマが居ないと生きていけません。責任もって私のお嫁さんにしますから」


「良かった!約束だからねっ」


そう言いながら私は今日の修行を終了し、畑と店番に切り替えた。


 すこーしずつ成長するしかないわ。師匠はというと、私の話を覚えていたようでポーションなる物を開発しようと着手し始めたみたい。それが現実になると世の中の騎士達は怪我が軽い間に手早く治療出来て助かるに違いない。治癒士を待つ間に治療が出来るのは凄いよね。それに治癒士がいない村だって沢山ある。


ポーションが出来れば無くなる命も減らせるかもしれない。




 そうして私はホルムス師匠の指導のもと、毎日少しずつ薬を作る練習をしていく。調薬の修行を始めて半年以上たっても全然成長している気配がないのは気のせいかしら。


いいの。私はカメの歩みで頑張るから。


師匠はというと、私とは違ってポーションの原型となる物を作りつつある。やはり凄い。天才よね。私のイメージでは光魔法を水に溶け込ませてあら不思議、傷薬の完成!って感じなんだけど、実際は難しいらしい。


そもそも光魔法を使う人が少ないし、そもそもの概念がない。治癒士スキル所持者も多種多様なスキルがあるので人数としては少ない。魔石はあるのに不思議な感じだと思う。


 魔石は基本的に魔物の属性に由来するので火魔法を使う魔物は赤い魔石が取れる。込められる魔法も火属性となる。他の属性も同様だが、光魔法を使う魔物はいないため魔石に光はない。


例外があるとすれば魔晶石と呼ばれる鉱物があるのだが、採れる量はごくわずかで貴族ですらお目にかかった事はない。見つかれば即宝物庫行きだろう。それくらいの貴重な鉱石なので本当に例外。


 そんな訳で師匠が取り組んでいるポーションが完成するとかなり画期的、師匠はこの世界の英雄になるかもしれない。

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