第27話

今日も美味しく料理を食べている所に私はお願いをする事にした。


「師匠、お願いがあるんだけど」


「何かな?聞けるものなら聞きますが」


「んとね、このお酒のアルコールを抽出して欲しいんだー。この瓶に」


私は厨房から持ってきたお酒と瓶を渡す。


「抽出してアルコールの度数を高めて何にするんです?」


「これがあるとばい菌は死滅するから怪我人の傷口の周りを拭いたりする事が出来るんだよ。清浄魔法の代わりかな。それにチンキ剤になる」


「チンキ剤?」


「例えばミントやバラをアルコールに漬けて置くと成分が溶け込んで香水や化粧品に使えるようになるんだ。あんまり日持ちはしないけど、簡易な方法なんだよ。あと、家の裏を畑にしたいんだ」


「いいですよ。チンキ剤。面白い名前ですね」


そう言いながら【抽出】とスキルを使ってあっさりとアルコール部分のみを瓶に入れる。いいなぁ。私も欲しいよそのスキル。純度100%のアルコールが出来たからこれを薄めて使えるわ。小躍りしそうになってしまう。


「ファルマ嬉しいのは分かるけれど食事中ですよ」


「はぁい師匠」


「明日、庭を広げて畑にするのは構わないですが、何を植える予定ですか?」


「半分は薬草がいいかなって思ってるの。もう半分は野菜かな?ほらっ私前世は農家だったから」


「農家?」


「うん。だから植物を育てるのは好きだし、得意なんだよ」


「それは助かりますね」


「明日が楽しみ」


 そうして私の植物愛を語りながら今日も晩御飯を完食!翌日は朝の早い間に師匠に家の裏手の森を開拓してもらう。


その方法はいたって簡単。【ウィンドカッター】で周囲の木を切り倒し、風で細かく薪にしてさらに一ヶ所に集める。そこまでが師匠の仕事。


あとは私の魔法で。土魔法で切り株を掘り起こす作業。切り株1個につき1回の魔法を使うしかないのよね。これが生活魔法の限界。


 見かねた師匠は掘り出した切り株を1ヶ所に集めてくれて魔法で焼いて灰にしてくれる。師匠的に処分をしたつもり。私的には素敵な肥料を作ってもらえた。うひひひ。


 その後、師匠は育てて欲しい薬草の苗を探してくると言ってフラリと山へと向かったみたい。どんな薬草だろう?育ちやすい環境だといいなぁ。まぁ土魔法があるから有無を言わさず育てる事は出来るけどね。


 私はそこから土魔法で石を掘り起こして拾っていく。切り株と違って小さくて軽いから広範囲に出来た。ただ、掘り起こされた雑草や石を拾い集めるのはかなりだるかったわ。雑草はもちろん次の肥料となるため横に寄せて乾燥させておく。後は土の消毒よね。ビニールなんて無いから熱消毒は出来ない。


そしてもみ殻も今手元にないし、仕方がないので土に直接熱湯を掛けて消毒をする事にした。桶に魔法で水を入れ、火魔法で熱湯にして掘り起こした土に撒くだけ。


時間は掛かるけどこれが今私の出来る方法だと思うのよね。


消毒後、師匠が灰にしてくれた肥料を土に混ぜ込んで畝を作っていく。全部で10畝。結構な広さだわ。畑の1畝をジャガイモ畑。1畝をトマトと葉物野菜にする予定。



 私は苗屋さんへ向かい、ジャガイモとトマトとレタスの苗を買う。後、バジルも1苗。ただ、ハーブって繁殖力が凄いので1苗で十分だと思う。トマトの隣に植えると相性がいいらしいからね。収穫してピザにしても美味しいわ。


師匠はどんなハーブを持って帰るのかな。


 苗を買った後、私は花屋に寄って香りの高い花を選ぶ。バラはやっぱり定番なのよね。悩んだ末に私が選んだのはジャスミン。今回作るのは香りづけで口にする予定はないけれど、何かあっては駄目だしね。香り高くてお茶にしても美味しいジャスミンにするわ。私はジャスミンを買って家に戻る。


 早速家に帰って種芋を切って畝に植えていく。同様にトマトとレタスの苗とバジルも植えたわ。今日はお店にお客さんは来ていないし、のんびりやっても大丈夫。部屋に戻ってジャスミンの花を摘み、アルコールと一緒に瓶詰にする。楽しみだわ。


 結局師匠はその日帰って来なかった。


どこまで行っているのか。




1人で朝食を食べてから店を開けて薬草の知識を取り込む。


― カランカラン ―


扉の開く音がして視線を上げると、目にクマを作った師匠がいた。


「師匠、お帰りなさい。大丈夫?」


「ええ。大丈夫、とりあえずは生きてます。それより食事を。お腹が減りすぎて死にそうです」


「師匠はあんまり食事に興味がないのかと思ってたよ。すぐ用意するね」


私は早速フライパンを熱してベーコンと卵を焼く。その間に丸いパンを水平に包丁を入れて切り、葉物野菜と玉ねぎのスライス、ベーコンと目玉焼きとケチャップを入れて簡単ハンバーガーを作る。


絶対1個じゃ足りないよね。お茶とハンバーガーを1個出している間にあと3個食べれるように用意してリビングに戻るとやはりペロリと食べて次が来るのを待っていたみたい。


「師匠、どんな苗を見つけてきたの?きっと全速力で取りに行って全速力で帰ってきたんでしょ?」


師匠はハンバーガーをもぐもぐと食べているがその姿はやはり上品だ。


「今回はちょっと遠い所へ行ってきました。途中で大きな魔物にも遭って倒すのが面倒でしたよ。植物は庭に置いてあるのでこのハンバーガーなるものを食べたら植えに行きましょう。倒した魔物もまだ置いているし、肉屋に持って行かないといけないですから」


魔物もいるのか。どんな奴だろう。そうしているうちに師匠は4個目のハンバーガーをペロリと食べてしまった。師匠と一緒に裏庭に出てみると目についたわ1番に。


 3メートルはあろうかと思われる猪。これって噂のキングボアってやつ??ご丁寧に首に切り目が入って血抜きがされている。


猪は過去にも見たことがあったので悲鳴を上げる事はないけど、これゴブリンの山だったら悲鳴を上げている自信がある。


「師匠、肩の辺りはトンカツにすると美味しいよ。お腹の部分はベーコンとか焼肉でも脂が乗ってて美味しいし、耳の下あたりはコリコリで塩コショウをして焼くと美味しいよ。


心臓や肝臓は貧血に効果があっていいんだ。大腸はシロコロって言って鍋にすると美味しい。骨は煮込んでダシにすると美味しいんだ。どこも選び難いけど、出来ればお腹の部分が欲しい!ベーコンにして長く味わいたい」


「分かりました。今から持って行くので肉屋と交渉しておきます。ファルマの作る料理は美味しいから、楽しみです。あぁ、それと育てて欲しいのはこの苗。


これはエキナセアというここら辺では珍しい薬草なんです。取りに行くのに時間が掛かりましたよ。これがあれば遠くに取りに行かずにすむから助かります」


 師匠が取り出した植物は見たことがない。でも葉の形状や香りからしてキク科の植物じゃないかしら。キク科なら害虫にも強いし、病気も少ないかな。


日当たりの良いところを好む感じね。ハーブは基本生命力が強いのであまり手を掛けると枯れてしまうんだけど、これもその手のタイプかもしれないわ。



「師匠、この苗から種を増やして薬草園にしていくね。他にも欲しい薬草があればいつでも言ってちょうだい。あぁ、あっちに植えてあるのは家で食べる用のジャガイモとトマトとレタス、バジルだからね」


「わかりました。楽しみですね。では肉屋に行ってきます」


師匠はきっと1トン以上あるボアを風魔法で浮かせてトコトコと肉屋に向かった。庭で解体するかと思ったよ。さて、師匠の持ってきたエキナセアの苗を畝に植えて土魔法で馴染ませる。植物の成長を促すように魔法を少しだけかけておく。


あまり無理はさせないのが私流。


植え付けも終わったことだし、店番に戻ろう。

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