第25話

 2日後、ようやく色々な物が完成したわ。天日干ししていた野菜はしっかりと乾き小さくなっている。師匠に粉砕してもらうのが一番早そうな気がする。臼でゴリゴリと粉にするには時間も手間もかかるしね。師匠の家にはもちろん臼なんて物は存在しない。


「師匠、この野菜を粉状にして、瓶に入れて欲しいです」


「・・・まぁ良いですよ」


流石薬師スキル。めんどくさそうな表情をしながらも粉状にするのは一瞬だわ。


うひひひ、これで色々と料理の幅が出る。そして酵母も出来上がっていた。


私は早速パン作りをし焼いていく。


 そうそう、今日はお店の休みの日だから一日料理をしていても何の問題もない。食パンのような型はないので手のひらサイズに丸めてベンチタイムを設ける。


しばらく休ませた後、ガス抜きをして天板に乗せていく。ちぎりパンをイメージして食べやすくしてみたの。後は手のひらより少し大き目位のサイズで丸くして何個も用意しておく。


何故って?毎回焼くの面倒だから数日分を今日一気に焼くんだ。そうして数日分のパンを焼いていく。野菜ダシを鍋に入れてベーコンや野菜を入れて塩で味を整える。


なんて美味しいの!これよっ、これこれ!


味がぐっと深まってベーコンの香りも引き立っている。後は、蜂さん達から貰った蜂蜜を瓶に入れて完成!肉?肉は塩を振って少し置いてから、ニンニクでさっと香りづけをして焼き目を付けておしまい。


「師匠!晩御飯が出来たよ」


私の声を聞くと同時にパタンと扉が開いてすぐに席に着いた。ごはんが待ち遠しかったみたい。


「今日は師匠が作ってくれた粉状の野菜ダシを使ったスープときっと師匠は食べたことがないであろうやわパン。そしてステーキと蜂蜜ね。蜂蜜はパンに乗せてもいいよ」


師匠はいつもと違うパンをまず手にとって香りを確かめている。焼きたてのパンはふっかふかで柔らかい。ちぎってみた所で目を見開いて驚いている。


「ファルマ、なんて柔らかいパンなのでしょう。バターの香りもあって心地よい嚙み心地。素晴らしい」


「でしょう?今まで食べている黒パンは酵母が入っていないからね。酵母が入っていると柔らかくなるんだ」


1個目をペロリと食べてしまった。そしてパンのお代わりを持って来ようと立ち上がると


「パンはあと3つなら余裕で食べれそうです」


「分かったー。取りに行っている間に野菜スープも飲んでみて。これも凄く美味しいんだから」


そう言って席を離れた。先ほど焼いたパンは少し熱も冷めていたけれど、そっと魔法で温めながら運んでいく。


「師匠、お代わり持ってきたよ」


私が戻ってきた時には既に肉も野菜スープも半分以上無くなっている。はやっ。


「ファルマ、この野菜スープも美味しい。乾燥させた野菜がこんなに美味しく優しい味になるとは。お代わりはまだありますか?」


「師匠、あんまり食べすぎると後でパンが胃で膨らんで苦しくなるからこれだけにした方がいいよ。明日から当分このパンだからね」


師匠はいつになくしょげた感じに見える。そんなに美味しかったのね。名残惜しそうに最後に残ったパンに蜂蜜を付けてデザートのようにペロッと食べきってしまったわ。


「師匠、今日はお風呂も張ったからゆっくり浸かって休んでね」


「ファルマ、何から何まで有難う。早速入らせて貰います」


久々のお風呂!やはりこの世界の人はシャワー派が多いみたい。魔石でお湯が沸くとはいえ、魔石を頻繁に買い替えるならシャワーの方がいいとか。清浄魔法で済ませる人もいる。でもお風呂に浸かるのが好きな人も多いのでこればかりは好みの問題なのかもしれない。


私はもちろん浸かりたい派。やはりゆっくり浸かると疲れが取れた気になるのよね。師匠はどちらでもいい派。むしろ無頓着なので2、3日汚くても平気そうなのよね。


臭い男は駄目!許しません。


そういえば、ここで暮らしはじめて少し経ったけれど、師匠の事を少しは分かったような気がする。薬オタク。熱中しすぎて他のことは2の次、3の次。食事も栄養が取れていればなんでもいいといわんばかりに味付けせずにぼりぼりと野菜を食べてたりする。



 多分師匠は王族を親戚に持っているんじゃないかな?私も魔力はかなり多いけれど、師匠は桁違いに多いし、よく見ると王族の証である瞳。普段はロイヤルブルーと呼ばれる青い瞳なのだけど、魔力を使うときにはロイヤルパープルに色が変わる。


目の色がここまで変わるのは王族だけらしい。因みに私は薄水色の瞳で魔力を使うとやや水色が濃くなる。魔力の多い貴族達も同じようなものだと思う。


瞳の変化は魔力量の違いなのかしら?


あまりその辺の理由は公にされていない。師匠、王族ですか?って聞いた所で何にもならないので特に聞くことはしてない。


 そしてこの家の収入源はもちろん師匠のお薬。とってもよく効くらしい。貴族や店を構える者達が王都からわざわざ大人買いするため懐は温かいようだ。サイフの中身を気にして買い物をしている様子はみられない。流石師匠。


スキルに治癒士や光魔法のヒールがこの世界には存在するけれど、その殆どがケガを回復させる物。薬師は主に病気の人を治療するのが仕事。この村には治癒士がおらず必然と師匠の家に運ばれてくるので、応急処置は師匠の仕事みたい。

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