第24話

 そうして1週間ほどかけて部屋という部屋のお掃除が終わった。今まで使っていなかったお風呂もこれで綺麗さっぱりと気持ちよく使えるわ。物置だった1部屋は私の部屋になり、ようやく診察室から移動する事ができた。


 私が片づけている間に1人の人が訪ねてきた。どうやらこの間大怪我を負った護衛の人のようだ。今はしっかりとケガも治り、出血した分の血も安静にして良くなったようでお礼に来たとのこと。


生きていて良かったわ。


気になっていた目も見えているとの事。お礼を置いて行こうとしていたけれど、師匠の薬代分だけ頂いたわ。護衛の人は少し不満そうだったけれど、きっとこれからもケガをする事も多いと思うの。


またここのお薬を買ってねと宣伝しておいたわ。



 そして、お部屋が片付いてからは本格的に弟子としての仕事に励む事になった(多分)。日中は店番をしながら師匠が持っていた薬草の知識や薬についての本を読み勉強をする。


しっかり覚えているか時々師匠がテストを出してくるのよね。それが難しくて大変。薬になる植物は沢山あるし、可食部分や効能も幅広くある。似たような名前もあるし、間違えた時の悔しさといったら。


家庭料理だったら誰にも負けない自信があるのに。


赤、緑、黄色の3食栄養から始まってビタミン、炭水化物、食物繊維とかさ一杯主婦になってから覚えたのよね。家族に健康で過ごして貰いたいから食事は人一倍勉強して気を付けていたのよ?田舎の祖母ちゃんはなんでも手作り。これはあながち間違っていないかも?今ならそう思う。


 もちろん今は師匠の為に朝昼晩の3食をしっかりと手作りしている。師匠もやはり肉は好きらしい。王都から離れているため品揃えは豊富とは言えないけれど、王都で商売をした後、行商ルートがあるようで村にも寄ってくれる。それを私を含めた村人たちは楽しみにしているんだよね。




 そして今日、村の中央に店を出した行商は米や豆など食料品を中心とした行商だった。行商の馬車3、4台でやってきてテントを張り籠や麻袋、木箱に綺麗に並べられ売られている。


髪飾りや布地をメインとした行商なら必然と若者が集まるが今回は食料品がメインのようで主婦や店を営んでいる人たちが集まっていた。行商の幌馬車の前に置かれた商品をじっくり眺める。村では食べる事のないフルーツがドライフルーツになって売ってたり、変わった小麦が売っていたりしていた。


麻袋に詰められて置かれている商品。1つ1つを見てこれならどんな料理が合うかななんて考えながら見ていくと、置かれた麻袋に目が止まった。


「師匠!あの袋に入っている物。全部買い取りたい!いいでしょう?買って、買って~」


「ファルマ、そんなにあれが欲しいのかい?どうしようかな」


「師匠、だって、あれがあれば美味しいものがもっと食べられるようになるよ?」


「・・・買いましょう」


そう、私が子供のように駄々をこねてまで買ったのは米。残りあとわずかな麹をどう増やそうか考えていたんだけれど、米が無くてはね。そして大豆も買って貰ったわ。


米も大豆も売り切れる程買い占めてしまった。


これで色々と作れる料理の幅が増えるわ。師匠は不思議に思いながらも米を5袋、大豆を3袋を買って家の食糧庫へと運んでくれた。


「ファルマこんなに買っても大丈夫ですか?」


「師匠!これでも足りないくらいだよ。美味しいごはんどんどん作るから待っててね」


ウッキウキしながらお米を手に取る。これがあれば麹を増やす事が出来るわ。麹が残り少ないから諦めていたけど、柔らかいパンだって作れちゃう。パン自体は果物の発酵からも出来るんだけどね。お酒だって薬に使うアルコールだってできちゃうのよ!いや、ワインからも出来るんだけどね。


 醤油や味噌に困らなくなるのは大きいわ。私は早速樽を用意して麹を増やしに掛かる。店番そっちのけで。今日ばかりは師匠も許してくれるみたい。美味しい料理には代えられないって。


 私はとりあえず日数の掛かる味噌作りと醤油作り、酵母作りの下準備をしたわ。そういえば師匠はいつも美味しく食べてくれるんだけど、温かい料理を温かい内に食べるという事は殆どなかったらしい。


スープだってぬるい位の温度だったのだとか。そんなの美味しくないわ。確かに私も貴族の端くれだったから疑問を持たずに食べていたけれど、食堂までの運ぶ時間や毒味を考えれば冷めてしまうのは仕方がない事よね。


 平民向け食堂は熱いうちに食べるシチューやスープがあるけれど、硬いパンを浸して食べるからその分冷えてしまうし、考えれば考えるほど熱いものを熱いうちに食べるのは少ないのね。


飲み物だけよ?私が作るからにはそんな事はさせないわ!と心に誓いながら野菜を天日干しする。師匠は不思議そうにしていたわ。魔法で乾燥させれば早いのにって。違うのよ。


半日でも天日に干すことでビタミンが豊富になるの。その後これを粉状にして野菜のダシとして使用するの。


 今日は色々な物の下処理をしてクタクタになったわ。なので今日はチキンスープとパンだけになっちゃった。野菜と肉を切って煮込むだけだからね。そういえば鶏肉として肉を使っているけど、どうやらこの世界の鶏肉はニワトリではなさそうなのよね。大きさからして七面鳥とか鳥系の魔物らしい。店では頭を落として皮を剥いだ状態で売られている。


豚肉はオーク系の魔物。牛肉はホーン系の魔物らしいわ。この辺になるとある程度処理された肉の塊なのでよくわからない。まぁ、冒険者では無いのでその辺の知識は無くてもいいかな。

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