第23話

「ファルマ、こっちのお店にも寄りますよ」


そう言われて寄ったお店は生活用品店。生活をするのに必要な物を師匠は買いそろえてくれた。両手に沢山の荷物を持って家に帰る。


「師匠!美味しい料理作るから待っててね!」


「楽しみにしていますよ」


私は早速キッチンに入り、食事の準備をする。まな板や包丁は新品のように綺麗だわ。開き戸を開けると調理道具一式が綺麗に置かれたまま。どうやって生活していたんだろう。


まさか、風魔法で肉を切って火魔法で焼くとか・・・?


それだとある意味凄いわ。


 そういえば、私、この世界に来て1人で料理をしたことがない。火とかは色々ベンヤミンさんが手伝ってくれていたし。とりあえずコンロが使えるかどうかを確かめてみると、魔石を利用したコンロのようで私にも使うことが出来たわ。


調味料は塩はあるけどそれ以外は置いていないみたい。確かベンヤミンさんの厨房にはそこそこ調味料が置いていたのでこの世界に存在しない訳ではない。ただこの家にないだけで。仕方がないわ。色々作るのは調味料が揃ってからね。


まず簡単な物から作るしかないわ。湯剥きしたトマトと玉ねぎ、ニンニクを刻んでから鍋に入れてピューレ状になるまで煮詰める。


そして塩で味を整えてから瓶に詰めておく。もちろん魔法で綺麗にしてから。酢がないのは痛いわ。なんちゃってトマトケチャップが出来たわ。後でビネガーを買い足さないと。


 葉物野菜と人参、玉ねぎ、きのこ、ベーコンを切って鍋に入れて煮込む。塩を入れて味を馴染ませれば野菜スープは大丈夫そうね。そして今日は仕方がないので肉に塩を振ってしばらく置いてから焼き始める。私の好みはミディアムレア。


師匠の好みが分からないのでとりあえず今日は私の好みの焼き方でいいわね。


「師匠!ごはん出来たよ」


 リビングはまだ片付いていないので診察用の片付いた部屋で一緒にご飯を食べる事になった。用意したのは野菜スープと肉とパン。トマトケチャップの出番は明日以降かな。やはり自分で作るごはんっていいわ。師匠ももぐもぐと食べ進めている。


「師匠美味しい?」


「美味しい。何年振りでしょうか。こんなに美味しいと思って食べる食事は」「宿とか泊まった時のごはんはどうしてたの?」


「出かける時は基本的に薬草の事や薬の事で頭が一杯だから味なんて気にしていなかったですね」


そんなものなのかなぁ。


「師匠、今家に調味料がないから明日買ってきていいかな?」


「ええ。私は薬の調合があるので一緒にいけませんが村は治安もいいし、午前中なら大丈夫ですよ」


「分かったー」


 明日からやることが沢山あるわ。やりたい事が多くて困っちゃう。きっと今弟子として薬の調合を覚えるより先に師匠の生活を安定させる事が弟子の私の最優先事項だと思う。


師匠と今日の村の話をしながら楽しく食事を終えて、この日は終了。



 翌日、朝早く起きて朝食の準備をした後に師匠を起こす。師匠の目覚めは良くないようだ。寝ぼけ眼でフラフラと席に着く。もちろん私は師匠に朝の清浄魔法を掛けるのも忘れない。昨日の残りの野菜スープを温め直し、黒パンを少し炙り、目玉焼きとベーコンを焼いた物をテーブルに用意した。


温かい内に食べるのが一番だものね。師匠が朝から驚いているわ。温かい食事がそんなに良かったのかしら?眠気も飛んだようで朝からがっつり食べている傍で私はお茶を淹れる。


「師匠、そんなに急いで食べたら喉に詰めちゃうよ」


「ファルマ、とっても美味しい。ファルマもしっかり食べないと。育ち盛りですからね」


食べながら師匠と今日の予定の話をする。師匠は最近ずっと採取ばかりで薬草が溜まっているので薬の調合に忙しいらしい。お店はとりあえず開けるが、人が来たら呼ぶようにと。そうだよね。


まだ薬のくの字も分からないからね。全然役には立たないわ。


 私は昨日話した通り、まず調味料の買い出しとリビングの掃除。早くリビングで食べたい。そうして朝の内に少しリビングの片づけをして、買い物に出る。昨日は買っていなかった油や酢、重曹、ワイン(料理酒)、といくつかの香草と米を買った。コショウや砂糖は存在するけれど高価でこの村にはないようだ。結構な量を買ったのでお店の人が後で届けてくれるらしい。


家に帰ってお店の人が届けてくれるまでの間、ひたすら片づけとお掃除。


もうっ。師匠ったらなんでこんなところに服を脱ぎ捨てているのっ。


 魔法で一発清浄でもいいんだけど洗って干すのも嫌いじゃないんだよね。洗濯するか、魔法にするか悩んだ末、とりあえず服は一か所にまとめて後で処理する事にした。お昼を過ぎた頃にお店の人が届けてくれたわ。


うっひっひ!待ってました!


 お昼はというと、少し焼き目を付けた黒パンにベーコンと卵、野菜を挟んだサンドイッチにしたわ。手軽に取れるのがいいよね。忙しいし。どうやらサンドイッチはこの世界にはまだ存在しなかったようで師匠はとっても喜んでくれたよ。


残念なのはパンが硬い。最後まで食べきるには相当のあごの疲れがある。とっても筋肉が頑張ってる。よくエラが張らないなって自分でも思うわ。


 ようやくリビングの半分が綺麗になったと思うの。結構広いリビングだったのね。年季の入りかけた汚れ達は清浄魔法を何回か繰り返して新居のような綺麗さを取り戻したわ!半分だけ。


今日はこのくらいにしておく。


 食事をするテーブルと椅子も確保出来たのは大きい。さて、夕飯も頑張らないとね。清浄魔法を使って瓶やはちみつを綺麗にした後、はちみつと米麹を入れて置く。はちみつにはボツリヌス菌のような菌が含まれていることもあるだろうし念のため。


 数日後に作るための用意も忘れずにしないとね。それからボウルに一口サイズの叩いた肉を入れて醤油と白ワインを入れておく。今日はトマトベースの野菜スープを用意したわ。


そろそろチキンブイヨンやコンソメが欲しいと思っている。お掃除がひと段落したら魔力を枯渇させてでも絶対作ろう。


 お肉に味がしみ込んだようなので小麦粉と卵を混ぜて揚げる。大人気、唐揚げだ。ただ、肉が鶏肉ではないからちょっと味は違うけれど絶対美味しいこと間違いなし。そしてマヨネーズを作る。サラダも添えて完成!


「師匠!ごはんが出来たよ」


師匠は私の食事を気に入ってくれたようですぐに部屋から出てきた。


「待っていましたよ。お腹が減って大変でした」


流石師匠、山盛りになった唐揚げが消えていく。マヨネーズをサラダに掛けていたけれど、お肉にも付けると美味しいですよって教えたら秒でマヨネーズが無くなった。


ここに1人またマヨラーが誕生した。


確かに美味しいもの。大きな息子たちも大好きだったわとちょっと昔を思い出してほっこりしてしまったのは内緒。


「ファルマ、貴女は私をマヨネーズの海に溺れさせようとしているね。なんて罪深いんだ」


師匠は震えながら言っている。そんなに美味しかったのか。


「師匠、また作りますね」


「是非!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る